61 / 100
61.王子の覚悟、囚われの侍女
しおりを挟む
タンジー公爵家の所有する砦に到着したユリウスは、その光景に目を見開いた。集まっているのは大量の難民で、受け入れる人数に限度があるため、ほとんどは塀の外側にいる。
「隣国で何が起きたんだ?」
見渡せる砦の上部で、ぽつりと呟いた王子に公爵夫人が答えた。鎧を纏い凛とした立ち姿の彼女は、丁寧に説明する。
「あちらは受け入れを決めた者たち、こちらは断った者です。エキナセア神聖国の教皇猊下が亡くなったそうです。国の中心人物が倒れたことで、崩壊したのでしょう」
そこで言葉を止め、反応を確かめる。彼女は噂も聞いたことがない第二王子を試していた。結果次第で、今後の王家との付き合いが変わる。元辺境伯だったため、タンジー公爵家は国防に関する意識が高い。
愚かな王を抱いて、共倒れする気はなかった。第一王子ローランドが王族籍剥奪となった今、第二王子ユリウスが繰り上がる。二代続けて愚者が王に立つなら、王家の血統を入れ替えるべきだ。別の……優秀な血筋を混ぜるのではなく、王家の交代で用が足りる。
「神聖国の教皇猊下は、王と同じ……王が倒れたとしても、次の後継者がいるはずだ。なぜ国が揺らぐ?」
驚いた公爵夫人は、続いて口元を緩めた。きちんとした教育も受けていないのでは? と疑ったが、着眼点は悪くない。
何より、鎧姿の公爵夫人に苦言を呈するでもなく、戦時中であると理解して対応する。状況を把握して臨機応変に振る舞う姿は、公爵夫人の及第点を上回った。
「学ぶ気はありますか?」
王として学ぶ気があれば、タンジー公爵家が後ろ盾になる。その代わり、厳しい教育が待っていた。義息子に迎えたクレチマスは優秀だったが、それでもかなり苦労して学んでいる。もっと短い時間で、一気に叩き込んで覚えさせる予定を頭の中で組み立てた。
ぎりぎり、間に合うか。
「民のため、国のため。頂点に立って人々に憎まれる覚悟がおありなら……支えましょう」
公爵夫人は、わざと嫌な表現を選ぶ。国の頂点に立つ王は、国を守る生贄だ。どんな言葉で取り繕っても、できて当たり前で失敗すれば責められる立場だった。愛する女性を諦めて政略結婚し、生まれた我が子に同じ定めを強いる。
滅びた小国の王女だった公爵夫人は、その覚悟を問うた。ここで美辞麗句を用いて誤魔化しても、すぐに剥がれるのだから。
「私は、まだ王の覚悟に足りない。だが皆が幸せになる手伝いはしたいと思う。鍛えてくれないか? 吸収できない阿呆なら切り捨ててくれ」
正直に答えたユリウスに、公爵夫人は鎧の胸に手を当てて、騎士の敬礼を送った。
「失敗した……」
リクニス国から聖女が支援に向かった。その話を聞いて、隣国へ亡命するために利用する。追加の支援物資を送る馬車に同行し、途中で姿を消そうと試みた。成功したかに思えたが、突然捕えられる。
「聖女様を保護したぞ」
大喜びする神殿服の聖職者は、こちらの話を聞かない。神殿騎士によって護送という名称の連行を受け、神殿内の塔に閉じ込められた。螺旋階段しかない塔の上部は、部屋が一つだけ。飛び降りることも不可能な小さな窓は、明かり取りか。
亡命に近い状態だが、思っていたのと違う。ネモローサは唇を噛んで、己の運のなさを嘆いた。
「隣国で何が起きたんだ?」
見渡せる砦の上部で、ぽつりと呟いた王子に公爵夫人が答えた。鎧を纏い凛とした立ち姿の彼女は、丁寧に説明する。
「あちらは受け入れを決めた者たち、こちらは断った者です。エキナセア神聖国の教皇猊下が亡くなったそうです。国の中心人物が倒れたことで、崩壊したのでしょう」
そこで言葉を止め、反応を確かめる。彼女は噂も聞いたことがない第二王子を試していた。結果次第で、今後の王家との付き合いが変わる。元辺境伯だったため、タンジー公爵家は国防に関する意識が高い。
愚かな王を抱いて、共倒れする気はなかった。第一王子ローランドが王族籍剥奪となった今、第二王子ユリウスが繰り上がる。二代続けて愚者が王に立つなら、王家の血統を入れ替えるべきだ。別の……優秀な血筋を混ぜるのではなく、王家の交代で用が足りる。
「神聖国の教皇猊下は、王と同じ……王が倒れたとしても、次の後継者がいるはずだ。なぜ国が揺らぐ?」
驚いた公爵夫人は、続いて口元を緩めた。きちんとした教育も受けていないのでは? と疑ったが、着眼点は悪くない。
何より、鎧姿の公爵夫人に苦言を呈するでもなく、戦時中であると理解して対応する。状況を把握して臨機応変に振る舞う姿は、公爵夫人の及第点を上回った。
「学ぶ気はありますか?」
王として学ぶ気があれば、タンジー公爵家が後ろ盾になる。その代わり、厳しい教育が待っていた。義息子に迎えたクレチマスは優秀だったが、それでもかなり苦労して学んでいる。もっと短い時間で、一気に叩き込んで覚えさせる予定を頭の中で組み立てた。
ぎりぎり、間に合うか。
「民のため、国のため。頂点に立って人々に憎まれる覚悟がおありなら……支えましょう」
公爵夫人は、わざと嫌な表現を選ぶ。国の頂点に立つ王は、国を守る生贄だ。どんな言葉で取り繕っても、できて当たり前で失敗すれば責められる立場だった。愛する女性を諦めて政略結婚し、生まれた我が子に同じ定めを強いる。
滅びた小国の王女だった公爵夫人は、その覚悟を問うた。ここで美辞麗句を用いて誤魔化しても、すぐに剥がれるのだから。
「私は、まだ王の覚悟に足りない。だが皆が幸せになる手伝いはしたいと思う。鍛えてくれないか? 吸収できない阿呆なら切り捨ててくれ」
正直に答えたユリウスに、公爵夫人は鎧の胸に手を当てて、騎士の敬礼を送った。
「失敗した……」
リクニス国から聖女が支援に向かった。その話を聞いて、隣国へ亡命するために利用する。追加の支援物資を送る馬車に同行し、途中で姿を消そうと試みた。成功したかに思えたが、突然捕えられる。
「聖女様を保護したぞ」
大喜びする神殿服の聖職者は、こちらの話を聞かない。神殿騎士によって護送という名称の連行を受け、神殿内の塔に閉じ込められた。螺旋階段しかない塔の上部は、部屋が一つだけ。飛び降りることも不可能な小さな窓は、明かり取りか。
亡命に近い状態だが、思っていたのと違う。ネモローサは唇を噛んで、己の運のなさを嘆いた。
195
お気に入りに追加
694
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる