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38.フラグを立てて即時回収
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お膳立てした交渉が無事成立し、両国の間で友好条約が結ばれた。その際、ホスタ王国は正式な謝罪をし、先代王の幽閉を発表する。ほとぼりが冷めた数年後に、病死が発表されるだろう。予測はつくが、誰も指摘しない。それが政だからだ。
もし先代王を処刑すれば、叛逆した現国王に傷がつく。親殺し、叛逆者、汚名は自国内の貴族からも突きつけられる。それではリクニス国に旨みがなかった。隣国ホスタ王国が安定し、自国へ迷惑をかけない保証が欲しかった。
自滅して難民を大量に出されるのも迷惑、別の貴族が正当性を主張して叛逆されても困る。謝罪の意思があるなら受け入れ、その上で都合のいい事実を広めるのが、リクニス国にとって利益となった。
「これで安心して嫁げるわ」
ほほほと笑う娘に、デルフィニューム公爵オスヴァルドは苦笑いした。ここまで優秀なら、婿を取って公爵家を継がせる方向で調整すればよかった。ただでさえ強大な帝国に、塩を送る必要はない。
視線の先、カレンデュラを愛おしそうに見つめる黒髪の皇太子。彼は譲らないから、手放した後悔はリクニス国の痛みだ。
「結局、隣国ってホスタ王国で決着かしら」
扇を広げるカレンデュラの呟きに、クレチマスが応じる。式典会場には、両国の貴族が集まっていた。様々な商談を始めたり、顔繋ぎをしたり、忙しそうだ。
「俺は神聖国だと思ったが」
「変なフラグになりそうで嫌だから、発言は無かったことにしましょうね」
ティアレラが渋い顔で否定する。三人が頷き、コルジリネが別の話題を振ったところに……最悪の報せが飛び込んだ。
「……エキナセアが動いた」
暗号化されたメモを読むなり、コルジリネがぼそりと吐き捨てた。暗号化した意味がないのでは? と思いながらも、クレチマスは眉を寄せる。カレンデュラは驚いて手を滑らせた。落ちた扇がからんと乾いた音を立てる。
「神聖国が、動いた?」
ティアレラは言葉を置き換えて繰り返し、動揺を隠すように口元を押さえた。婚約者のシオンが心配そうに肩を抱き寄せる。羨ましくなったのか、扇を拾わせたコルジリネも、カレンデュラに手を伸ばす。抱き寄せる前に、扇を奪われた。
ばさりと広げて、カレンデュラは顔を半分隠す。その状態で、視線を彷徨わせた。
「もしかして、さっきの発言がフラグだった、とか?」
「俺のせいみたいに聞こえるぞ」
クレチマスはむっとした声を出した。宥めるように義妹リッピアが手を重ねる。指を絡ませて握り、クレチマスは深呼吸した。
「情報を共有して対応する必要がある。それぞれの立場を再確認しよう」
コルジリネの冷静な指摘に、己の立場と役割を思い出した面々は動き出した。カレンデュラは父と王の元へ、クレチマスも義父タンジー公爵に歩み寄る。カージナリス辺境伯家のティアレラは、シオンと腕を組んでホスタ王国の王妃に近づいた。
式典会場の雰囲気を壊さぬよう、各々が不吉な兆候を伝える。顔色を変えたデルフィニューム公爵は、国王フィゲリウスと頷きあった。一人、また一人と姿を消す。ホスタ王国の王妃が続き、コルジリネも合流した。
会場にはカレンデュラ達が残り、上層部の不在を誤魔化す。心配を表に出すことなく、式典の終わりまで主催国の体面を保った。
もし先代王を処刑すれば、叛逆した現国王に傷がつく。親殺し、叛逆者、汚名は自国内の貴族からも突きつけられる。それではリクニス国に旨みがなかった。隣国ホスタ王国が安定し、自国へ迷惑をかけない保証が欲しかった。
自滅して難民を大量に出されるのも迷惑、別の貴族が正当性を主張して叛逆されても困る。謝罪の意思があるなら受け入れ、その上で都合のいい事実を広めるのが、リクニス国にとって利益となった。
「これで安心して嫁げるわ」
ほほほと笑う娘に、デルフィニューム公爵オスヴァルドは苦笑いした。ここまで優秀なら、婿を取って公爵家を継がせる方向で調整すればよかった。ただでさえ強大な帝国に、塩を送る必要はない。
視線の先、カレンデュラを愛おしそうに見つめる黒髪の皇太子。彼は譲らないから、手放した後悔はリクニス国の痛みだ。
「結局、隣国ってホスタ王国で決着かしら」
扇を広げるカレンデュラの呟きに、クレチマスが応じる。式典会場には、両国の貴族が集まっていた。様々な商談を始めたり、顔繋ぎをしたり、忙しそうだ。
「俺は神聖国だと思ったが」
「変なフラグになりそうで嫌だから、発言は無かったことにしましょうね」
ティアレラが渋い顔で否定する。三人が頷き、コルジリネが別の話題を振ったところに……最悪の報せが飛び込んだ。
「……エキナセアが動いた」
暗号化されたメモを読むなり、コルジリネがぼそりと吐き捨てた。暗号化した意味がないのでは? と思いながらも、クレチマスは眉を寄せる。カレンデュラは驚いて手を滑らせた。落ちた扇がからんと乾いた音を立てる。
「神聖国が、動いた?」
ティアレラは言葉を置き換えて繰り返し、動揺を隠すように口元を押さえた。婚約者のシオンが心配そうに肩を抱き寄せる。羨ましくなったのか、扇を拾わせたコルジリネも、カレンデュラに手を伸ばす。抱き寄せる前に、扇を奪われた。
ばさりと広げて、カレンデュラは顔を半分隠す。その状態で、視線を彷徨わせた。
「もしかして、さっきの発言がフラグだった、とか?」
「俺のせいみたいに聞こえるぞ」
クレチマスはむっとした声を出した。宥めるように義妹リッピアが手を重ねる。指を絡ませて握り、クレチマスは深呼吸した。
「情報を共有して対応する必要がある。それぞれの立場を再確認しよう」
コルジリネの冷静な指摘に、己の立場と役割を思い出した面々は動き出した。カレンデュラは父と王の元へ、クレチマスも義父タンジー公爵に歩み寄る。カージナリス辺境伯家のティアレラは、シオンと腕を組んでホスタ王国の王妃に近づいた。
式典会場の雰囲気を壊さぬよう、各々が不吉な兆候を伝える。顔色を変えたデルフィニューム公爵は、国王フィゲリウスと頷きあった。一人、また一人と姿を消す。ホスタ王国の王妃が続き、コルジリネも合流した。
会場にはカレンデュラ達が残り、上層部の不在を誤魔化す。心配を表に出すことなく、式典の終わりまで主催国の体面を保った。
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