【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
24 / 100

24.王ではなく父として ***SIDE国王

しおりを挟む
 かの国も、日本も聞いたことはない。今回巻き込まれた当事者四人は、わかり合ったように客間に閉じこもった。話の内容に興味はあるが、こちらも話を詰める必要があった。

 自ら協力を名乗り出たデルフィニューム公爵はともかく、他の貴族家は完全なとばっちりだ。愚息がやらかした失態の詫びと、補償が必要だった。クレチマスとリッピアの親であるタンジー公爵、聖女ビオラを養女としたラックス男爵夫妻を部屋に招いた。

 カージナリス辺境伯家は、後日の詫びとなるだろう。ティアレラの婚約者シオンの実家、バーデン侯爵夫妻は夜会に参加していた。しかし侯爵夫妻は、辺境伯家の代わりに出席することを拒む。悪い意味ではなく、辺境伯家自ら乗り出す重要案件と考えた。

 カージナリス辺境伯の貢献を知るからこそ、勝手に示談や条件の提示をすることは、失礼に当たると口にする。もっともな話であり、私も頷いた。

「申し訳なかった。貴殿らの息子、娘に多大なる迷惑を掛けた。我が子の躾もできなかった私の責任だ」

 言い訳は不要だ。ミューレンベルギアの言動やホスタ王国との確執があっても、それを貴族家に波及させてはならなかった。王として詫び、父として謝罪する。顔を見合わせた男爵夫妻と違い、タンジー公爵は厳しい表情を崩さなかった。

「まさか、ホスタ王国に逃げ切られるようなことは……ないでしょうな?」

 ミューレンベルギアは自らの命で償った。ローランドはまだ処理できない。過去に押し切られた事故も含め、ホスタ王国に責任を問えるのか。厳しい言葉にぐっと拳を握る。

「過去の事故も再調査させている。最悪、ホスタ王国と国交断絶しても構わない」

「それは、戦争になるのでは?」

 タンジー公爵は一切容赦しない。隣で難しい顔をする友デルフィニューム公爵が、代わりに答えた。

「それを回避して賠償を得るのが、外交の役割だ。この命に代えても私が賠償を勝ち取る。戦争など起こさせん」

 タンジー公爵は眉根を寄せて考え込んだ。男爵夫妻はじっと話を聞いている。それから、男爵はおずおずと口を開いた。

「義娘のビオラは何か罪に問われるのでしょうか」

「それはない、安心してくれ」

 きっぱり言い切ったことで、男爵夫人の表情が柔らかくなった。男爵もほっとした様子だ。普段は顔を合わせて口を聞くこともない王や公爵ばかりの部屋で、この場にいない娘の心配をする。義理でも可愛がっているのが伝わった。

「傷つけられた名誉の回復、男爵家は子爵に陞爵、金銭での賠償。この程度が最低ラインですぞ」

 我が家は妥協してもいい。そんな口ぶりで、タンジー公爵が眉間の皺を緩めた。カージナリス辺境伯家の出方は不明だが、一つ片付いた。

「ありがとう、そうしよう。本当に申し訳なかった」

 王ではなく、愚かな息子の不始末を詫びる父として頭を下げた。

「フィゲリウス、ここからが忙しいぞ」

 デルフィニューム公爵オスヴァルドの言葉に、わかっていると頷いた。優秀すぎる次世代の若者は、何を求めるのか。愚かな過去の振る舞いのツケと理解しながらも、僅かばかりの希望を感じた。

「すべて片を付けねば、代替わりもできないな」

「わかっていればいい」

 肩を竦めるオスヴァルドに、ぎこちない笑みを返す。愚かだった過去の自分が先送りした問題が、今になって牙を剥いていた。若い世代に投げるわけにいかない。命を懸ける覚悟はできた。
しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

離縁をさせて頂きます、なぜなら私は選ばれたので。

kanon
恋愛
「アリシア、お前はもうこの家に必要ない。ブライト家から追放する」 父からの予想外の言葉に、私は目を瞬かせる。 我が国でも名高いブライト伯爵家のだたっぴろい応接間。 用があると言われて足を踏み入れた途端に、父は私にそう言ったのだ。 困惑する私を楽しむように、姉のモンタナが薄ら笑いを浮かべる。 「あら、聞こえなかったのかしら? お父様は追放と言ったのよ。まさか追放の意味も知らないわけじゃないわよねぇ?」

踏み台(王女)にも事情はある

mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。 聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。 王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】冤罪で殺された王太子の婚約者は100年後に生まれ変わりました。今世では愛し愛される相手を見つけたいと思っています。

金峯蓮華
恋愛
どうやら私は階段から突き落とされ落下する間に前世の記憶を思い出していたらしい。 前世は冤罪を着せられて殺害されたのだった。それにしても酷い。その後あの国はどうなったのだろう? 私の願い通り滅びたのだろうか? 前世で冤罪を着せられ殺害された王太子の婚約者だった令嬢が生まれ変わった今世で愛し愛される相手とめぐりあい幸せになるお話。 緩い世界観の緩いお話しです。 ご都合主義です。 *タイトル変更しました。すみません。

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

王太子エンドを迎えたはずのヒロインが今更私の婚約者を攻略しようとしているけどさせません

黒木メイ
恋愛
日本人だった頃の記憶があるクロエ。 でも、この世界が乙女ゲームに似た世界だとは知らなかった。 知ったのはヒロインらしき人物が落とした『攻略ノート』のおかげ。 学園も卒業して、ヒロインは王太子エンドを無事に迎えたはずなんだけど……何故か今になってヒロインが私の婚約者に近づいてきた。 いったい、何を考えているの?! 仕方ない。現実を見せてあげましょう。 と、いうわけでクロエは婚約者であるダニエルに告げた。 「しばらくの間、実家に帰らせていただきます」 突然告げられたクロエ至上主義なダニエルは顔面蒼白。 普段使わない頭を使ってクロエに戻ってきてもらう為に奮闘する。 ※わりと見切り発車です。すみません。 ※小説家になろう様にも掲載。(7/21異世界転生恋愛日間1位) 第12回ネット小説大賞 小説部門入賞! 書籍化作業進行中 (宝島社様から大幅加筆したものを出版予定です)

処理中です...