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85.誤解が解けてフラグが立つ
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書いてあったのにUPし忘れておりました。ごめんなさい(o´-ω-)o)ペコッ
*********************
タンジー公爵家に届いた、夫人からの手紙。軍隊の報告書に似た、きっちりした文字と硬い文面に目を通し、クレチマスは立ち上がった。
「お兄様?」
「カレンデュラ様に話しておいた方が良さそうだ。リッピアもおいで」
「はい」
準備を始める妹に目を細め、同じ屋敷内にいるカレンデュラへの連絡を頼む。クレチマスとリッピアは、デルフィニューム公爵家に滞在していた。リッピアが温室の花を気に入ったようで、居心地が良いのも手伝い長居になっている。
両親が戦時中と同じ体制を敷き、砦へ向かったのに申し訳ない。そう考えていたクレチマスは、予想外の文面に肩の力を抜いた。至急と書いた手紙が届いたので、戦端を開いたかと心配した。
どの物語に関係あるか不明だが、世界は存外平和が似合うようだ。強制力が存在するなら、この状況も納得できるし歓迎だった。
準備の整った義妹と腕を組み、温室へ向かう。こちらから訪ねるより、落ち合ってお茶会をした方がいい。カレンデュラとティアレラはまだ到着しておらず、クレチマスは義妹を椅子に座らせた。
彼女の足を飾る編み上げ靴のリボンが解けている。膝をついて、リボンを結び直した。立ち上がったところに、二人の淑女が到着する。
「あら、仲のよろしいこと」
「今のお姿は惚れ直すのではなくて? リッピア様」
リッピアは頬をほんのりと赤く染め、小さく頷いた。可愛らしいと愛でる二人に、そのくらいにしてやってくれと目で合図を送る。全員が着座すると、公爵家の侍女がお茶を並べた。貴族というのは、何かといえばお茶を飲む。種類も器も豊富に揃えるのが、財力の示し方でもあった。
初めて見る薄紫のカップに、淡い緑のお茶が注がれる。ポットはガラス製で、お茶の水色を目で楽しめるよう工夫していた。
「タンジー公爵領から、手紙が届いたと聞きましたわ」
本題に入ったカレンデュラに、クレチマスは手紙の内容をかいつまんで説明した。
母である公爵夫人によれば、エキナセア神聖国は新たな国主が決まらないらしい。混乱をきたし、民が流出し続けていた。少し前の災害が大きな影響を与えており、このままなら一神教の国は崩壊しかねない。
ジキタリス子爵家の話が添えられていた。子爵夫人はエキナセア神聖国出身だ。その点を国王フィゲリウス、デルフィニューム公爵オスヴァルドの二人は懸念した。警戒対象と考えるのは、カレンデュラ達も同様だ。他国への侵略ではないか、と睨んでいた。
その原因となったのが、エキナセア神聖国からセントーレア帝国に嫁ぎ、騒動を起こした令嬢の話だ。それも含め、タンジー公爵家の密偵のつかんだ話が公開された。
セントーレア帝国で騒動を起こした女性は、そもそもエキナセア神聖国を追放されている。女神の名を使い、聖女を名乗った罪だった。そんな女性なのだから、運よく国外に嫁いでも大人しくするわけがない。
「つまり……もしかしなくても……」
「私達、フラグを立てたのね」
顔を見合わせたティアレラとカレンデュラは、がくりと肩を落とした。このお茶とても美味しいわ、無邪気に楽しむリッピアにクレチマスはお菓子を差し出す。
温室のお茶会は、想定外の温度差が生じていた。
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タンジー公爵家に届いた、夫人からの手紙。軍隊の報告書に似た、きっちりした文字と硬い文面に目を通し、クレチマスは立ち上がった。
「お兄様?」
「カレンデュラ様に話しておいた方が良さそうだ。リッピアもおいで」
「はい」
準備を始める妹に目を細め、同じ屋敷内にいるカレンデュラへの連絡を頼む。クレチマスとリッピアは、デルフィニューム公爵家に滞在していた。リッピアが温室の花を気に入ったようで、居心地が良いのも手伝い長居になっている。
両親が戦時中と同じ体制を敷き、砦へ向かったのに申し訳ない。そう考えていたクレチマスは、予想外の文面に肩の力を抜いた。至急と書いた手紙が届いたので、戦端を開いたかと心配した。
どの物語に関係あるか不明だが、世界は存外平和が似合うようだ。強制力が存在するなら、この状況も納得できるし歓迎だった。
準備の整った義妹と腕を組み、温室へ向かう。こちらから訪ねるより、落ち合ってお茶会をした方がいい。カレンデュラとティアレラはまだ到着しておらず、クレチマスは義妹を椅子に座らせた。
彼女の足を飾る編み上げ靴のリボンが解けている。膝をついて、リボンを結び直した。立ち上がったところに、二人の淑女が到着する。
「あら、仲のよろしいこと」
「今のお姿は惚れ直すのではなくて? リッピア様」
リッピアは頬をほんのりと赤く染め、小さく頷いた。可愛らしいと愛でる二人に、そのくらいにしてやってくれと目で合図を送る。全員が着座すると、公爵家の侍女がお茶を並べた。貴族というのは、何かといえばお茶を飲む。種類も器も豊富に揃えるのが、財力の示し方でもあった。
初めて見る薄紫のカップに、淡い緑のお茶が注がれる。ポットはガラス製で、お茶の水色を目で楽しめるよう工夫していた。
「タンジー公爵領から、手紙が届いたと聞きましたわ」
本題に入ったカレンデュラに、クレチマスは手紙の内容をかいつまんで説明した。
母である公爵夫人によれば、エキナセア神聖国は新たな国主が決まらないらしい。混乱をきたし、民が流出し続けていた。少し前の災害が大きな影響を与えており、このままなら一神教の国は崩壊しかねない。
ジキタリス子爵家の話が添えられていた。子爵夫人はエキナセア神聖国出身だ。その点を国王フィゲリウス、デルフィニューム公爵オスヴァルドの二人は懸念した。警戒対象と考えるのは、カレンデュラ達も同様だ。他国への侵略ではないか、と睨んでいた。
その原因となったのが、エキナセア神聖国からセントーレア帝国に嫁ぎ、騒動を起こした令嬢の話だ。それも含め、タンジー公爵家の密偵のつかんだ話が公開された。
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「つまり……もしかしなくても……」
「私達、フラグを立てたのね」
顔を見合わせたティアレラとカレンデュラは、がくりと肩を落とした。このお茶とても美味しいわ、無邪気に楽しむリッピアにクレチマスはお菓子を差し出す。
温室のお茶会は、想定外の温度差が生じていた。
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