63 / 100
63.元日本人は公爵家に集う
しおりを挟む
それぞれの屋敷から、デルフィニューム公爵家に集まる。王宮を使う案も出たが、日本の話をするのに不都合と判断された。
タンジー公爵家の二人は、仲良く馬車に揺られて現れる。カージナリス辺境伯家のティアレラは、今回単独で王都に来た。婚約者のシオンは辺境伯領に残している。騎士達の訓練に加わる彼は鍛錬に精を出すのだろう。
聖女ビオラはティアレラに同行し、途中でラックス男爵家に顔を見せた。男爵夫妻に挨拶し、すぐに荷物を抱えて馬車に戻ってくる。二人はデルフィニューム公爵家に滞在予定だった。
「何が入ってるの?」
「えっとね、ぬいぐるみとパジャマよ」
「え? パジャマ売ってる?」
この世界では貴族令嬢の部屋着はネグリジェのようなロングワンピースだ。腰はスカーフに似た布で縛り、眠る時は解く。すぽんと上から被るAラインが主流だった。
「作ったんです、ほら」
得意げにビオラは取り出す。自分で縫ったという言葉通り、少しばかり不器用さが覗くが、よくできていた。
「へぇ……これって販売したら?」
「そういう知識チート作品嫌いなんですよ」
馬車に揺られる二日の間に、二人はすっかり仲良くなっていた。爵位関係なく、女友達としての親しさで話が進む。結局、パジャマは自分達の分だけ作ることに決まった。
「ねえ、カレンデュラ様は帝国へ嫁いじゃうのよね」
残念そうにビオラが呟く。男爵家の養女では、その後を追うことは無理だ。セントーレア帝国にツテもなければ、嫁ぎ先を探しても近づける気がしなかった。男爵家の養女は子爵家以上と婚姻できない。未来の皇妃になるカレンデュラに、帝国で話しかける未来はこないのだ。
「そうね。寂しいけれど、幸せになっていただきたいわ」
ティアレラはその点、割り切っていた。友情を育んでも、この世界では距離がある。女性は婚姻する相手によって、所属する国や派閥が決まるのだ。友情は手紙のやり取りが精々だろう。
男性の友情と違い、婚姻や出産、派閥で友情が途切れる事例を知っていた。だから割り切って、幸せになってくれたらそれでいいと考えるのだ。ビオラはまだ前世の記憶の方が強いのか、ずっと友人でいられたらいいと夢を語る。
ここで、馬車が公爵家の敷地に入った。花壇を回り込み、噴水前に横付けする。窓から景色を眺めるビオラが感嘆の声を上げた。
「すっごい、お貴族様の家って感じよね」
「……あなたも一応貴族よ」
表現がおかしくて、吹き出しそうになるのを堪えながら返す。ぐっと頬に力を入れるが、唇や目元が震えるのは押さえきれなかった。
「ようこそ、お二人とも。客間を用意したわ」
迎えるカレンデュラの声に一礼し、二人は順番に降りた。カーテシーを披露して辺境伯令嬢らしく振る舞うティアレラ。ビオラは日本式の深く腰を折る礼で応じた。
「お世話になります」
「タンジー公爵家のお二人は到着しました。こちらへどうぞ。先に客間へお通しして頂戴」
執事が頭を下げて応じ、二人を案内する。その間にカレンデュラは用意させた部屋に向かった。タンジー公爵家のお二人に、友人達の到着を伝えるために。
タンジー公爵家の二人は、仲良く馬車に揺られて現れる。カージナリス辺境伯家のティアレラは、今回単独で王都に来た。婚約者のシオンは辺境伯領に残している。騎士達の訓練に加わる彼は鍛錬に精を出すのだろう。
聖女ビオラはティアレラに同行し、途中でラックス男爵家に顔を見せた。男爵夫妻に挨拶し、すぐに荷物を抱えて馬車に戻ってくる。二人はデルフィニューム公爵家に滞在予定だった。
「何が入ってるの?」
「えっとね、ぬいぐるみとパジャマよ」
「え? パジャマ売ってる?」
この世界では貴族令嬢の部屋着はネグリジェのようなロングワンピースだ。腰はスカーフに似た布で縛り、眠る時は解く。すぽんと上から被るAラインが主流だった。
「作ったんです、ほら」
得意げにビオラは取り出す。自分で縫ったという言葉通り、少しばかり不器用さが覗くが、よくできていた。
「へぇ……これって販売したら?」
「そういう知識チート作品嫌いなんですよ」
馬車に揺られる二日の間に、二人はすっかり仲良くなっていた。爵位関係なく、女友達としての親しさで話が進む。結局、パジャマは自分達の分だけ作ることに決まった。
「ねえ、カレンデュラ様は帝国へ嫁いじゃうのよね」
