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39.悪い顔で策を練る
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式典もその後の宴も無事に終わり、主要な人物の集まった控え室には……どんよりとした空気が漂っていた。そこへ次々と情報が飛び込んでくる。
「エキナセア神聖国の内紛はどうした?」
コルジリネが唸る。皇帝である父の策略で、二大派閥の内紛を招いたはず。外部へ目を向ける余裕があるのはおかしい。自国からの連絡や情報を睨み、眉根を寄せた。
「何かわかりまして?」
「内紛はそのまま、らしい」
きょとんとするカレンデュラも、タンジー公爵家から齎された報告に目を丸くした。国境を接するタンジー公爵家とカージナリス辺境伯家、どちらも惜しみなく情報を提供する。その結果、予想外の状況が判明した。
「三つに分裂しただなんて」
教皇派と聖女派の間に内紛を起こしたら、別の派閥が出てきた。現時点では新興勢力で、派閥名は不明だ。一時的に新興派と呼ぶことにした。
エキナセア神聖国は、完全な宗教国家である。実権を握るのは教皇で、政の中心は教皇派が担ってきた。権力は教皇に集中し、主流から外れた者は金も権力も遠ざかる。その流れに不満を表明したのが、聖女派だった。
エキナセア神聖国の宗教は、女神エキナセアを崇拝している。その代理人として、過去に聖女が存在した。異世界から降臨した聖女は、新しい知識で様々な奇跡を起こしたと言い伝えられる。聖女こそ女神の意思を体現する器だ、と訴える一派が今回の内紛を起こした。
これらの両方と距離を置き、民の生活や女神への信仰に回帰しようとする集団が現れる。それが新興派だ。原点回帰を訴え、聖女も教皇も不要と言い切る。ある意味、虐げられた民が決起した最大派閥だった。権力者はいないが、派閥の人数は多い。
「新興派と共存は無理かしら」
「宗教国家だからな」
カレンデュラの提案に、コルジリネは難色を示す。セントーレア帝国が神聖国を敵視し、工作したのも宗教が原因だった。リクニス国も同じ理由で距離を置いている。
「教皇や聖女より、民と女神を優先する派閥の方が付き合いやすいのでは?」
ホスタ王国の王妃は、温かなお茶を一口飲んで首を傾げる。その言い分もなるほどと思う部分があり、それぞれに考え込んで沈黙が落ちた。
「動いたというだけで、まだ攻め込んできたわけでは……」
「攻め込まれてからでは遅いんだよ」
ティアレラの遠慮がちな主張は、婚約者のシオンに潰された。
「エキナセアの聖女は……異世界から来た。うちにもいるじゃないか、聖女様が」
にやりと悪い顔で、クレチマスが意見を出す。愛しい義妹リッピアにお菓子を食べさせながら、悪魔の笑みを浮かべた。
「ビオラのこと?」
カレンデュラは先の先まで読んだのか、同じように口角を上げて微笑む。
「聖女派は象徴が欲しいわよね。聖女ビオラが新興派の意見を支持したら……楽しいことになりそう」
引っ掻き回す案を口にして、結論だけ濁す。悪女の振る舞いに、コルジリネはやれやれと肩を竦めた。うっかりすると皇帝の座も、未来の妻に奪われそうだ。そうぼやきながらも、婚約者の意見に賛成を表明した。
「エキナセア神聖国の内紛はどうした?」
コルジリネが唸る。皇帝である父の策略で、二大派閥の内紛を招いたはず。外部へ目を向ける余裕があるのはおかしい。自国からの連絡や情報を睨み、眉根を寄せた。
「何かわかりまして?」
「内紛はそのまま、らしい」
きょとんとするカレンデュラも、タンジー公爵家から齎された報告に目を丸くした。国境を接するタンジー公爵家とカージナリス辺境伯家、どちらも惜しみなく情報を提供する。その結果、予想外の状況が判明した。
「三つに分裂しただなんて」
教皇派と聖女派の間に内紛を起こしたら、別の派閥が出てきた。現時点では新興勢力で、派閥名は不明だ。一時的に新興派と呼ぶことにした。
エキナセア神聖国は、完全な宗教国家である。実権を握るのは教皇で、政の中心は教皇派が担ってきた。権力は教皇に集中し、主流から外れた者は金も権力も遠ざかる。その流れに不満を表明したのが、聖女派だった。
エキナセア神聖国の宗教は、女神エキナセアを崇拝している。その代理人として、過去に聖女が存在した。異世界から降臨した聖女は、新しい知識で様々な奇跡を起こしたと言い伝えられる。聖女こそ女神の意思を体現する器だ、と訴える一派が今回の内紛を起こした。
これらの両方と距離を置き、民の生活や女神への信仰に回帰しようとする集団が現れる。それが新興派だ。原点回帰を訴え、聖女も教皇も不要と言い切る。ある意味、虐げられた民が決起した最大派閥だった。権力者はいないが、派閥の人数は多い。
「新興派と共存は無理かしら」
「宗教国家だからな」
カレンデュラの提案に、コルジリネは難色を示す。セントーレア帝国が神聖国を敵視し、工作したのも宗教が原因だった。リクニス国も同じ理由で距離を置いている。
「教皇や聖女より、民と女神を優先する派閥の方が付き合いやすいのでは?」
ホスタ王国の王妃は、温かなお茶を一口飲んで首を傾げる。その言い分もなるほどと思う部分があり、それぞれに考え込んで沈黙が落ちた。
「動いたというだけで、まだ攻め込んできたわけでは……」
「攻め込まれてからでは遅いんだよ」
ティアレラの遠慮がちな主張は、婚約者のシオンに潰された。
「エキナセアの聖女は……異世界から来た。うちにもいるじゃないか、聖女様が」
にやりと悪い顔で、クレチマスが意見を出す。愛しい義妹リッピアにお菓子を食べさせながら、悪魔の笑みを浮かべた。
「ビオラのこと?」
カレンデュラは先の先まで読んだのか、同じように口角を上げて微笑む。
「聖女派は象徴が欲しいわよね。聖女ビオラが新興派の意見を支持したら……楽しいことになりそう」
引っ掻き回す案を口にして、結論だけ濁す。悪女の振る舞いに、コルジリネはやれやれと肩を竦めた。うっかりすると皇帝の座も、未来の妻に奪われそうだ。そうぼやきながらも、婚約者の意見に賛成を表明した。
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