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78.大きな被害に胸が痛む
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「騎士様が帰ってきました」
クロエは相変わらず小声だ。後ろから物音がして、馬車の中で動かなかった三人が出てきた。デジレは腕に血が滲んでいるけれど、セリア達は無事みたい。ほっとしながら、近づく足音に耳を澄ませた。
草を踏む音かしら。かさかさと乾いた音がして、女騎士ナタリーが顔を見せた。木々の間にある茂みをかき分けた彼女は、私に一礼する。クロエと小声で話し始めた。
ここは森の入り口だけれど、村まで歩いて行くと遠い。馬車が壊れたので、半日近くは歩かなければならなかった。夜に暗い森を抜け、人けのない街道を進むのは危険と判断したらしい。その判断は、私も賛成よ。
「使者は誰が?」
「エルー卿です」
ナタリーは澱みなく答え、私を振り返った。頷くクロエに背を押される形で、話に加わる。説明されたのは、襲撃したのは獣ではなく人だったこと。矢を射掛けられ、御者が死亡した。その部分で、私はきつく目を閉じて手を組む。指を絡める形で、彼の死後の幸福を祈った。
目を開くと、皆も一緒に祈ってくれている。そのことが嬉しかった。続けて聞かされたのは、馬も傷を負ったこと。馬車の馬は繋がれていたので、背中や首筋に矢を受けた。一頭は助からなかったが、影になったもう一頭はケガしたものの動けるらしい。
騎士達にも矢は降り注ぎ、馬の半数が傷を負って安静にしている。騎士は軽い革鎧だったので、手足に矢を受けた者が数名。驚いて暴れた馬から振り落とされたのが二名。やはり半数近く動けなくなっていた。
「そんなに被害が出たのね」
「後ろの荷馬車の侍従達も、打撲程度です」
様々な荷物を積んだ幌が盾となり、馬は矢を逃れた。その馬を借りて、二名の騎士が助けを求めに砦へ向かっている。すぐに救助が来るだろう。でも誰が矢を射ったのか。地元の猟師が間違って飛ばす量じゃないし、それなら謝罪してくれるはず。
「何かしらの敵が侵入したと考えております。野営の準備をしますので、そちらへ移動しましょう」
先に移動すると伝えられ、抱えられる限りのショールを抱きしめた。セリアやコレットも膝掛けと着替えをかき集める。クロエは馬車の中のお菓子が入った籠を拾い、デジレに預けた。彼女自身は、無事だった馬を引いて歩く。
先頭を歩くナタリーは道なき道を、茂みをかき分けて案内した。枝を押さえながら、ゆっくりと進む。何かの物音がするたび、足を止めて様子を覗った。今襲われたら、戦えるのはナタリーだけ。胸が苦しいほど、恐怖で鼓動が高鳴る。
「っ、いた」
掴んだ枝に棘があったようで、手のひらがちくりと痛い。傷を確かめるように眺めたら、指先にも切り傷があった。さっき馬車の窓が割れていたから、それかしら。
「姫様?」
「大丈夫よ」
小声で返し、止めてしまった足を踏み出す。この程度の傷、なんてことないわ。今は泣き言を言って、小さな傷を大袈裟に騒ぐ時ではない。人のいる気配が感じられ、目の前の低木の間の抜けた途端、私はほっとして膝から崩れた。
クロエは相変わらず小声だ。後ろから物音がして、馬車の中で動かなかった三人が出てきた。デジレは腕に血が滲んでいるけれど、セリア達は無事みたい。ほっとしながら、近づく足音に耳を澄ませた。
草を踏む音かしら。かさかさと乾いた音がして、女騎士ナタリーが顔を見せた。木々の間にある茂みをかき分けた彼女は、私に一礼する。クロエと小声で話し始めた。
ここは森の入り口だけれど、村まで歩いて行くと遠い。馬車が壊れたので、半日近くは歩かなければならなかった。夜に暗い森を抜け、人けのない街道を進むのは危険と判断したらしい。その判断は、私も賛成よ。
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ナタリーは澱みなく答え、私を振り返った。頷くクロエに背を押される形で、話に加わる。説明されたのは、襲撃したのは獣ではなく人だったこと。矢を射掛けられ、御者が死亡した。その部分で、私はきつく目を閉じて手を組む。指を絡める形で、彼の死後の幸福を祈った。
目を開くと、皆も一緒に祈ってくれている。そのことが嬉しかった。続けて聞かされたのは、馬も傷を負ったこと。馬車の馬は繋がれていたので、背中や首筋に矢を受けた。一頭は助からなかったが、影になったもう一頭はケガしたものの動けるらしい。
騎士達にも矢は降り注ぎ、馬の半数が傷を負って安静にしている。騎士は軽い革鎧だったので、手足に矢を受けた者が数名。驚いて暴れた馬から振り落とされたのが二名。やはり半数近く動けなくなっていた。
「そんなに被害が出たのね」
「後ろの荷馬車の侍従達も、打撲程度です」
様々な荷物を積んだ幌が盾となり、馬は矢を逃れた。その馬を借りて、二名の騎士が助けを求めに砦へ向かっている。すぐに救助が来るだろう。でも誰が矢を射ったのか。地元の猟師が間違って飛ばす量じゃないし、それなら謝罪してくれるはず。
「何かしらの敵が侵入したと考えております。野営の準備をしますので、そちらへ移動しましょう」
先に移動すると伝えられ、抱えられる限りのショールを抱きしめた。セリアやコレットも膝掛けと着替えをかき集める。クロエは馬車の中のお菓子が入った籠を拾い、デジレに預けた。彼女自身は、無事だった馬を引いて歩く。
先頭を歩くナタリーは道なき道を、茂みをかき分けて案内した。枝を押さえながら、ゆっくりと進む。何かの物音がするたび、足を止めて様子を覗った。今襲われたら、戦えるのはナタリーだけ。胸が苦しいほど、恐怖で鼓動が高鳴る。
「っ、いた」
掴んだ枝に棘があったようで、手のひらがちくりと痛い。傷を確かめるように眺めたら、指先にも切り傷があった。さっき馬車の窓が割れていたから、それかしら。
「姫様?」
「大丈夫よ」
小声で返し、止めてしまった足を踏み出す。この程度の傷、なんてことないわ。今は泣き言を言って、小さな傷を大袈裟に騒ぐ時ではない。人のいる気配が感じられ、目の前の低木の間の抜けた途端、私はほっとして膝から崩れた。
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