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63.元日本人は公爵家に集う

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 それぞれの屋敷から、デルフィニューム公爵家に集まる。王宮を使う案も出たが、日本の話をするのに不都合と判断された。

 タンジー公爵家の二人は、仲良く馬車に揺られて現れる。カージナリス辺境伯家のティアレラは、今回単独で王都に来た。婚約者のシオンは辺境伯領に残している。騎士達の訓練に加わる彼は鍛錬に精を出すのだろう。

 聖女ビオラはティアレラに同行し、途中でラックス男爵家に顔を見せた。男爵夫妻に挨拶し、すぐに荷物を抱えて馬車に戻ってくる。二人はデルフィニューム公爵家に滞在予定だった。

「何が入ってるの?」

「えっとね、ぬいぐるみとパジャマよ」

「え? パジャマ売ってる?」

 この世界では貴族令嬢の部屋着はネグリジェのようなロングワンピースだ。腰はスカーフに似た布で縛り、眠る時は解く。すぽんと上から被るAラインが主流だった。

「作ったんです、ほら」

 得意げにビオラは取り出す。自分で縫ったという言葉通り、少しばかり不器用さが覗くが、よくできていた。

「へぇ……これって販売したら?」

「そういう知識チート作品嫌いなんですよ」

 馬車に揺られる二日の間に、二人はすっかり仲良くなっていた。爵位関係なく、女友達としての親しさで話が進む。結局、パジャマは自分達の分だけ作ることに決まった。

「ねえ、カレンデュラ様は帝国へ嫁いじゃうのよね」

 残念そうにビオラが呟く。男爵家の養女では、その後を追うことは無理だ。セントーレア帝国にツテもなければ、嫁ぎ先を探しても近づける気がしなかった。男爵家の養女は子爵家以上と婚姻できない。未来の皇妃になるカレンデュラに、帝国で話しかける未来はこないのだ。

「そうね。寂しいけれど、幸せになっていただきたいわ」

 ティアレラはその点、割り切っていた。友情を育んでも、この世界では距離がある。女性は婚姻する相手によって、所属する国や派閥が決まるのだ。友情は手紙のやり取りが精々だろう。

 男性の友情と違い、婚姻や出産、派閥で友情が途切れる事例を知っていた。だから割り切って、幸せになってくれたらそれでいいと考えるのだ。ビオラはまだ前世の記憶の方が強いのか、ずっと友人でいられたらいいと夢を語る。

 ここで、馬車が公爵家の敷地に入った。花壇を回り込み、噴水前に横付けする。窓から景色を眺めるビオラが感嘆の声を上げた。

「すっごい、お貴族様の家って感じよね」

「……あなたも一応貴族よ」

 表現がおかしくて、吹き出しそうになるのを堪えながら返す。ぐっと頬に力を入れるが、唇や目元が震えるのは押さえきれなかった。

「ようこそ、お二人とも。客間を用意したわ」

 迎えるカレンデュラの声に一礼し、二人は順番に降りた。カーテシーを披露して辺境伯令嬢らしく振る舞うティアレラ。ビオラは日本式の深く腰を折る礼で応じた。

「お世話になります」

「タンジー公爵家のお二人は到着しました。こちらへどうぞ。先に客間へお通しして頂戴」

 執事が頭を下げて応じ、二人を案内する。その間にカレンデュラは用意させた部屋に向かった。タンジー公爵家のお二人に、友人達の到着を伝えるために。
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