96 / 97
番外編
1-5.気恥ずかしいのも幸せの一部
しおりを挟む
今回、王妃様はお城に残ったらしい。というのも、ご令嬢達のデビュタントを手伝うとか。きっと華やかなのだろうと頬を緩める。
私は王族なので、デビュタントの前に公務で夜会に参加していた。だから緊張する初めての公務は覚えていない。よちよち歩いて愛想を振りまいたと教えてもらったが、その表現だと今のミレイユより幼かったはず。
雑談を交えながら、義兄に当たる陛下とお茶を楽しむ。エル様は始終笑顔で、膝に乗せたミレイユもご機嫌だった。マリユスは私の膝ではなく、陛下に抱っこされている。少しでも姉の近くにいたいんですって。
いつもならマリユスを優先するエル様も、今日はミレイユ中心だ。本人は忘れているけれど、マリユスが生まれるまでのあなたは、私もエル様も独り占めだったのよ。笑いながら伝え、籠に入れなかった焼き菓子を味わった。
割れた焼き菓子は、クロエとセリアがリメイクしてくれる予定だ。事前に頼んでおいて正解だったわ。料理長が用意したのは、たっぷりのクリームが塗られたシフォンケーキだった。空気を入れてふんわりと仕上がったスポンジに、甘酸っぱいクリームを塗る。
レアチーズのような味のクリームに覆われたケーキは、上に飾り付けがされていなかった。シンプルなケーキが中央に置かれ、クロエとセリアが別の皿を差し出す。茶色い粉状の皿に、ミレイユはピンときたみたい。
「これ、上にかけるの?」
「ええ、お願いしますね」
クロエに促され、エル様に背を押されて、ミレイユは目を輝かせた。手をよく拭いて、粉をスプーンで掬う。ぱらぱらと掛けるも、量が多かった。割れたクッキーを全部砕いたのね。最後はクリームへ混ぜるように、大量の粉を被せた。
待っていた料理長が、お上手ですと褒めながらレモンを飾る。蜂蜜に漬けたレモンを並べて完成のようで、彼は用意した包丁で綺麗に切り分けた。
取り分けられたケーキを味わい、笑い合って割れた話を終わらせる。あとで料理長によくお礼を言わなくては、ね。
子供達の勉強は休みにしたけれど、お昼寝があるので部屋に戻す。国王陛下も休むと言い残し、護衛と屋敷の中へ。お義兄様、気が利いてるわ。
「エル様、きゃっ」
呼びかけた途端に抱っこされて、不安定な体勢に驚いて声が出る。侍女達は見ないフリで、さっさと片付け始めた。
「時間をもらえるかな? 可愛い奥様」
「よろしくてよ、旦那様」
ちょっと気取った口調で笑い合い、首を傾けて身を預ける。二人で仲良く部屋に消える姿を、使用人が微笑ましげに見送った。
乱れた髪を整え、着替えて寝室から出たら、ミレイユが走ってきた。飛びつく彼女を受け止め、どうしたのと尋ねる。
「さっき、お父様とお母様は抱っこだったでしょう? 私もして欲しいわ」
「……そう、お父様に頼んでみましょうね」
なんとか叫ぶのは我慢する。寝室へ籠った両親の行いは理解できない年齢だけど、気恥ずかしいわ。あたふたと髪に乱れがないか確かめ、微笑んでエル様に丸投げすることにした。堂々と説明できないわ。
後ろから出てきたエル様は、そっと扉を閉める。気づいていますよ、そう知らせるためにノックした。諦めた彼が顔を見せるのは、もう少し先ね。
*************************
明日は、国王陛下の目線で一つ_( _*´ ꒳ `*)_
私は王族なので、デビュタントの前に公務で夜会に参加していた。だから緊張する初めての公務は覚えていない。よちよち歩いて愛想を振りまいたと教えてもらったが、その表現だと今のミレイユより幼かったはず。
雑談を交えながら、義兄に当たる陛下とお茶を楽しむ。エル様は始終笑顔で、膝に乗せたミレイユもご機嫌だった。マリユスは私の膝ではなく、陛下に抱っこされている。少しでも姉の近くにいたいんですって。
いつもならマリユスを優先するエル様も、今日はミレイユ中心だ。本人は忘れているけれど、マリユスが生まれるまでのあなたは、私もエル様も独り占めだったのよ。笑いながら伝え、籠に入れなかった焼き菓子を味わった。
割れた焼き菓子は、クロエとセリアがリメイクしてくれる予定だ。事前に頼んでおいて正解だったわ。料理長が用意したのは、たっぷりのクリームが塗られたシフォンケーキだった。空気を入れてふんわりと仕上がったスポンジに、甘酸っぱいクリームを塗る。
レアチーズのような味のクリームに覆われたケーキは、上に飾り付けがされていなかった。シンプルなケーキが中央に置かれ、クロエとセリアが別の皿を差し出す。茶色い粉状の皿に、ミレイユはピンときたみたい。
「これ、上にかけるの?」
「ええ、お願いしますね」
クロエに促され、エル様に背を押されて、ミレイユは目を輝かせた。手をよく拭いて、粉をスプーンで掬う。ぱらぱらと掛けるも、量が多かった。割れたクッキーを全部砕いたのね。最後はクリームへ混ぜるように、大量の粉を被せた。
待っていた料理長が、お上手ですと褒めながらレモンを飾る。蜂蜜に漬けたレモンを並べて完成のようで、彼は用意した包丁で綺麗に切り分けた。
取り分けられたケーキを味わい、笑い合って割れた話を終わらせる。あとで料理長によくお礼を言わなくては、ね。
子供達の勉強は休みにしたけれど、お昼寝があるので部屋に戻す。国王陛下も休むと言い残し、護衛と屋敷の中へ。お義兄様、気が利いてるわ。
「エル様、きゃっ」
呼びかけた途端に抱っこされて、不安定な体勢に驚いて声が出る。侍女達は見ないフリで、さっさと片付け始めた。
「時間をもらえるかな? 可愛い奥様」
「よろしくてよ、旦那様」
ちょっと気取った口調で笑い合い、首を傾けて身を預ける。二人で仲良く部屋に消える姿を、使用人が微笑ましげに見送った。
乱れた髪を整え、着替えて寝室から出たら、ミレイユが走ってきた。飛びつく彼女を受け止め、どうしたのと尋ねる。