残念そうにビオラが呟く。男爵家の養女では、その後を追うことは無理だ。セントーレア帝国にツテもなければ、嫁ぎ先を探しても近づける気がしなかった。男爵家の養女は子爵家以上と婚姻できない。未来の皇妃になるカレンデュラに、帝国で話しかける未来はこないのだ。
「そうね。寂しいけれど、幸せになっていただきたいわ」
ティアレラはその点、割り切っていた。友情を育んでも、この世界では距離がある。女性は婚姻する相手によって、所属する国や派閥が決まるのだ。友情は手紙のやり取りが精々だろう。
男性の友情と違い、婚姻や出産、派閥で友情が途切れる事例を知っていた。だから割り切って、幸せになってくれたらそれでいいと考えるのだ。ビオラはまだ前世の記憶の方が強いのか、ずっと友人でいられたらいいと夢を語る。
ここで、馬車が公爵家の敷地に入った。花壇を回り込み、噴水前に横付けする。窓から景色を眺めるビオラが感嘆の声を上げた。
「すっごい、お貴族様の家って感じよね」
「……あなたも一応貴族よ」
表現がおかしくて、吹き出しそうになるのを堪えながら返す。ぐっと頬に力を入れるが、唇や目元が震えるのは押さえきれなかった。
「ようこそ、お二人とも。客間を用意したわ」
迎えるカレンデュラの声に一礼し、二人は順番に降りた。カーテシーを披露して辺境伯令嬢らしく振る舞うティアレラ。ビオラは日本式の深く腰を折る礼で応じた。
「お世話になります」
「タンジー公爵家のお二人は到着しました。こちらへどうぞ。先に客間へお通しして頂戴」
執事が頭を下げて応じ、二人を案内する。その間にカレンデュラは用意させた部屋に向かった。タンジー公爵家のお二人に、友人達の到着を伝えるために。
172
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話
下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。
主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】「神様、辞めました〜竜神の愛し子に冤罪を着せ投獄するような人間なんてもう知らない」
まほりろ
恋愛
王太子アビー・シュトースと聖女カーラ・ノルデン公爵令嬢の結婚式当日。二人が教会での誓いの儀式を終え、教会の扉を開け外に一歩踏み出したとき、国中の壁や窓に不吉な文字が浮かび上がった。
【本日付けで神を辞めることにした】
フラワーシャワーを巻き王太子と王太子妃の結婚を祝おうとしていた参列者は、突然現れた文字に驚きを隠せず固まっている。
国境に壁を築きモンスターの侵入を防ぎ、結界を張り国内にいるモンスターは弱体化させ、雨を降らせ大地を潤し、土地を豊かにし豊作をもたらし、人間の体を強化し、生活が便利になるように魔法の力を授けた、竜神ウィルペアトが消えた。
人々は三カ月前に冤罪を着せ、|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせ、石を投げつけ投獄した少女が、本物の【竜の愛し子】だと分かり|戦慄《せんりつ》した。
「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」
アルファポリスに先行投稿しています。
表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
2021/12/13、HOTランキング3位、12/14総合ランキング4位、恋愛3位に入りました! ありがとうございます!

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。
金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。
前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう?
私の願い通り滅びたのだろうか?
前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。
緩い世界観の緩いお話しです。
ご都合主義です。
*タイトル変更しました。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる