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46.浮かび上がる物語は

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 到着した王宮は大騒ぎだった。事情を聞きたいと国王フィゲリウスに呼び出された公爵は、渋々と娘から離れる。オスヴァルドの背に手を振り、カレンデュラは扇を広げた。

「ホスタ王国のユーフォルビア様とお約束があるの」

「お伺いしております」

 王宮の侍女が案内したのは、庭の薔薇に囲まれた東屋だった。いい場所だと感心しながら、カレンデュラは深く一礼する。同盟国となったホスタ王国の前王妃、今は王太后であるユーフォルビアの地位は、一公爵令嬢より高い。礼儀を尽くしたカレンデュラに、ユーフォルビアは心配そうに立ち上がった。

「挨拶など後で構いません。ケガはないと聞いていますが、まずはお茶を……」

 目の前で用意させ、王宮の侍女が注ぐ。先に口をつけて確認する念の入れようで、襲撃されたばかりのカレンデュラを気遣った。ユーフォルビアの誠実さから、事情が推測できる。

 当初、ユーフォルビアが情報を洩らしたのかと思った。先代王の失策で立場を失った自国の価値を上げるには、手っ取り早いからだ。軍事力も国力も高いセントーレア帝国と手を結ぶ前、ぎりぎりのタイミングだった。ここでカレンデュラが死ねば、帝国と対立せずに済む。

 自国内の暗殺とあれば、対策を怠ったデルフィニューム公爵家やリクニス国の失態となる。そこまで考えて行動したのなら、どう対応してやろうかと考えたカレンデュラだが……ユーフォルビアは犯人ではなかった。ただ、無自覚に情報を洩らしてしまっただけ。

 他国の王宮に滞在する以上、客人が訪問の連絡をすれば報告が必要だ。客間の手配、お茶や茶菓子の準備、来訪時の案内役……どこかの過程で話が洩れたのだろう。ここを調べるのは公爵の父や国王の仕事だった。

 カレンデュラは面会を申し出た当初の用件に絞ることにし、穏やかな笑みで礼を口にした。

「一つ、確認をさせていただきたいのです」

「なんでしょう」

 構える様子なく応じるユーフォルビアへ、カレンデュラは声をひそめて伝えた。

「ミューレンベルギア様に、先代様の指示を届けるとしたら……どなたが?」

 驚いたように目を見開き、すぐに取り繕って表情を作る。何もなかったように、笑顔を張り付けた。王族や高位貴族が身に付ける仮面で、カレンデュラを見つめた。

「そうね、あの子の従姉妹がいたわ」

 嫁ぐ際も同行し、夫に手紙を届けていた。ユーフォルビアはそう明かし、額を押さえる。

「名前はたしか……ネモローサよ」

 妃の侍女の名を全て知っているわけではないが、カレンデュラはその名に聞き覚えがあった。教会に多額の寄付金を贈った人物として、リストでネモローサの名を見ている。

 やっぱり……様々な事情が一つの物語を示唆するように動いている。目を細めたカレンデュラの脳裏に『リクニスの花』のアニメ映像が浮かんだ。

 現時点で、クレチマス達が領地に戻らず王都に残っているのも、強制力かしらね。カレンデュラは心の中で呟いた。
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