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25.何から解決すべきか
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大人に任せると口にした途端、国王や二人の公爵は苦笑いを浮かべた。ある程度想定していた答えでもあり、常識で考えても次世代に押し付ける話ではない。
「ならば、協力だけお願いしよう」
謙るのとも違う。国王フィゲリウスは何か、憑き物が落ちたようにすっきりした顔で頭を下げた。目を見開いたビオラ達をよそに、予想していたカレンデュラは大きく息を吐き出す。ちらりと視線を向けた先で、コルジリネは肩を竦めた。
協力するともしないとも明言しない。正しい判断だとカレンデュラは頷いた。国を背負う皇太子である以上、勝手に他国への協力を口にできない。約束してしまえば、取り返しはつかなかった。
「陛下は何から手を付ける予定ですの?」
様子見、そんな雰囲気でティアレラが話を向ける。外交を担当するオスヴァルドが説明を受け持った。
「まず過去の事件を確認させている。以前はミューレンベルギア妃の邪魔が入ったが、今回はかなり真相に迫れるだろう」
カージナリス辺境伯家の領地は、ホスタ王国に近い。間に緩衝地帯の森が挟まるが、事実上、接していると表現できた。だが、大使を殺した衛兵の事件は、隣の領地で起きている。ティアレラはその頃生まれておらず、考え込んだ。
隣にあった男爵家は、この事件で領地と爵位を返上した。管理は王家に移行し、その後、カージナリス辺境伯領に併合されている。自領に、あの事件に詳しい人物がいただろうか。
ティアレラを抱き寄せたシオンが、思考の海から彼女を掬い上げた。というのも、夢中になると状況を忘れる傾向があるのだ。
「ティアレラ、ご両親に今回の件を連絡するついでに聞いてみたら?」
「あ、ええ。そうね」
他の人が呼んでも中々戻ってこないティアレラだが、婚約者シオンの声だとすぐ反応する。慣れているシオンは、ティアレラのさらりとした茶髪を撫でた。
「当時の真相も大事ですけれど、先に内通者の洗い出しが必要ではありませんの?」
カレンデュラが扇を広げ、ぱちんと音をさせて閉じる。己の父に対峙する姿勢をみせた。ビオラがぽっと頬を染め「かっこいい」と呟く。なぜか対抗するコルジリネが、隣に立ってビオラの視線から婚約者を隠した。大人げないやり取りにも、公爵令嬢は冷たい笑みを浮かべたまま。
我が子ながら、やりづらい。複雑な心境で呟いたデルフィニューム公爵に、国王フィゲリウスが被せる形で策を口にした。
「明後日の朝までに、内通者は確定する。その者らの首を刎ね、ホスタ王国へ送りつける予定だ。慣例に従い、国家反逆者の死体は晒して獣に食わせる。手を汚すのは、我々の世代の役目だ」
「伯父様の覚悟が決まったのなら、私に一つ策がございます。どうです? この手で踊ってみませんか」
妖艶な誘いに、フィゲリウスはごくりと喉を鳴らす。姪であるカレンデュラの才能に、恐怖と興奮を抱いた。ああ、この才覚が息子のどちらかに出ていたら。悔しさも滲ませながら、国王は参加を表明した。
「ならば、協力だけお願いしよう」
謙るのとも違う。国王フィゲリウスは何か、憑き物が落ちたようにすっきりした顔で頭を下げた。目を見開いたビオラ達をよそに、予想していたカレンデュラは大きく息を吐き出す。ちらりと視線を向けた先で、コルジリネは肩を竦めた。
協力するともしないとも明言しない。正しい判断だとカレンデュラは頷いた。国を背負う皇太子である以上、勝手に他国への協力を口にできない。約束してしまえば、取り返しはつかなかった。
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ティアレラを抱き寄せたシオンが、思考の海から彼女を掬い上げた。というのも、夢中になると状況を忘れる傾向があるのだ。
「ティアレラ、ご両親に今回の件を連絡するついでに聞いてみたら?」
「あ、ええ。そうね」
他の人が呼んでも中々戻ってこないティアレラだが、婚約者シオンの声だとすぐ反応する。慣れているシオンは、ティアレラのさらりとした茶髪を撫でた。
「当時の真相も大事ですけれど、先に内通者の洗い出しが必要ではありませんの?」
カレンデュラが扇を広げ、ぱちんと音をさせて閉じる。己の父に対峙する姿勢をみせた。ビオラがぽっと頬を染め「かっこいい」と呟く。なぜか対抗するコルジリネが、隣に立ってビオラの視線から婚約者を隠した。大人げないやり取りにも、公爵令嬢は冷たい笑みを浮かべたまま。
我が子ながら、やりづらい。複雑な心境で呟いたデルフィニューム公爵に、国王フィゲリウスが被せる形で策を口にした。
「明後日の朝までに、内通者は確定する。その者らの首を刎ね、ホスタ王国へ送りつける予定だ。慣例に従い、国家反逆者の死体は晒して獣に食わせる。手を汚すのは、我々の世代の役目だ」
「伯父様の覚悟が決まったのなら、私に一つ策がございます。どうです? この手で踊ってみませんか」
妖艶な誘いに、フィゲリウスはごくりと喉を鳴らす。姪であるカレンデュラの才能に、恐怖と興奮を抱いた。ああ、この才覚が息子のどちらかに出ていたら。悔しさも滲ませながら、国王は参加を表明した。
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