46 / 100
46.浮かび上がる物語は
しおりを挟む
到着した王宮は大騒ぎだった。事情を聞きたいと国王フィゲリウスに呼び出された公爵は、渋々と娘から離れる。オスヴァルドの背に手を振り、カレンデュラは扇を広げた。
「ホスタ王国のユーフォルビア様とお約束があるの」
「お伺いしております」
王宮の侍女が案内したのは、庭の薔薇に囲まれた東屋だった。いい場所だと感心しながら、カレンデュラは深く一礼する。同盟国となったホスタ王国の前王妃、今は王太后であるユーフォルビアの地位は、一公爵令嬢より高い。礼儀を尽くしたカレンデュラに、ユーフォルビアは心配そうに立ち上がった。
「挨拶など後で構いません。ケガはないと聞いていますが、まずはお茶を……」
目の前で用意させ、王宮の侍女が注ぐ。先に口をつけて確認する念の入れようで、襲撃されたばかりのカレンデュラを気遣った。ユーフォルビアの誠実さから、事情が推測できる。
当初、ユーフォルビアが情報を洩らしたのかと思った。先代王の失策で立場を失った自国の価値を上げるには、手っ取り早いからだ。軍事力も国力も高いセントーレア帝国と手を結ぶ前、ぎりぎりのタイミングだった。ここでカレンデュラが死ねば、帝国と対立せずに済む。
自国内の暗殺とあれば、対策を怠ったデルフィニューム公爵家やリクニス国の失態となる。そこまで考えて行動したのなら、どう対応してやろうかと考えたカレンデュラだが……ユーフォルビアは犯人ではなかった。ただ、無自覚に情報を洩らしてしまっただけ。
他国の王宮に滞在する以上、客人が訪問の連絡をすれば報告が必要だ。客間の手配、お茶や茶菓子の準備、来訪時の案内役……どこかの過程で話が洩れたのだろう。ここを調べるのは公爵の父や国王の仕事だった。
カレンデュラは面会を申し出た当初の用件に絞ることにし、穏やかな笑みで礼を口にした。
「一つ、確認をさせていただきたいのです」
「なんでしょう」
構える様子なく応じるユーフォルビアへ、カレンデュラは声をひそめて伝えた。
「ミューレンベルギア様に、先代様の指示を届けるとしたら……どなたが?」
驚いたように目を見開き、すぐに取り繕って表情を作る。何もなかったように、笑顔を張り付けた。王族や高位貴族が身に付ける仮面で、カレンデュラを見つめた。
「そうね、あの子の従姉妹がいたわ」
嫁ぐ際も同行し、夫に手紙を届けていた。ユーフォルビアはそう明かし、額を押さえる。
「名前はたしか……ネモローサよ」
妃の侍女の名を全て知っているわけではないが、カレンデュラはその名に聞き覚えがあった。教会に多額の寄付金を贈った人物として、リストでネモローサの名を見ている。
やっぱり……様々な事情が一つの物語を示唆するように動いている。目を細めたカレンデュラの脳裏に『リクニスの花』のアニメ映像が浮かんだ。
現時点で、クレチマス達が領地に戻らず王都に残っているのも、強制力かしらね。カレンデュラは心の中で呟いた。
「ホスタ王国のユーフォルビア様とお約束があるの」
「お伺いしております」
王宮の侍女が案内したのは、庭の薔薇に囲まれた東屋だった。いい場所だと感心しながら、カレンデュラは深く一礼する。同盟国となったホスタ王国の前王妃、今は王太后であるユーフォルビアの地位は、一公爵令嬢より高い。礼儀を尽くしたカレンデュラに、ユーフォルビアは心配そうに立ち上がった。
「挨拶など後で構いません。ケガはないと聞いていますが、まずはお茶を……」
目の前で用意させ、王宮の侍女が注ぐ。先に口をつけて確認する念の入れようで、襲撃されたばかりのカレンデュラを気遣った。ユーフォルビアの誠実さから、事情が推測できる。
当初、ユーフォルビアが情報を洩らしたのかと思った。先代王の失策で立場を失った自国の価値を上げるには、手っ取り早いからだ。軍事力も国力も高いセントーレア帝国と手を結ぶ前、ぎりぎりのタイミングだった。ここでカレンデュラが死ねば、帝国と対立せずに済む。
自国内の暗殺とあれば、対策を怠ったデルフィニューム公爵家やリクニス国の失態となる。そこまで考えて行動したのなら、どう対応してやろうかと考えたカレンデュラだが……ユーフォルビアは犯人ではなかった。ただ、無自覚に情報を洩らしてしまっただけ。
他国の王宮に滞在する以上、客人が訪問の連絡をすれば報告が必要だ。客間の手配、お茶や茶菓子の準備、来訪時の案内役……どこかの過程で話が洩れたのだろう。ここを調べるのは公爵の父や国王の仕事だった。
カレンデュラは面会を申し出た当初の用件に絞ることにし、穏やかな笑みで礼を口にした。
「一つ、確認をさせていただきたいのです」
「なんでしょう」
構える様子なく応じるユーフォルビアへ、カレンデュラは声をひそめて伝えた。
「ミューレンベルギア様に、先代様の指示を届けるとしたら……どなたが?」
驚いたように目を見開き、すぐに取り繕って表情を作る。何もなかったように、笑顔を張り付けた。王族や高位貴族が身に付ける仮面で、カレンデュラを見つめた。
「そうね、あの子の従姉妹がいたわ」
嫁ぐ際も同行し、夫に手紙を届けていた。ユーフォルビアはそう明かし、額を押さえる。
「名前はたしか……ネモローサよ」
妃の侍女の名を全て知っているわけではないが、カレンデュラはその名に聞き覚えがあった。教会に多額の寄付金を贈った人物として、リストでネモローサの名を見ている。
やっぱり……様々な事情が一つの物語を示唆するように動いている。目を細めたカレンデュラの脳裏に『リクニスの花』のアニメ映像が浮かんだ。
現時点で、クレチマス達が領地に戻らず王都に残っているのも、強制力かしらね。カレンデュラは心の中で呟いた。
218
お気に入りに追加
695
あなたにおすすめの小説
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
【完結】薔薇の花をあなたに贈ります
彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。
目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。
ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。
たが、それに違和感を抱くようになる。
ロベルト殿下視点がおもになります。
前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!!
11話完結です。
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~
ノ木瀬 優
恋愛
卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。
「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」
あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。
思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。
設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。
R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」
リーリエは喜んだ。
「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」
もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる