29 / 100
29.最悪のシナリオを避ける
しおりを挟む
集まった顔ぶれを確認し、カレンデュラは切り出した。
「物語に強制力があったと仮定し、隣国がホスタ王国ではなかった場合が、最悪のシナリオなの」
ティアレラの場合、カージナリス辺境伯領が攻め込まれている。国境を接するのはホスタ王国だが、実は別の国とも繋がっていた。国境のわずか一割程度だが、ホスタ王国の隣にあるエキナセア神聖国が食い込んでいる。
もし敵が神聖国だったら、カージナリス辺境伯家が滅ぼされた後、間違いなくリクニス国も崩壊する。この世界で宗教はさほど強い勢力ではないが、エキナセア神聖国は別だった。女神エキナセアを信奉し、他国の神々を否定する。
住民も狂信者と呼ぶレベルで女神に傾倒しており、依存状態だった。彼らが敵になれば、面倒なことになる。隣国がホスタ王国以外にならないよう、確定させる必要があった。勝ち目のある相手を、匿名から実名にすることで、物語の強制力を潰す。
カレンデュラは不安をすべて吐き出し、彼らの反応を窺う。クレチマスの知るアニメの原作小説は、後半で独立した。領地を一つの小国として立ち上げ、周囲と距離を置いた形だ。タンジー公爵家の領地は国土の北側を縦断する形になっており、一部が神聖国と接していた。
「現時点で、考えにくい」
国境を接しているからこそ、タンジー公爵家はエキナセア神聖国の情報を握っている。それを公開した。コルジリネにチラリと視線を向けたものの、クレチマスが言い淀むことはなかった。
神聖国で内紛が起き、上位の神官による権力争いが激化している。現時点で、他国に攻め込む余裕はないだろう。
クレチマスの情報に、コルジリネも握る情報を一つ返した。日本繋がりで信用したクレチマスへの、心ばかりの礼だった。
「神聖国の内紛は簡単に終わらない。そのように仕向けたのは父上だからな」
セントーレア帝国の皇帝が動いた。仕掛けは大掛かりだが、しっかり準備されている。抜け道を残さぬよう、何度も練った作戦だと明かした。
「つまり……ホスタ王国を物語の隣国として確定可能なのね」
「ああ、父上にそんなつもりはなかったと思うが」
苦笑いするコルジリネによれば、一人の侯爵令嬢の入信が発端らしい。エキナセア神聖国の神官が、帝国の侯爵令嬢を入信させて操ろうとした。帝国の貴族を切り崩そうと画策したことへの報復。
偶然にも、それがリクニス国にとって幸運をもたらした。敵国がホスタ王国に確定できる。
「ほっとしたわ、これで余計な心配をしなくても済むもの」
嫁ぐから関係ないと思ってみても、やはり母国だ。生まれ育った土地、優しい人々、家族、友人達。彼らが犠牲になる未来を、素知らぬ顔で流すことはできなかった。
「役に立てたかな? 我が最愛の姫」
「ええ、とても助かりますわ。大好きな皇太子殿下」
軽口のように確認しあい、二人は微笑んだ。ティアレラも安堵の表情を浮かべる。
「よかった、ホスタ王国なら対応が間に合います」
じっと考え込んでいたクレチマスが、ぼそっと指摘した。
「内通者を洗い出して処分すれば、かなり有利に交渉を進められる、か」
「ええ、交渉で済むことを祈りましょう」
にっこり笑うカレンデュラに、三人は心の中で同じ思いを抱いた。おそらく、交渉だけで済ます気はないだろう、と。
「物語に強制力があったと仮定し、隣国がホスタ王国ではなかった場合が、最悪のシナリオなの」
ティアレラの場合、カージナリス辺境伯領が攻め込まれている。国境を接するのはホスタ王国だが、実は別の国とも繋がっていた。国境のわずか一割程度だが、ホスタ王国の隣にあるエキナセア神聖国が食い込んでいる。
もし敵が神聖国だったら、カージナリス辺境伯家が滅ぼされた後、間違いなくリクニス国も崩壊する。この世界で宗教はさほど強い勢力ではないが、エキナセア神聖国は別だった。女神エキナセアを信奉し、他国の神々を否定する。
住民も狂信者と呼ぶレベルで女神に傾倒しており、依存状態だった。彼らが敵になれば、面倒なことになる。隣国がホスタ王国以外にならないよう、確定させる必要があった。勝ち目のある相手を、匿名から実名にすることで、物語の強制力を潰す。
カレンデュラは不安をすべて吐き出し、彼らの反応を窺う。クレチマスの知るアニメの原作小説は、後半で独立した。領地を一つの小国として立ち上げ、周囲と距離を置いた形だ。タンジー公爵家の領地は国土の北側を縦断する形になっており、一部が神聖国と接していた。
「現時点で、考えにくい」
国境を接しているからこそ、タンジー公爵家はエキナセア神聖国の情報を握っている。それを公開した。コルジリネにチラリと視線を向けたものの、クレチマスが言い淀むことはなかった。
神聖国で内紛が起き、上位の神官による権力争いが激化している。現時点で、他国に攻め込む余裕はないだろう。
クレチマスの情報に、コルジリネも握る情報を一つ返した。日本繋がりで信用したクレチマスへの、心ばかりの礼だった。
「神聖国の内紛は簡単に終わらない。そのように仕向けたのは父上だからな」
セントーレア帝国の皇帝が動いた。仕掛けは大掛かりだが、しっかり準備されている。抜け道を残さぬよう、何度も練った作戦だと明かした。
「つまり……ホスタ王国を物語の隣国として確定可能なのね」
「ああ、父上にそんなつもりはなかったと思うが」
苦笑いするコルジリネによれば、一人の侯爵令嬢の入信が発端らしい。エキナセア神聖国の神官が、帝国の侯爵令嬢を入信させて操ろうとした。帝国の貴族を切り崩そうと画策したことへの報復。
偶然にも、それがリクニス国にとって幸運をもたらした。敵国がホスタ王国に確定できる。
「ほっとしたわ、これで余計な心配をしなくても済むもの」
嫁ぐから関係ないと思ってみても、やはり母国だ。生まれ育った土地、優しい人々、家族、友人達。彼らが犠牲になる未来を、素知らぬ顔で流すことはできなかった。
「役に立てたかな? 我が最愛の姫」
「ええ、とても助かりますわ。大好きな皇太子殿下」
軽口のように確認しあい、二人は微笑んだ。ティアレラも安堵の表情を浮かべる。
「よかった、ホスタ王国なら対応が間に合います」
じっと考え込んでいたクレチマスが、ぼそっと指摘した。
「内通者を洗い出して処分すれば、かなり有利に交渉を進められる、か」
「ええ、交渉で済むことを祈りましょう」
にっこり笑うカレンデュラに、三人は心の中で同じ思いを抱いた。おそらく、交渉だけで済ます気はないだろう、と。
356
お気に入りに追加
691
あなたにおすすめの小説
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです!
12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。
両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪
ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/07/06……完結
2024/06/29……本編完結
2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位
2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位
2024/04/01……連載開始
【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。
悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。
逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位
2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位
2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位
2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位
2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位
2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位
2024/08/14……連載開始
無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ
桜井正宗
ファンタジー
帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。
ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。
【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」
「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」
公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。
理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。
王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!
頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。
※2022/05/10 「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過
※2021/08/16 「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過
※2021/01/30 完結
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる
千環
恋愛
第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。
なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる