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19.侯爵子息は淡々と語る
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「平野愛梨、芸名はアイリンよ。十九歳の誕生日に死んじゃったの。たぶん、誰かとぶつかったと思う。最後の記憶は倒れていて、目の前に人が血まみれで倒れていたから」
それって飛び降りに巻き込まれたのでは? 不運にも程がある。顔を引き攣らせたカレンデュラとコルジリネは、さすがに言葉にしなかった。だが、クレチマスは平然と指摘する。
「それ、飛び降りた人に当たったんじゃないか? 自殺の巻き添えだな」
「うーん、やっぱりそうなのかな」
「ところで、なぜ十九歳で女子高生なんだ? 留年したのか」
そっちも触れない方がいいと思った。そんな顔でティアレラが額を押さえる。空気を読まないタイプのクレチマスに、ビオラはさほど気にした様子なく答えた。
「それがぁ、試験日を一日間違えてて、入学試験を受けられなかったんだよね。翌年入れたからいいけど」
もうすぐ卒業で、アイドル活動に力を入れるつもりだったんだよ。そう付け足し、彼女は大きく溜め息を吐いた。
「私が平成元年生まれだから、平成十九年に死んだのかな。気になってる漫画や小説、完結してたなら、誰か結末を教えてほしいかも」
四人は顔を見合わせ、曖昧に微笑んだ。あの語り具合からして、うっかり話したら質問攻めにされそうだった。話に入れないリッピアは、用意されたお茶に口をつける。隣でクレチマスが蜂蜜を垂らした。空気は読めないが、義妹の好みは把握しているらしい。
シオンは比較表を眺め、不思議な文字に首を捻っていた。侯爵子息として、周辺国の言語を学んだが、始めてみる文字ばかりだ。いずれ覚えたいと零し、ティアレラに「難しいわよ」と止められていた。
「最後は俺か」
大切なリッピアを抱き寄せ、彼女の髪を撫でながら話し始めた。
「田上士郎、享年七十七歳。家族に見守られ、畳の上で大往生だ。田舎で農家をしていた」
「それは……」
ある意味、一番平和な死に方だった。未練もなさそうだ。他の四人と違い、なぜ異世界に呼ばれたのか、理由がわからない。
「孫が可愛い盛りでな、彼女に付き合ってよくアニメを観た。その一つに、この世界がよく似ている。確か『リクニスの花』だったか?」
思い出しながら作品名を口にする。
「え? 『リクニスの花』は知ってる! あれはヒロインが異世界の聖女で、大切な兄を守ろうとする妹ちゃんが主人公だったよね。じゃあ、リッピア様が主人公だと思ってたのね」
詳細を説明したビオラに頷く。クレチマスも物語の詳細まで覚えているわけではないが、アニメだったので音や似た風景を見るたびに、ふわりと思い出していたと言う。孫娘のご贔屓だったリッピアが、可愛くて仕方ないのだろう。目を細める姿は祖父のようだった。
激しく燃える恋ではないけれど、重くて揺るぎない愛情を注がれるリッピアにしてあげられること。ティアレラとカレンデュラは、何かあったら相談するよう告げた。そのくらいしか思いつかない。
「さきほど『リクニスの花』と言ったが、国の名前が入っていたのか」
コルジリネが考え込む。それでいくと、クレチマスの物語がこの世界なのでは?
「あれって古いわよ、私が小学生の頃だったし」
ビオラの指摘で、平成十年前後と推測できる。何もかもバラバラの比較表を眺め、それぞれに考え込んだ。
「ねえ、お腹空いちゃった」
ぐぅ……と腹の虫に催促され、ビオラがへらりと笑う。ここでお開きとし、また時間を改めて集まろうと決めた。
それって飛び降りに巻き込まれたのでは? 不運にも程がある。顔を引き攣らせたカレンデュラとコルジリネは、さすがに言葉にしなかった。だが、クレチマスは平然と指摘する。
「それ、飛び降りた人に当たったんじゃないか? 自殺の巻き添えだな」
「うーん、やっぱりそうなのかな」
「ところで、なぜ十九歳で女子高生なんだ? 留年したのか」
そっちも触れない方がいいと思った。そんな顔でティアレラが額を押さえる。空気を読まないタイプのクレチマスに、ビオラはさほど気にした様子なく答えた。
「それがぁ、試験日を一日間違えてて、入学試験を受けられなかったんだよね。翌年入れたからいいけど」
もうすぐ卒業で、アイドル活動に力を入れるつもりだったんだよ。そう付け足し、彼女は大きく溜め息を吐いた。
「私が平成元年生まれだから、平成十九年に死んだのかな。気になってる漫画や小説、完結してたなら、誰か結末を教えてほしいかも」
四人は顔を見合わせ、曖昧に微笑んだ。あの語り具合からして、うっかり話したら質問攻めにされそうだった。話に入れないリッピアは、用意されたお茶に口をつける。隣でクレチマスが蜂蜜を垂らした。空気は読めないが、義妹の好みは把握しているらしい。
シオンは比較表を眺め、不思議な文字に首を捻っていた。侯爵子息として、周辺国の言語を学んだが、始めてみる文字ばかりだ。いずれ覚えたいと零し、ティアレラに「難しいわよ」と止められていた。
「最後は俺か」
大切なリッピアを抱き寄せ、彼女の髪を撫でながら話し始めた。
「田上士郎、享年七十七歳。家族に見守られ、畳の上で大往生だ。田舎で農家をしていた」
「それは……」
ある意味、一番平和な死に方だった。未練もなさそうだ。他の四人と違い、なぜ異世界に呼ばれたのか、理由がわからない。
「孫が可愛い盛りでな、彼女に付き合ってよくアニメを観た。その一つに、この世界がよく似ている。確か『リクニスの花』だったか?」
思い出しながら作品名を口にする。
「え? 『リクニスの花』は知ってる! あれはヒロインが異世界の聖女で、大切な兄を守ろうとする妹ちゃんが主人公だったよね。じゃあ、リッピア様が主人公だと思ってたのね」
詳細を説明したビオラに頷く。クレチマスも物語の詳細まで覚えているわけではないが、アニメだったので音や似た風景を見るたびに、ふわりと思い出していたと言う。孫娘のご贔屓だったリッピアが、可愛くて仕方ないのだろう。目を細める姿は祖父のようだった。
激しく燃える恋ではないけれど、重くて揺るぎない愛情を注がれるリッピアにしてあげられること。ティアレラとカレンデュラは、何かあったら相談するよう告げた。そのくらいしか思いつかない。
「さきほど『リクニスの花』と言ったが、国の名前が入っていたのか」
コルジリネが考え込む。それでいくと、クレチマスの物語がこの世界なのでは?
「あれって古いわよ、私が小学生の頃だったし」
ビオラの指摘で、平成十年前後と推測できる。何もかもバラバラの比較表を眺め、それぞれに考え込んだ。
「ねえ、お腹空いちゃった」
ぐぅ……と腹の虫に催促され、ビオラがへらりと笑う。ここでお開きとし、また時間を改めて集まろうと決めた。
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