上 下
39 / 100

39.悪い顔で策を練る

しおりを挟む
 式典もその後の宴も無事に終わり、主要な人物の集まった控え室には……どんよりとした空気が漂っていた。そこへ次々と情報が飛び込んでくる。

「エキナセア神聖国の内紛はどうした?」

 コルジリネが唸る。皇帝である父の策略で、二大派閥の内紛を招いたはず。外部へ目を向ける余裕があるのはおかしい。自国からの連絡や情報を睨み、眉根を寄せた。

「何かわかりまして?」

「内紛はそのまま、らしい」

 きょとんとするカレンデュラも、タンジー公爵家から齎された報告に目を丸くした。国境を接するタンジー公爵家とカージナリス辺境伯家、どちらも惜しみなく情報を提供する。その結果、予想外の状況が判明した。

「三つに分裂しただなんて」

 教皇派と聖女派の間に内紛を起こしたら、別の派閥が出てきた。現時点では新興勢力で、派閥名は不明だ。一時的に新興派と呼ぶことにした。

 エキナセア神聖国は、完全な宗教国家である。実権を握るのは教皇で、政の中心は教皇派が担ってきた。権力は教皇に集中し、主流から外れた者は金も権力も遠ざかる。その流れに不満を表明したのが、聖女派だった。

 エキナセア神聖国の宗教は、女神エキナセアを崇拝している。その代理人として、過去に聖女が存在した。異世界から降臨した聖女は、新しい知識で様々な奇跡を起こしたと言い伝えられる。聖女こそ女神の意思を体現する器だ、と訴える一派が今回の内紛を起こした。

 これらの両方と距離を置き、民の生活や女神への信仰に回帰しようとする集団が現れる。それが新興派だ。原点回帰を訴え、聖女も教皇も不要と言い切る。ある意味、虐げられた民が決起した最大派閥だった。権力者はいないが、派閥の人数は多い。

「新興派と共存は無理かしら」

「宗教国家だからな」

 カレンデュラの提案に、コルジリネは難色を示す。セントーレア帝国が神聖国を敵視し、工作したのも宗教が原因だった。リクニス国も同じ理由で距離を置いている。

「教皇や聖女より、民と女神を優先する派閥の方が付き合いやすいのでは?」

 ホスタ王国の王妃は、温かなお茶を一口飲んで首を傾げる。その言い分もなるほどと思う部分があり、それぞれに考え込んで沈黙が落ちた。

「動いたというだけで、まだ攻め込んできたわけでは……」

「攻め込まれてからでは遅いんだよ」

 ティアレラの遠慮がちな主張は、婚約者のシオンに潰された。

「エキナセアの聖女は……異世界から来た。うちにもいるじゃないか、聖女様が」

 にやりと悪い顔で、クレチマスが意見を出す。愛しい義妹リッピアにお菓子を食べさせながら、悪魔の笑みを浮かべた。

「ビオラのこと?」

 カレンデュラは先の先まで読んだのか、同じように口角を上げて微笑む。

「聖女派は象徴が欲しいわよね。聖女ビオラが新興派の意見を支持したら……楽しいことになりそう」

 引っ掻き回す案を口にして、結論だけ濁す。悪女の振る舞いに、コルジリネはやれやれと肩を竦めた。うっかりすると皇帝の座も、未来の妻に奪われそうだ。そうぼやきながらも、婚約者の意見に賛成を表明した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

その聖女、娼婦につき ~何もかもが遅すぎた~

ノ木瀬 優
恋愛
 卒業パーティーにて、ライル王太子は、レイチェルに婚約破棄を突き付ける。それを受けたレイチェルは……。 「――あー、はい。もう、そういうのいいです。もうどうしようもないので」  あっけらかんとそう言い放った。実は、この国の聖女システムには、ある秘密が隠されていたのだ。  思い付きで書いてみました。全2話、本日中に完結予定です。  設定ガバガバなところもありますが、気楽に楽しんで頂けたら幸いです。    R15は保険ですので、安心してお楽しみ下さい。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...