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74.聖女ビオラの使い道
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「ああ、そういうことか」
きょとんとした三人の中で、リッピアの発言の意味を察したのは、クレチマスだった。なるほどと頷いているので、首を傾げて説明を促す。
「災害地で支援した実績だ。あれを利用するには、聖女ビオラを己の陣営に引き込む必要がある」
現在の教皇派は苦しい立場に置かれている。教皇猊下の死で影響力は薄れ、一強の地位から転落しかかっていた。そこでビオラが持ち込んだ支援を、自分達の功績にしようと考えたのだ。
「短絡的すぎるわ」
「さすがに陛下も黙っていないでしょうね」
カレンデュラとティアレラは、なるほどと頷きながらも呆れ顔だ。支援物資はすべて、リクニス国から運ばれた。その話は現地でも知られており、数の多い新興派も承知している。その状態で、功績の乗っ取りを図るなんて。
さすがに、馬鹿王太子ローランドでもしないと思うわ。すぐバレる嘘でも、国家ぐるみで隠蔽したらイケる! と思ったのかしら。もしビオラを手中に収めても、彼女は素直に従わない。その点は信用できた。
多少隠し事があっても、都合よく話を捻じ曲げたとしても。日本人としての誇りは捨てていなかった。実際、嘘をついたと謝罪されたカレンデュラは、ビオラを許している。
危険だと知りながら、隣国の被災者を助けに乗り込む。その度胸の良さと勇気も買っていた。
「まあ、あの支援が彼女の命を救ったのなら……よかったわ」
カレンデュラはそう付け足した。ちょうど今頃、ビオラは神殿に迎え入れられているはずだ。多額の寄付金を持たせた公爵家の騎士が同行し、神殿も迎えの騎士団を派遣した。たとえ神殿の迎えの対象が寄付金であっても、セットになったビオラを粗雑に扱うことはない。
ビオラの様子を確かめるため、定期的に使者を送ると通達も出した。デルフィニューム公爵家の意向に逆らってまで、ビオラを敵に渡すことはないだろう。一神教のエキナセア神聖国とは、相容れない教義を持つ神殿だ。独自の兵力も所有している。
「ビオラの安全は確保できたわ。こちらはホスタ王国の向こうにあるカラミンサ公国の心配を始めましょうか」
カレンデュラに言われ、ティアレラが考え込んだ。
「本当にカラミンサ公国は動くでしょうか。私はどちらかというと……ジキタリス子爵の方が心配です」
「ジキタリス子爵家は、タンジー公爵家の分家だ。何か不安要素があれば、教えてくれ」
クレチマスが口を挟み、他国から配偶者を受け入れた貴族の話が始まる。ここ十数年、極端に数が増えていた。
不和の種は昔に植えられ、徐々に芽吹いたのではないか。父が国王と調べたリストの写しを提示し、カレンデュラは懸念を丁寧に説明し始めた。各国がどう動き、世界がどう壊れていくのか。それにより『コロ.ナリア建国記』に話が繋がる可能性も含めて。
きょとんとした三人の中で、リッピアの発言の意味を察したのは、クレチマスだった。なるほどと頷いているので、首を傾げて説明を促す。
「災害地で支援した実績だ。あれを利用するには、聖女ビオラを己の陣営に引き込む必要がある」
現在の教皇派は苦しい立場に置かれている。教皇猊下の死で影響力は薄れ、一強の地位から転落しかかっていた。そこでビオラが持ち込んだ支援を、自分達の功績にしようと考えたのだ。
「短絡的すぎるわ」
「さすがに陛下も黙っていないでしょうね」
カレンデュラとティアレラは、なるほどと頷きながらも呆れ顔だ。支援物資はすべて、リクニス国から運ばれた。その話は現地でも知られており、数の多い新興派も承知している。その状態で、功績の乗っ取りを図るなんて。
さすがに、馬鹿王太子ローランドでもしないと思うわ。すぐバレる嘘でも、国家ぐるみで隠蔽したらイケる! と思ったのかしら。もしビオラを手中に収めても、彼女は素直に従わない。その点は信用できた。
多少隠し事があっても、都合よく話を捻じ曲げたとしても。日本人としての誇りは捨てていなかった。実際、嘘をついたと謝罪されたカレンデュラは、ビオラを許している。
危険だと知りながら、隣国の被災者を助けに乗り込む。その度胸の良さと勇気も買っていた。
「まあ、あの支援が彼女の命を救ったのなら……よかったわ」
カレンデュラはそう付け足した。ちょうど今頃、ビオラは神殿に迎え入れられているはずだ。多額の寄付金を持たせた公爵家の騎士が同行し、神殿も迎えの騎士団を派遣した。たとえ神殿の迎えの対象が寄付金であっても、セットになったビオラを粗雑に扱うことはない。
ビオラの様子を確かめるため、定期的に使者を送ると通達も出した。デルフィニューム公爵家の意向に逆らってまで、ビオラを敵に渡すことはないだろう。一神教のエキナセア神聖国とは、相容れない教義を持つ神殿だ。独自の兵力も所有している。
「ビオラの安全は確保できたわ。こちらはホスタ王国の向こうにあるカラミンサ公国の心配を始めましょうか」
カレンデュラに言われ、ティアレラが考え込んだ。
「本当にカラミンサ公国は動くでしょうか。私はどちらかというと……ジキタリス子爵の方が心配です」
「ジキタリス子爵家は、タンジー公爵家の分家だ。何か不安要素があれば、教えてくれ」
クレチマスが口を挟み、他国から配偶者を受け入れた貴族の話が始まる。ここ十数年、極端に数が増えていた。
不和の種は昔に植えられ、徐々に芽吹いたのではないか。父が国王と調べたリストの写しを提示し、カレンデュラは懸念を丁寧に説明し始めた。各国がどう動き、世界がどう壊れていくのか。それにより『コロ.ナリア建国記』に話が繋がる可能性も含めて。
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