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15.日本を知っている人は挙手

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「今後の話が先なのでは?」

 コルジリネの疑問はもっともだ。しかしカレンデュラは首を横に振った。

「ホスタ王国が動くまでの間、他の方々も尻尾を出したり、逃走したりと忙しいはずよ。時間を有効利用しましょう」

 あちらこちらへ配置した騎士や影を利用し、隠れている敵を炙り出す。

 まず、ミューレンベルギア妃の参謀役を探す必要があった。妃自身に、他者を操り利用する才覚はない。ならば、ホスタ王国から妃に指示が出ていたはず。その中継役、または指示役を発見することが重要だった。

 第一王子ローランドを担ごうとするか、または口封じに出るか。どちらにしても、護衛を兼ねた監視が派遣されている。公爵家が二つと辺境伯家が手を組んだ今、リクニス国の決定権は王家の手になかった。

「そうですね、カレンデュラ様のおっしゃる通りだわ。私達の誰がかの国を知っていて、誰が知らないのか。ここが一番重要だと思います」

 ティアレラが賛成したことで、室内の七人が互いを改めて確認した。うっかり悪役令嬢や作品名を口にしたクレチマスは確定だろう。セーフと呟いたティアレラも怪しい。カレンデュラとビオラも悪役令嬢に反応した。

「ふむ、少なくとも四人はかの国とやらを知っているらしいな」

 皇太子コルジリネは淡々と話を纏めた。些細な表情の変化や口調の違いを見落とすようでは、皇族は務まらない。皇太子として認められる程度の、社交能力は備えていた。

「はっきりさせましょう、日本を知っている人は手を挙げる。いいわね」

 カレンデュラが自ら先陣を切った、かの国と濁していた表現を「日本」に直す。全員が厳かに頷き、手を挙げたのは……五人だった。

「え?! うそ!」

「一人だけ予想外の人が混じっているんだが」

「狸ねぇ……」

 当初予想した日本からの転移や転生者は四人だ。カレンデュラ、ティアレラ、ビオラ、クレチマス。挙がった手は五人、もう一人はコルジリネだった。

 カレンデュラは予想していたのか、軽く目を見開いたのみ。ビオラが思わず、といった顔で叫んだ。クレチマスがうわっと顔を顰め、呆れたと滲ませた最後の声はティアレラである。

「やっぱりね。でもここで手を挙げると思わなかったわ」

 隠すと思っていたの。カレンデュラは婚約者に肩を竦めてみせた。きょとんとした顔で状況が掴めないのは、クレチマスの婚約者で義妹のリッピアだ。シオンは事前にティアレラから聞いていたのか、穏やかな笑みを崩さなかった。

「こんなにいたなんて」

 驚いた様子を隠さないビオラは、水色の瞳を丸くしている。

「ビオラだったかな? 私の婚約者を返してほしいんだが」

 コルジリネに諭され、自分の手を視線で追って……カレンデュラのスカートを掴んだ指先に気づく。きつく掴んでいたので、シワになってしまった。

「ごめんなさい、カレンデュラ様」

「あら、よくてよ。侍女にボーナスを出す理由になるもの」

 ほほほと笑う公爵令嬢は、もう転生の事実を隠そうとしなかった。ボーナスなんて、日本人にしか通じない。わざと使われた単語に、意味を知る者達はにやりと笑った。
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