上 下
18 / 100

18.お取り巻きモブと主人公

しおりを挟む
「次は、私でいいかしら」

 続いたのは、カージナリス辺境伯家のティアレラだ。先ほど書いた紙に視線を落としながら読み上げた。

「佐竹充。東北出身で転勤が多かったけれど、最後は横浜にいたわ。三十二歳で、転落死よ」

「転落……高宮さん? と同じだな」

 クレチマスの微妙な指摘に、カレンデュラが首を横に振った。

「今の名前に統一しましょう。日本の名前では混乱するもの」

 もっともな言葉に、全員が同意する。実際、覚えたとしても外では使えないのだ。

「それより気になったんだけど、ティアレラ様は日本で男性だったんですか?」

 ビオラが驚きを露わにする。「さたけ、みつる」と名乗ったため、気になったようだ。

「ええ、女性の体に慣れるのは大変よ。以前は会社員だったわね。結構有名な大企業の営業職だったの。全国、あちこちに転勤して、毎年引っ越していたわ」

「へぇ、社畜ってやつですね」

「ふふっ、そうかも」

 ビオラとティアレラは雑談を一段落させる。まだ情報がすべて公開されていなかった。

「令和元年の夏に、子供を助けて崖から落ちたはず。似ている心当たりの物語は、さきほどタンジー公爵子息がおっしゃった通り『花冠に愛を誓う』だと思うわ。私は悪役令嬢のお取り巻きの一人だったの。コミカライズされた際に増えた脇役で、小説では名前もないモブAよ」

 自分で比較表に転記していく。元男性だったが、学生の頃からネットで公開された小説を読んできた。有名サイトで人気になった小説に何げなく目を通し、気に入ってコミカライズされた漫画を電子書籍で購入した。

 大量の情報を手際よく纏める姿は、エリート社畜っぽい。比較表を最初に作り始めたのも、営業職という過去を裏付けた。やはり性格形成には、日本での過去が影響するようだ。

「思い出したのは、二歳くらい? 蜂に驚いた馬に蹴られそうになって転んだの。その時に頭を打って思い出したわ」

 迷ったが、転生組に分類された。体と性別が変わっているし、難しいものは後で判断することにする。まずは全員の話を聞くことが優先だった。

「馬に蹴られそうになった部分は、私も同じよ」

 ビオラが手を挙げる。元気いっぱい、平民出身の聖女は割り込むように話し始めた。

「この世界に突然現れちゃって、目の前に蹄があったら驚くわ。女子高生が馬や蹄なんて判断つかないし、近くにいた洗濯屋のおじさんが引っ張るのが間に合わなかったら、死んでたもん」

 ビオラは転移だろうか。ピンクの髪色は、日本では珍しい。その点は彼女が自ら語った。

「私、日本で地下アイドルやってたの。それで髪をピンクに染めて、空色のカラコンを入れてたのね。大好きな『聖女は月光を手に』の主人公の真似よ。国を救う聖女として降臨して、攻略対象と愛を育む。典型的な乙女ゲームの展開よね。王子が迎えに来たし、てっきり主人公だと思ったのになぁ」

「あら、髪は染めたの?」

 カレンデュラは、そっと指先で摘んでピンク色を確認する。

「日本では染めていたの。でもこの世界に来たら、不思議とこの色になっちゃったんだ。カラコンも消えちゃったし」

 物語のご都合主義だと考え、あまり気にしなかったようだ。悪役令嬢役のカレンデュラと仲良くなり、なんとか断罪シーンを避けようとした結果が、今回の婚約破棄騒動のようだ。

「ビオラ、脱線しているわ」

 比較表が埋まらない。ティアレラに睨まれ、ぺろっと舌を見せたビオラは書いた丸文字の紙を提示した。
しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】幼な妻は年上夫を落としたい ~妹のように溺愛されても足りないの~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
この人が私の夫……政略結婚だけど、一目惚れです! 12歳にして、戦争回避のために隣国の王弟に嫁ぐことになった末っ子姫アンジェル。15歳も年上の夫に会うなり、一目惚れした。彼のすべてが大好きなのに、私は年の離れた妹のように甘やかされるばかり。溺愛もいいけれど、妻として愛してほしいわ。  両片思いの擦れ違い夫婦が、本物の愛に届くまで。ハッピーエンド確定です♪  ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/07/06……完結 2024/06/29……本編完結 2024/04/02……エブリスタ、トレンド恋愛 76位 2024/04/02……アルファポリス、女性向けHOT 77位 2024/04/01……連載開始

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

無人島Lv.9999 無人島開発スキルで最強の島国を作り上げてスローライフ

桜井正宗
ファンタジー
 帝国の第三皇子・ラスティは“無能”を宣告されドヴォルザーク帝国を追放される。しかし皇子が消えた途端、帝国がなぜか不思議な力によって破滅の道へ進む。周辺国や全世界を巻き込み次々と崩壊していく。  ラスティは“謎の声”により無人島へ飛ばされ定住。これまた不思議な能力【無人島開発】で無人島のレベルをアップ。世界最強の国に変えていく。その噂が広がると世界の国々から同盟要請や援助が殺到するも、もう遅かった。ラスティは、信頼できる仲間を手に入れていたのだ。彼らと共にスローライフを送るのであった。

【完結】聖女と結婚ですか? どうぞご自由に 〜婚約破棄後の私は魔王の溺愛を受ける〜

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 「アゼリア・フォン・ホーヘーマイヤー、俺はお前との婚約を破棄する!」 「王太子殿下、我が家名はヘーファーマイアーですわ」  公爵令嬢アゼリアは、婚約者である王太子ヨーゼフに婚約破棄を突きつけられた。それも家名の間違い付きで。  理由は聖女エルザと結婚するためだという。人々の視線が集まる夜会でやらかした王太子に、彼女は満面の笑みで婚約関係を解消した。  王太子殿下――あなたが選んだ聖女様の意味をご存知なの? 美しいアゼリアを手放したことで、国は傾いていくが、王太子はいつ己の失態に気づけるのか。自由に羽ばたくアゼリアは、魔王の溺愛の中で幸せを掴む!  頭のゆるい王太子をぎゃふんと言わせる「ざまぁ」展開ありの、ハッピーエンド。 ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2021/08/16  「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過 ※2021/01/30  完結 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環
恋愛
 第三王子の婚約者であった侯爵令嬢アドリアーナだが、第三王子が想いを寄せる男爵令嬢を害した罪で婚約破棄を言い渡されたことによりスタングロム侯爵家から勘当され、平民アニーとして生きることとなった。  なんとか日々を過ごす内に12年の歳月が流れ、ある時出会った10歳年上の平民アレクと結ばれて、可愛い娘チェルシーを授かり、とても幸せに暮らしていたのだが……道に飛び出して馬車に轢かれそうになった娘を庇おうとしたアニーは気付けば6歳のアドリアーナに戻っていた。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...