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34.解いてのお楽しみよ

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 敵国と呼んで差し支えない関係のホスタ王国から迎える客人、ドレスで出迎える必要はない。王家の代理人として全権委任されたカレンデュラは、その進言を拒んだ。

「ダメよ、ホスタ王国の王妃殿下をお迎えするのですもの。それに、こちらが余裕を見せないと警戒されるわ」

「ですが、乗馬で向かうには道が……」

 しっかり馬に跨って進まなければ、危険だ。ホスタ王国と話し合う前に、落馬でもしたらどうするのか。ティアレラは渋い顔で譲らなかった。別邸として使用し、何度も訪れた者だからこその進言なのだ。きちんとした道が整備されていない。

 元は丁寧に作られた道も、今では木の根が張り出し、枝が邪魔をする状態だった。ここ十年ほどは馬車で訪れる者もいない。今回の準備に向かったのも、乗馬の出来る侍女や侍従だった。

「いい案があるの」

 ふふっと笑うカレンデュラは、まだ乗馬服のままだ。この姿なら危険も少なく、緊急時の脱出も容易だった。身の安全を削ってまで、外交の体面を重視する美女はティアレラを手招きした。その耳元に口を寄せて、ひそひそと説明する。

「っ、そんな方法……でも、確かにわからない、かも」

 前世の知識があるティアレラは、なるほどと納得してしまった。拒む理由がない。逆になぜ思いつかなかったのか、と自分を嘆いた。その方法を知っていたら、王都に向かう際も楽だったのに。

「今度から利用なさいな。到着時に取り繕えばいいんだもの」

「ええ、そうさせていただきます」

 女性同士の会話から弾かれた形のコルジリネが、大きな息を吐いた。気づいたカレンデュラが、伸ばした手で彼の頬を撫でる。

「拗ねないで。あなただって、画期的だと褒めてくれたでしょう?」

 曖昧に微笑んで頷くコルジリネは、そうじゃないんだがと呟いた。方法を話したことではなく、仲睦まじく話す二人に混ざれなかったことを嘆いている。

 頬に触れるやや冷えた指先が愛しくて、手で包んで頬に押し当てた。撫でて離れるのが惜しい。

「では準備して出発よ」

 護衛を含めた同行者は十名まで。互いに人数は制限している。片方が大軍を率いてきたら、話し合いが台無しになるためだ。ティアレラに同行すると譲らないシオンが、侍従の一人と入れ替わった。

「では、これはシオンが運んでね」

 ティアレラは容赦なく、侍従として扱うようだ。大きな布包みを持たせた。中身は解いてのお楽しみだ。

「紅茶やお菓子はあるのよね?」

「え? ワインとチーズにしてしまったわよ」

 念押しの確認に、ティアレラが慌てる。話し合いが終わったら解散なのに、お酒を出すのはまずい。ホスタ王国の一行には、ケガもなく無事帰還してもらう必要があった。慌てて荷物を下ろして確認し、入れ替える。

「事前に聞いてよかったわ」

「美味しいワインなのに。後で飲みましょうね」

 まったく懲りていないティアレラだが、シオンが渋い顔をしている。本人は気にしていないが、酒乱の可能性もあるわね。カレンデュラはそう判断し、返答を避けた。
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