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72.重すぎる自覚はある ***SIDEフェルナン

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 出会った頃は十二歳で、一目惚れしたがまだ子どもだった。幼さが残る少女は、成長して立派な淑女になる。当然、勝手に膝に乗せるのは問題だし、汗臭い体で近づくのも気をつけた。

 年齢が十五歳も違えば、彼女に相応しくないのでは? と不安も膨らんだ。正直、アンより彼女の母親の方が釣り合う年齢なのだ。訓練を見守るアンは、年に数回は里帰りをしている。アルドワンへ帰ってしまうたび、砦は火が消えたように静かになった。

 使用人達も周辺の街の住人も、彼女が実家に遊びに行くのは私がきちんと繋ぎ止めていないからだと睨む。ここまで領地に馴染んでくれた彼女にお礼を言うべきか、帰らないでくれと縋る方が先か。

 私だってアンジェルがもう帰ってこないのでは、と心配なのだ。演習のフリで国境まで迎えに行く回数も増え、騎士団は慣れてしまった。それどころか、アンが旅立って十日もすると「そろそろ演習じゃないっすか」と勝手に準備を始める有り様だ。

 一緒に鍛錬する騎士達には、潔く好きだと告げろと言われる。既婚者に妻を口説くコツを伝授された。役に立つか不明だが、頑張ろうとは思う。汗臭いと言われないよう、適度な距離を保つ。加齢で臭いが出る話を聞いて、風呂では二度洗いを心がけた。

 いつ突撃するか。戦と違い、タイミングが測れない。うだうだ悩んでいる間に、時間だけが過ぎていった。

「エル様は私を好きじゃないのかも」

 ある日、思わぬ言葉を耳にして固まる。行儀が悪いと知りながら、足音を忍ばせて扉にへばりついた。通りがかった執事が眉を寄せるが、口に指を当てて静かにと合図を送る。首を傾げた彼も、隣で扉に耳を当てる。

「きっとこの胸が小さすぎるんだわ。男性は大きい方が好きって、聞いたもの」

 そこには反論したい。巨乳好きな男もいるが、私は程々がいい。手で包める大きさが理想だ。いや、そうじゃない。アンの胸なら大きくて溢れても、小さくて平らでも愛せる!

「あと、子どもに見られている気もして。ずっと見守ってきたから、妹感覚なんだろう、と……パン屋の奥さんに言われちゃったわ」

 パン屋の奥さん? ああ、よく土産に買ってくるパン屋だな。衛兵を派遣して逮捕するか。アンにバレたら怒られそうだから、逆の戦法で行こう。彼女に私がアンに惚れている話をしてもらえば……それも違うな。

 私が自分で好きだと言わなくては、彼女は誤解するだろう。にしても、男が数人集まれば、好みの女性の話で盛り上がる。同じように女性も恋人や婚約者の話をするのか。アンの話した内容を反芻しながら、執事を促してその場を離れた。

 胸の大きさをきにしたり、子どもっぽくないか悩んだり。私の婚約者はなんと可愛いのか。うっとりしながら執務室へ戻り、ニヤニヤしながら書類を処理する。お茶を運んできた執事が、ぼそっと爆弾発言を残した。

「姫様が旦那様を好ましく思っておられるようで、安心しました」

 カップのお茶が冷えて、湯気が見えなくなる頃、私はようやく動いた。

 アンが私を、好き?
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