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89.思いつきは周囲を巻き込み

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 リクニス国で盛り上がった結婚騒動は、周辺国にピンク色を撒き散らした。小国の中には、便乗して恩恵に与ろうとするところも現れる。騒動はセントーレア帝国に、いち早く届いた。

「……コルジリネの嫁は変わり者だな」

「せめてやり手と言ってください」

 会議の場で持ち上がった議題に、今回の騒動が足されていた。目を通す貴族の反応は概ね好評だ。国の施策として、一定期間に結婚式を集中させるのはどうかと、議案提起されるほどだった。

 結婚式がバラつくことで、王侯貴族はあちこちへ移動した。辺境伯が結婚するなら辺境へ、中央貴族が結びつくなら帝都へ集まる。それに加えて夏は避暑地、冬は温暖な領地へと民族大移動は複数回発生した。

 その都度、周辺領地が潤うので、移動自体は歓迎される。問題点があるとすれば、貴族が一カ所に集中することの弊害だった。一部の領地が恩恵を享受し、その期間は他方向の商売が滞る。金を落とす貴族は、兵や騎士、使用人を連れて移動するためだ。

 偏る経済を調整するため、課税率を変えたりと対策を行うが、焼け石に水だった。そんな中、今回の結婚ブームは新しい集客の方法として認識される。今まで避暑などの恩恵に与れなかった地域で、結婚式を行ったらどうか。

 祭りも開催できる、と貴族は盛り上がった。やはり領地が廃れていくのは悲しいし、税収の減少は生活の逼迫に直結する。回避しようと考えるのは、領主なら当然だった。

「未来の皇妃殿下は、素晴らしいお方ですな」

 話がまとまると、避暑地の隣の領地を治める侯爵が満面の笑みを浮かべる。海沿いの廃神殿を整備し、式を挙げる会場を作るらしい。

 コルジリネも、最愛の姫を褒められて悪い気はしない。本人の知らぬ場で勝手に評価が上がったが、下がるよりマシだろう。皇帝はにやりと笑い、結婚式の時期を種蒔きの前と定めた。

 リクニス国は収穫後のお祭りと一緒に行うらしく、半年ずれている。セントーレア帝国の花祭りは有名で、観光客も多かった。その人々を、結婚式に絡めて長期滞在させる計画のようだ。

 若い世代の思いつきを、年配者が補正して支える。理想の形で、新しい習慣が生まれようとしていた。

「俺の結婚式も、向こうでお披露目式をしてから……花祭りの時期に帝国で行います」

 リクニス国で先にお披露目をする。誰かが抗議すると思ったが、誰も反対しなかった。ほっとするコルジリネは気づいていない。

 皇帝が裏で手を回し、貴族の反論を潰し終えた後だということを。世界は綺麗事だけで動かない。それを知るには、コルジリネはまだ若かった。
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