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51.国家の一大事ですわ
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一つの物語だけに固執すれば、状況が見えなくなる。判断が遅れる原因となった。そう、今のように。カレンデュラは馬車の中で、忙しなく扇の開閉音を響かせた。
王宮へ走らせる馬車に、ぐるりと護衛の騎士がつく。大量の護衛は、デルフィニューム公爵家の私兵だった。襲撃された前回の倍は揃えたため、何事もなく到着する。出迎えた父の手を取ったカレンデュラは、早口で謁見の申し出をした。
「陛下か、すぐに会えるぞ」
「ならば急いで。国境が変わる前にお願いするわ」
スカートを少し多めに持ち上げ、足早に廊下を抜ける。行儀作法を指導した先生がいたら、卒倒しただろう。余計な考えが過り、ふっと緊張が緩んだ。執務室の扉をノックし、返答と同時に入室する。
片足を引いてカーテシーを披露し、許しより早く顔を上げた。カレンデュラの行為は、一歩間違えば咎められる。だが真剣な眼差しに、国王フィゲリウスは黙って受け止めた。
「陛下、国家の一大事です。地図をお願い、お父様」
真剣な娘の様子に、オスヴァルドは何も言わず地図を用意した。国境線はもちろん、砦や兵力まで書き込まれた地図だ。
「ここ……それから、こちらも」
パタンと閉じた扇の先で、二つの砦を示す。カージナリス辺境伯領の右端と左端だった。それぞれに砦があり、一つはホスタ王国へ。もう一つはエキナセア神聖国へ向いていた。
緊急時、即座に動けるよう広大な領地の中央に辺境伯家の屋敷はある。
「エキナセア神聖国で再び災害が起こり、難民が流れ込みます。同時期、ホスタ王国へ他国が侵略を開始するでしょう」
驚いた顔をして二人は首を傾げる。カレンデュラはすぅと息を吸い込み、まったく同じ言葉を繰り返した。その後に付け加える。
「これは予言に近いので、信じていただくしかありません」
「俺は信じる」
オスヴァルドは支持を決めた。というのも、何もなければそれでいいが、もし本当に起きたら? 対処が後手に回れば致命傷になりかねない。エキナセア神聖国は現時点で災害により疲弊していた。もう一度同じ規模の災害が起きれば、民は大急ぎで脱出を図る。
第三勢力の新興派は、農民がほとんどだった。彼らが外へ出れば移民や難民となり、国家の財政を圧迫するだろう。さらに教皇派と聖女派を脅かす新興派が崩れれば、神聖国は内戦状態だった。さらに難民が出るはずだ。
ホスタ王国に後ろから別の国が攻め込む事態も、考えられる。今は王太子だった第一王子が国王となったが、先代がまだ生きていた。王太后の留守を狙い、攻め込んで若き王を討ち取る。愚かな年寄りを傀儡に仕立てるだけで、国の乗っ取りが可能だった。
どちらも可能性があり、危険が迫っている。国の舵取りは常に、複数の施策と逃げ道を用意するものだ。
「すぐに対策をする。カレンは……」
「ユーフォルビア様にお話しします」
手分けして動くデルフィニューム公爵家の二人は、あたふたと部屋を出て行った。執務室で地図を前に、フィゲリウスは溜め息を吐いた。
「杞憂で済むなら、それが一番だ」
今までのカレンデュラの言動を思い浮かべ、杞憂で終わらないと気を引き締めた。
王宮へ走らせる馬車に、ぐるりと護衛の騎士がつく。大量の護衛は、デルフィニューム公爵家の私兵だった。襲撃された前回の倍は揃えたため、何事もなく到着する。出迎えた父の手を取ったカレンデュラは、早口で謁見の申し出をした。
「陛下か、すぐに会えるぞ」
「ならば急いで。国境が変わる前にお願いするわ」
スカートを少し多めに持ち上げ、足早に廊下を抜ける。行儀作法を指導した先生がいたら、卒倒しただろう。余計な考えが過り、ふっと緊張が緩んだ。執務室の扉をノックし、返答と同時に入室する。
片足を引いてカーテシーを披露し、許しより早く顔を上げた。カレンデュラの行為は、一歩間違えば咎められる。だが真剣な眼差しに、国王フィゲリウスは黙って受け止めた。
「陛下、国家の一大事です。地図をお願い、お父様」
真剣な娘の様子に、オスヴァルドは何も言わず地図を用意した。国境線はもちろん、砦や兵力まで書き込まれた地図だ。
「ここ……それから、こちらも」
パタンと閉じた扇の先で、二つの砦を示す。カージナリス辺境伯領の右端と左端だった。それぞれに砦があり、一つはホスタ王国へ。もう一つはエキナセア神聖国へ向いていた。
緊急時、即座に動けるよう広大な領地の中央に辺境伯家の屋敷はある。
「エキナセア神聖国で再び災害が起こり、難民が流れ込みます。同時期、ホスタ王国へ他国が侵略を開始するでしょう」
驚いた顔をして二人は首を傾げる。カレンデュラはすぅと息を吸い込み、まったく同じ言葉を繰り返した。その後に付け加える。
「これは予言に近いので、信じていただくしかありません」
「俺は信じる」
オスヴァルドは支持を決めた。というのも、何もなければそれでいいが、もし本当に起きたら? 対処が後手に回れば致命傷になりかねない。エキナセア神聖国は現時点で災害により疲弊していた。もう一度同じ規模の災害が起きれば、民は大急ぎで脱出を図る。
第三勢力の新興派は、農民がほとんどだった。彼らが外へ出れば移民や難民となり、国家の財政を圧迫するだろう。さらに教皇派と聖女派を脅かす新興派が崩れれば、神聖国は内戦状態だった。さらに難民が出るはずだ。
ホスタ王国に後ろから別の国が攻め込む事態も、考えられる。今は王太子だった第一王子が国王となったが、先代がまだ生きていた。王太后の留守を狙い、攻め込んで若き王を討ち取る。愚かな年寄りを傀儡に仕立てるだけで、国の乗っ取りが可能だった。
どちらも可能性があり、危険が迫っている。国の舵取りは常に、複数の施策と逃げ道を用意するものだ。
「すぐに対策をする。カレンは……」
「ユーフォルビア様にお話しします」
手分けして動くデルフィニューム公爵家の二人は、あたふたと部屋を出て行った。執務室で地図を前に、フィゲリウスは溜め息を吐いた。
「杞憂で済むなら、それが一番だ」
今までのカレンデュラの言動を思い浮かべ、杞憂で終わらないと気を引き締めた。
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