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01.お決まりの婚約破棄から始まった
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「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
煌びやかな王宮の広間で、着飾った美しい人々が固まる。まだ国王夫妻不在の大広間は、招待された紳士淑女がさざめいていた。本日は王太子ローランドの婚約が発表される。その夜会で、王太子の叫んだ言葉に驚愕が広がった。
国王の玉座へ続く階段の中ほどで、王太子は聖女ビオラを抱き寄せてふんぞり返る。どこかで見たような展開、読んだ気がする台詞、そして……現実の中で取り残された貴族達。反応は大きく分けて二つだった。何が起きたのか理解が追いつかずきょとんとする者、これは大変だと慌てふためく人々。
ここで名指しされた令嬢が進み出た。さっと人々が道を開けたため、王太子まで一直線に見通せる状況だ。黒に近い深い紫のドレスに、黄金の飾りを纏う美女は堂々と進み出た。波打つ金髪は白い小花を散らし、真珠が輝く。燃えるような赤い瞳が照明を弾いた。
笑みに歪んだ口元を扇で隠しながら、カレンデュラは一定の距離を測って足を止めた。軽く会釈する形で挨拶する。リクニス国のデルフィニューム公爵令嬢、黄金の華と呼ばれる美女は自国の王太子の愚挙に溜め息を吐いた。大げさに、誰もがわかるように。
周囲の貴族からは、同情の視線が注がれる。
「ローランド王子殿下、婚約破棄と申されましたが」
もう王太子ではないから、正式な呼び方をしなくてはね。カレンデュラは呆れ返りながらも、嫌みをチクリとまぜる。
「貴様の悪行は、報告を受けている!!」
「最後まで聞いてくださいませ。婚約の件ですが」
「うるさい! 俺に命令するな」
ちっ、思わず扇の陰で舌打ちする。淑女らしからぬ仕草は、誰にも気づかれなかった。いや、気づいた人物がいる。歩み寄る黒髪の青年だ。金色に光る瞳を細め剣呑な雰囲気を纏う彼は、カレンデュラの隣に立った。
「貴様、王族と婚約状態にありながら、他の男に寄り添うのか!」
さきほど、婚約破棄を叫んだくせに? 誰もが頭に疑問符を浮かべる。だが問題はそれ以前だった。他の男というが、金の瞳は隣国セントーレア帝国の皇族特有の色だ。仮にも王太子を名乗った者が、それを見落とすなど。数倍の国力を誇る帝国相手に、喧嘩を売るに等しい行為だった。
「愛しのカレンデュラ、私に任せてもらえるだろうか」
「構いませんわ。それと……あのご令嬢には用がありますの」
勝手に片付けないでくださいね。微笑む公爵令嬢に、膝を突いて手の甲に唇を寄せた青年が立ち上がる。短く整えた黒髪がふわりと風に揺れた。見惚れる令嬢から甘い吐息が漏れる。
青褪めた聖女ビオラは、震えながら数歩下がろうとした。その腰を強引に抱き寄せ、ローランドが叫ぶ。王族とは思えない愚行の連続だった。
「貴様っ、まだビオラを虐めようというのか。なんと性根の腐った女だ」
「今の言葉、お前の首をかけての発言か? セントーレア帝国皇太子の婚約者への暴言、許されんぞ」
「は?」
信じて、というか理解できていないようね。本当に出来が悪くて頭の中身が足りない人だわ。これでも王子、それも私の従兄弟だなんて……恥さらしもいいところね。カレンデュラは扇で本音を隠しながら、聖女ビオラの様子を窺う。怯えているけれど、ケガはなさそう。早く何とかしてあげたいわ。
煌びやかな王宮の広間で、着飾った美しい人々が固まる。まだ国王夫妻不在の大広間は、招待された紳士淑女がさざめいていた。本日は王太子ローランドの婚約が発表される。その夜会で、王太子の叫んだ言葉に驚愕が広がった。
国王の玉座へ続く階段の中ほどで、王太子は聖女ビオラを抱き寄せてふんぞり返る。どこかで見たような展開、読んだ気がする台詞、そして……現実の中で取り残された貴族達。反応は大きく分けて二つだった。何が起きたのか理解が追いつかずきょとんとする者、これは大変だと慌てふためく人々。
ここで名指しされた令嬢が進み出た。さっと人々が道を開けたため、王太子まで一直線に見通せる状況だ。黒に近い深い紫のドレスに、黄金の飾りを纏う美女は堂々と進み出た。波打つ金髪は白い小花を散らし、真珠が輝く。燃えるような赤い瞳が照明を弾いた。
笑みに歪んだ口元を扇で隠しながら、カレンデュラは一定の距離を測って足を止めた。軽く会釈する形で挨拶する。リクニス国のデルフィニューム公爵令嬢、黄金の華と呼ばれる美女は自国の王太子の愚挙に溜め息を吐いた。大げさに、誰もがわかるように。
周囲の貴族からは、同情の視線が注がれる。
「ローランド王子殿下、婚約破棄と申されましたが」
もう王太子ではないから、正式な呼び方をしなくてはね。カレンデュラは呆れ返りながらも、嫌みをチクリとまぜる。
「貴様の悪行は、報告を受けている!!」
「最後まで聞いてくださいませ。婚約の件ですが」
「うるさい! 俺に命令するな」
ちっ、思わず扇の陰で舌打ちする。淑女らしからぬ仕草は、誰にも気づかれなかった。いや、気づいた人物がいる。歩み寄る黒髪の青年だ。金色に光る瞳を細め剣呑な雰囲気を纏う彼は、カレンデュラの隣に立った。
「貴様、王族と婚約状態にありながら、他の男に寄り添うのか!」
さきほど、婚約破棄を叫んだくせに? 誰もが頭に疑問符を浮かべる。だが問題はそれ以前だった。他の男というが、金の瞳は隣国セントーレア帝国の皇族特有の色だ。仮にも王太子を名乗った者が、それを見落とすなど。数倍の国力を誇る帝国相手に、喧嘩を売るに等しい行為だった。
「愛しのカレンデュラ、私に任せてもらえるだろうか」
「構いませんわ。それと……あのご令嬢には用がありますの」
勝手に片付けないでくださいね。微笑む公爵令嬢に、膝を突いて手の甲に唇を寄せた青年が立ち上がる。短く整えた黒髪がふわりと風に揺れた。見惚れる令嬢から甘い吐息が漏れる。
青褪めた聖女ビオラは、震えながら数歩下がろうとした。その腰を強引に抱き寄せ、ローランドが叫ぶ。王族とは思えない愚行の連続だった。
「貴様っ、まだビオラを虐めようというのか。なんと性根の腐った女だ」
「今の言葉、お前の首をかけての発言か? セントーレア帝国皇太子の婚約者への暴言、許されんぞ」
「は?」
信じて、というか理解できていないようね。本当に出来が悪くて頭の中身が足りない人だわ。これでも王子、それも私の従兄弟だなんて……恥さらしもいいところね。カレンデュラは扇で本音を隠しながら、聖女ビオラの様子を窺う。怯えているけれど、ケガはなさそう。早く何とかしてあげたいわ。
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