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59.忘れられた物語
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ティアレラは手元の情報を並べ、時系列で確認していく。カレンデュラの案で、エキナセア神聖国を内側から崩そうとした。その前段階で、セントーレア帝国が神聖国に介入済みだ。
教皇派と聖女派が対立し、荒れる国内から新興派が現れる。民の生活を優先し、信仰を後回しにした派閥は勢力を伸ばした。それだけ政が蔑ろにされていた証であり、同時に国内の貧富の差に不満を持つ者が多かったのだろう。
金や権力はないが、人数の多い新興派はあっという間に国内最大勢力となった。数は力、神殿騎士であっても多勢に無勢だ。しかし新興派は金もなければ、物資もない。飢える民を救う建前で、聖女ビオラが隣国リクニスから助けに入った。
この時点で警戒されたものの、ビオラは持ち前の明るさと平民っぽさを利用して入り込む。炊き出しを行い、治療を手伝った。
感謝されるビオラの存在は、教皇派も聖女派も邪魔である。他国の聖女に助けられた、など聖女派にしたら屈辱だった。聖女という存在が崇められることに、危機感を持つのは教皇派だ。国内の聖女派も認めないのに、他国の聖女など論外だった。
ここで敵同士の両派閥に、共通の排除目標ができる。神殿騎士を動かしたのは、どちらだったのか。ビオラは新興派に救われて、無事にリクニス国へ脱出した。
ここまで書き記したティアレラは、眉を寄せた。
教皇が亡くなった情報は、逃げてきた特権階級からタンジー公爵家が得た。信じるとして、どこの時点で教皇が死んだのか。後釜は誰で、いつ表に出てくるのだろう。
慎重に事態を見極めて動かないと、国を揺るがす大事件に発展しかねない。そもそも教皇の地位を狙う者は複数いるはずで、その座が空席になることはないはず。現時点で、誰かがすでに座っていると考えるのが正しい。
「面倒だわ」
新しい教皇の情報を手に入れる必要があるし、新興派がどう動くのか調べたい。諜報に関わる者は潜ませているが、動かして危険はないか。考えれば考えるほど、危ない気がした。
「しばらく静観? でも手遅れになるかも」
独り言を口にしながら、ペンの尻でメモを突く。手の中でくるりとペンを回し、また反対に回した。
「お行儀が悪いよ、ティアレラ」
シオンに嗜められ、ごめんなさいとペンを置いた。用意されたお茶を受け取り、口をつける。すっと薄荷の香りがした。ハーブティーで意識を切り替え、ティアレラは一つの決断をする。
「諜報員を動かしましょう。情報集めが最優先だわ。それからビオラも送り届けないとね」
カレンデュラが心配しているはず。いざとなれば自らも切り捨てる鋭さを持つのに、身内に甘い。ビオラを作戦で利用しても、彼女の安全のために兵力を割いていた。友人の美しい姿を思い浮かべ、ティアレラは目を閉じる。
「あっ!」
突然、閃くように思いついた。四人の物語が僅かに当て嵌まり、でも完全に一致しない。ここが物語の混じった世界なら、一人だけ物語を持っていない。彼の出てくる物語を思い出せたら、すべてが繋がる気がした。
教皇派と聖女派が対立し、荒れる国内から新興派が現れる。民の生活を優先し、信仰を後回しにした派閥は勢力を伸ばした。それだけ政が蔑ろにされていた証であり、同時に国内の貧富の差に不満を持つ者が多かったのだろう。
金や権力はないが、人数の多い新興派はあっという間に国内最大勢力となった。数は力、神殿騎士であっても多勢に無勢だ。しかし新興派は金もなければ、物資もない。飢える民を救う建前で、聖女ビオラが隣国リクニスから助けに入った。
この時点で警戒されたものの、ビオラは持ち前の明るさと平民っぽさを利用して入り込む。炊き出しを行い、治療を手伝った。
感謝されるビオラの存在は、教皇派も聖女派も邪魔である。他国の聖女に助けられた、など聖女派にしたら屈辱だった。聖女という存在が崇められることに、危機感を持つのは教皇派だ。国内の聖女派も認めないのに、他国の聖女など論外だった。
ここで敵同士の両派閥に、共通の排除目標ができる。神殿騎士を動かしたのは、どちらだったのか。ビオラは新興派に救われて、無事にリクニス国へ脱出した。
ここまで書き記したティアレラは、眉を寄せた。
教皇が亡くなった情報は、逃げてきた特権階級からタンジー公爵家が得た。信じるとして、どこの時点で教皇が死んだのか。後釜は誰で、いつ表に出てくるのだろう。
慎重に事態を見極めて動かないと、国を揺るがす大事件に発展しかねない。そもそも教皇の地位を狙う者は複数いるはずで、その座が空席になることはないはず。現時点で、誰かがすでに座っていると考えるのが正しい。
「面倒だわ」
新しい教皇の情報を手に入れる必要があるし、新興派がどう動くのか調べたい。諜報に関わる者は潜ませているが、動かして危険はないか。考えれば考えるほど、危ない気がした。
「しばらく静観? でも手遅れになるかも」
独り言を口にしながら、ペンの尻でメモを突く。手の中でくるりとペンを回し、また反対に回した。
「お行儀が悪いよ、ティアレラ」
シオンに嗜められ、ごめんなさいとペンを置いた。用意されたお茶を受け取り、口をつける。すっと薄荷の香りがした。ハーブティーで意識を切り替え、ティアレラは一つの決断をする。
「諜報員を動かしましょう。情報集めが最優先だわ。それからビオラも送り届けないとね」
カレンデュラが心配しているはず。いざとなれば自らも切り捨てる鋭さを持つのに、身内に甘い。ビオラを作戦で利用しても、彼女の安全のために兵力を割いていた。友人の美しい姿を思い浮かべ、ティアレラは目を閉じる。
「あっ!」
突然、閃くように思いついた。四人の物語が僅かに当て嵌まり、でも完全に一致しない。ここが物語の混じった世界なら、一人だけ物語を持っていない。彼の出てくる物語を思い出せたら、すべてが繋がる気がした。
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