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69.事前準備は怠らない
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コルジリネに書いた手紙の返事を待つ間、カレンデュラは王フィゲリウスとの謁見を願い出た。今回わかっているだけでも、リクニス国が滅びる可能性は高い。その事実を隠しておくより、共有する方が対策を立てやすかった。
何より、不確定な事実であっても、知らないより知っている方がいい。何も起きなければそれで構わないし、起きた時は知っているだけで決断が早くなる。カレンデュラが出かけると聞いて、ビオラはがっかりした。
「明日、一緒にお茶にしましょうか」
もちろんティアレラも誘って。付け加えた情報に、ビオラも喜んだ。今日は男爵夫妻に会ってくると笑う。明日のお茶会を楽しみに、彼女は義両親とのお出かけに向かった。
先に出発したカレンデュラがいない上、ビオラも不在。ティアレラは窓辺で溜め息を吐いた。クレチマスは婚約者リッピアと共に、ゆったり過ごすようで。邪魔をするのも気が引けた。
「何もすることがないわ」
むっとした表情で呟くと、お茶を用意する侍女が微笑んだ。
「旦那様より伝言を預かっております。もしお暇でしたら、騎士達との手合わせをお願いしたい、と」
公爵オスヴァルドは、ティアレラの性格を見抜いていたらしい。体を動かすのが好きな辺境伯令嬢の強さを、自領の騎士に分けてほしい。素直にそう考えた。
「いいわね、体を動かすのは好きよ」
ティアレラは深く考えずに受け入れた。辺境伯領から馬車で来た。ビオラが一緒なので仕方ないが、いつもなら騎乗してすぐの距離だ。馬車の中は退屈で、体を動かせる広さもなかった。
運動不足になった体を慣らすのにちょうどいい。侍女に頼んで、乗馬服に着替えた。荷物になるので、あまり服を持ってきていない。辺境伯家の所有する屋敷まで戻る手間を惜しんだ。
騎士達に歓迎されながらティアレラが手合わせを始めた同時刻、カレンデュラは王宮内で絡まれていた。
「これはこれはデルフィニューム公爵令嬢ではありませんか。あなたのご活躍のお陰で、第一王子殿下が失脚なさって……」
「その話、まだ続きますの?」
ぱちんと扇を畳んで話を折る。顔を赤くして何か怒鳴る腹の大きな男に、美女はぴしゃりと言い放った。
「名乗らぬ失礼、目上に勝手に話しかけた無礼、国王陛下との謁見に向かう公爵令嬢の前を塞いだ非礼……どう償うのか。とても楽しみよ」
絶句した男は、謁見のことを知らなかったようだ。ある意味当然だが、吹聴して歩くことでもない。固まった男へ、カレンデュラは最終通告を放った。
「そこをどきなさい」
命じる声に、重なったのは国王の声。
「遅いと思い迎えにくれば……絡まれておったのか」
振り返り、国王の姿にぱくぱくと言い訳の口が開く。フィゲリウスは「うるさい」の一言で却下し、男を護衛に片付けさせた。カレンデュラに腕を差し出し、エスコートを申し出る。微笑んだ彼女を連れて、フィゲリウスは執務室へ向かった。
それから数日後、オスヴァルドが王宮へ出向くと、この騒ぎはすでに噂になっていた。曰く、この国の新たな女帝誕生……という尾鰭背鰭が大量に揺れる化け物に成長して。
何より、不確定な事実であっても、知らないより知っている方がいい。何も起きなければそれで構わないし、起きた時は知っているだけで決断が早くなる。カレンデュラが出かけると聞いて、ビオラはがっかりした。
「明日、一緒にお茶にしましょうか」
もちろんティアレラも誘って。付け加えた情報に、ビオラも喜んだ。今日は男爵夫妻に会ってくると笑う。明日のお茶会を楽しみに、彼女は義両親とのお出かけに向かった。
先に出発したカレンデュラがいない上、ビオラも不在。ティアレラは窓辺で溜め息を吐いた。クレチマスは婚約者リッピアと共に、ゆったり過ごすようで。邪魔をするのも気が引けた。
「何もすることがないわ」
むっとした表情で呟くと、お茶を用意する侍女が微笑んだ。
「旦那様より伝言を預かっております。もしお暇でしたら、騎士達との手合わせをお願いしたい、と」
公爵オスヴァルドは、ティアレラの性格を見抜いていたらしい。体を動かすのが好きな辺境伯令嬢の強さを、自領の騎士に分けてほしい。素直にそう考えた。
「いいわね、体を動かすのは好きよ」
ティアレラは深く考えずに受け入れた。辺境伯領から馬車で来た。ビオラが一緒なので仕方ないが、いつもなら騎乗してすぐの距離だ。馬車の中は退屈で、体を動かせる広さもなかった。
運動不足になった体を慣らすのにちょうどいい。侍女に頼んで、乗馬服に着替えた。荷物になるので、あまり服を持ってきていない。辺境伯家の所有する屋敷まで戻る手間を惜しんだ。
騎士達に歓迎されながらティアレラが手合わせを始めた同時刻、カレンデュラは王宮内で絡まれていた。
「これはこれはデルフィニューム公爵令嬢ではありませんか。あなたのご活躍のお陰で、第一王子殿下が失脚なさって……」
「その話、まだ続きますの?」
ぱちんと扇を畳んで話を折る。顔を赤くして何か怒鳴る腹の大きな男に、美女はぴしゃりと言い放った。
「名乗らぬ失礼、目上に勝手に話しかけた無礼、国王陛下との謁見に向かう公爵令嬢の前を塞いだ非礼……どう償うのか。とても楽しみよ」
絶句した男は、謁見のことを知らなかったようだ。ある意味当然だが、吹聴して歩くことでもない。固まった男へ、カレンデュラは最終通告を放った。
「そこをどきなさい」
命じる声に、重なったのは国王の声。
「遅いと思い迎えにくれば……絡まれておったのか」
振り返り、国王の姿にぱくぱくと言い訳の口が開く。フィゲリウスは「うるさい」の一言で却下し、男を護衛に片付けさせた。カレンデュラに腕を差し出し、エスコートを申し出る。微笑んだ彼女を連れて、フィゲリウスは執務室へ向かった。
それから数日後、オスヴァルドが王宮へ出向くと、この騒ぎはすでに噂になっていた。曰く、この国の新たな女帝誕生……という尾鰭背鰭が大量に揺れる化け物に成長して。
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