「さっき、お父様とお母様は抱っこだったでしょう? 私もして欲しいわ」
「……そう、お父様に頼んでみましょうね」
なんとか叫ぶのは我慢する。寝室へ籠った両親の行いは理解できない年齢だけど、気恥ずかしいわ。あたふたと髪に乱れがないか確かめ、微笑んでエル様に丸投げすることにした。堂々と説明できないわ。
後ろから出てきたエル様は、そっと扉を閉める。気づいていますよ、そう知らせるためにノックした。諦めた彼が顔を見せるのは、もう少し先ね。
*************************
明日は、国王陛下の目線で一つ_( _*´ ꒳ `*)_
201
お気に入りに追加
547
あなたにおすすめの小説
鬼上司は間抜けな私がお好きです
碧井夢夏
恋愛
れいわ紡績に就職した新入社員、花森沙穂(はなもりさほ)は社内でも評判の鬼上司、東御八雲(とうみやくも)のサポートに配属させられる。
ドジな花森は何度も東御の前で失敗ばかり。ところが、人造人間と噂されていた東御が初めて楽しそうにしたのは花森がやらかした時で・・。
孤高の人、東御八雲はなんと間抜けフェチだった?!
その上、育ちが特殊らしい雰囲気で・・。
ハイスペック超人と口だけの間抜け女子による上司と部下のラブコメ。
久しぶりにコメディ×溺愛を書きたくなりましたので、ゆるーく連載します。
会話劇ベースに、コミカル、ときどき、たっぷりと甘く深い愛のお話。
「めちゃコミック恋愛漫画原作賞」優秀作品に選んでいただきました。
※大人ラブです。R15相当。
表紙画像はMidjourneyで生成しました。
年に一度の旦那様
五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして…
しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…
Take me out~私を籠から出すのは強引部長?~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「俺が君を守ってやる。
相手が父親だろうが婚約者だろうが」
そう言って私に自由を与えてくれたのは、父の敵の強引部長でした――。
香芝愛乃(かしば よしの)
24歳
家電メーカー『SMOOTH』経営戦略部勤務
専務の娘
で
IoT本部長で社長の息子である東藤の婚約者
父と東藤に溺愛され、なに不自由なく育ってきた反面、
なにひとつ自由が許されなかった
全てにおいて、諦めることになれてしまった人
×
高鷹征史(こうたか まさふみ)
35歳
家電メーカー『SMOOTH』経営戦略部部長
銀縁ボストン眼鏡をかける、人形のようにきれいな人
ただし、中身は俺様
革新的で社内の改革をもくろむ
保守的な愛乃の父とは敵対している
口、悪い
態度、でかい
でも自分に正直な、真っ直ぐな男
×
東藤春熙(とうどう はるき)
28歳
家電メーカー『SMOOTH』IoT本部長
社長の息子で次期社長
愛乃の婚約者
親の七光りもあるが、仕事は基本、できる人
優しい。
優しすぎて、親のプレッシャーが重荷
愛乃を過剰なまでに溺愛している
実は……??
スイートな婚約者とビターな上司。
愛乃が選ぶのは、どっち……?
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
申し訳ないけど、悪役令嬢から足を洗らわせてもらうよ!
甘寧
恋愛
この世界が小説の世界だと気づいたのは、5歳の頃だった。
その日、二つ年上の兄と水遊びをしていて、足を滑らせ溺れた。
その拍子に前世の記憶が凄まじい勢いで頭に入ってきた。
前世の私は東雲菜知という名の、極道だった。
父親の後を継ぎ、東雲組の頭として奮闘していたところ、組同士の抗争に巻き込まれ32年の生涯を終えた。
そしてここは、その当時読んでいた小説「愛は貴方のために~カナリヤが望む愛のカタチ~」の世界らしい。
組の頭が恋愛小説を読んでるなんてバレないよう、コソコソ隠れて読んだものだ。
この小説の中のミレーナは、とんだ悪役令嬢で学園に入学すると、皆に好かれているヒロインのカナリヤを妬み、とことん虐め、傷ものにさせようと刺客を送り込むなど、非道の限りを尽くし断罪され死刑にされる。
その悪役令嬢、ミレーナ・セルヴィロが今の私だ。
──カタギの人間に手を出しちゃ、いけないねぇ。
昔の記憶が戻った以上、原作のようにはさせない。
原作を無理やり変えるんだ、もしかしたらヒロインがハッピーエンドにならないかもしれない。
それでも、私は悪役令嬢から足を洗う。
小説家になろうでも連載してます。
※短編予定でしたが、長編に変更します。
公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~
薄味メロン
恋愛
HOTランキング 1位 (2019.9.18)
お気に入り4000人突破しました。
次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。
だが、誰も知らなかった。
「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」
「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」
メアリが、追放の準備を整えていたことに。
傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました
みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。
ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる