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31.なぜこうなった ***SIDEホスタ国王

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 長い年月をかけて切り崩した。敵対する侯爵を大使にして、リクニスとの国境付近で殺害する。ついでに衛兵を一人片づけた。その者に罪をなすりつける。

 こういった計画は綿密に立てるものではない。杜撰なくらいでいい。結末だけ描けていたら、現場で調整するのが有能な配下だった。大使を殺されたと騒ぎ、第三王女を送り込むことに成功する。

 ここで予定外だったのが、新婚の王妃だ。まさか直前に結婚式を挙げていたとは……。国内の貴族と結婚するため、大々的に周辺国への招待がなされなかった。お陰で無理やりねじ込むしかない。国民感情も悪くなる上、娘も帰りたいと言い出す始末。

 なんとか宥めて役割を言い渡した。わしの娘なら出来ると繰り返し、戻る場所はないと認識させる。王として今更引けなかった。豊かなリクニス国を切り取るより、丸ごと手に入れる方が間違いない。

 尻込みする娘をよそに、王妃リンゲルニアを暗殺させた。後に引けないと思ったのか、娘は第一王子となった息子のために動き出す。すべては予定通りだった。多少遠回りしたが、ミューレンベルギアも役に立っている。

 孫である第一王子ローランドが王太子となり、あと少し。

「なぜこうなった」

 送りつけられたのは、娘である第三王女の首だった。衝撃はあったが、悲しみはない。見透かされた悔しさと、邪魔された怒りで目の前が赤くなる。が、泣き崩れる妃を見て冷静になった。ここは娘を殺されて悲しむ父親を演じるべきだ。

「おお、ミューレンベルギアよ……」

 涙はさすがに出なかったが、意図的に眉尻を下げて顔をしかめる。差し出した手で触れた肌は、硬く冷たかった。ゾッとするが、抱きしめる。肩の位置で乱雑に切られた髪、青白く蝋のような顔、腐敗臭……。

 吐き気を堪えながら、悲しんでみせた。それから首を台に戻す。敵国の情けなのか、首は綺麗に清められていた。首や顔に飛んだ血は拭かれ、穏やかな表情に整えられている。死後すぐに処置されたようで、三日かけて運ばれた割に、腐敗は少なかった。

「許さんぞ、リクニス国王! あの国を……っ」

「あなたがここまで愚かだとは思いませんでした」

 大演説を打とうとしたわしの声を、妻が遮る。今まで大人しく従ってきた公爵家出身の妃は、切れ長の目でわしを睨んだ。絶句して固まるわしに、周囲の貴族の厳しい視線が向けられた。

「大使を殺されたと騒いだ時から、おかしいと思っていたのです。新婚である隣国の王に、無理やりあの子を嫁がせて……ずっと不審に思って調べさせた結果が、これだなんて」

 愛おしいと態度で示しながら、腐臭漂う首を引き寄せる妻が恐ろしい。まるで狂ったような、いや……逆か? わしがおかしいと断罪している。集まった貴族の視線も、わしを糾弾する色を浮かべた。

 どこまでバレた? 何を知っている! 疑心暗鬼に駆られたわしを、騎士がぐるりと囲んだ。王太子である長男が淡々と命じる。

「王は御乱心だ、捕えよ!」

「違うっ、わしは正気だ。貴様ら、全員タダじゃおかんぞ。やめろ」

 叫びながら運ばれ、塔へ隔離された。出入り口を物理的に封鎖され、外の出来事は何もわからない。小さな窓から食事や着替えが差し入れられるだけ。このまま朽ちるなど嫌だ。出してくれ!
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