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67.離れたくないから一緒に

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 離れるのが寂しいと口にしたら、ずっと抱っこで移動になった。恥ずかしいけれど、嬉しい。首に手を回し、しっかり堪能した。

 帰ったばかりなので、勝利の宴やら報告は後回し。新興国なので形式に拘らず、楽に過ごしているんですって。確かに戦争から帰ってすぐ動くのは、大変だし効率が悪そう。

 私を抱っこしたエル様は、ベッドに私をおろした。

「風呂に入るが、ここで待っていてくれるか?」

「はい」

 笑顔で見送る。水音が聞こえるから、見えない距離でも平気だった。嘘よ、ごめんなさい。覗く気はないから許してほしい。ベッドから降りて、扉の前に座った。エル様の寝室なので、咎める人もいない。

 侍女であるクロエは、扉の外で一礼して離れた。きっと護衛と一緒に待っているんだわ。わかっていても、エル様が最優先だった。水の音が聞こえるたびに、エル様がいるのだと扉に手を当てる。

 どきどきしながら待つ私だったが、途絶えた水音に不安が膨らむ。どうしよう、覗いたらダメよね。手を出したり引っ込めたりしていたら、突然開いた。

「……アン?」

「あ、その……えっと」

 近くにいたかったの。そう言えばいいのに、言葉が喉に詰まる。顔が赤くなるのがわかった。すごく恥ずかしいことをしているんじゃないかしら。

「迎えに来てもらうとは、なんとも光栄なことだ」

 くすっと笑い、エル様は私へ手を差し出した。まだ髪が少し濡れている。手を借りて立ち上がり、一緒にベッドまで歩いた。抱き上げた私をベッドの奥へ座らせ、エル様はさっと髪の水を拭き取る。

「婚約者だから構わないはずだが、一緒に眠ってくれないか」

 離れるのが嫌な私は、すぐに頷いた。はしたないとか、婚礼前だとか、どうでもいい。だって婚約者で未来の夫で、私の家族を助けるために戦ってくれた人だ。大好きなエル様が望むなら、一緒のベッドで寝るくらい……。

 一緒の、ベッド? 手をついたシーツがあるベッドは、エル様の寝室のもの。私の部屋は別にあって、普段は同じベッドで寝たりしない。頭の中で、婚約者なら平気だったわよね? と礼儀作法の教師の言葉を思い浮かべた。

「夕方までには起きる」

 夜は仕方ないが、今は一緒がいい。私の気持ちもエル様と同じだった。横になり、エル様と手を繋ぐ。手が伸びた時は抱き寄せられるかと、胸が高鳴ったけれど。さすがに紳士なエル様は、そんなことしないのね。恋愛小説とは違うわ。

「おやすみなさい、エル様」

「ああ、良い夢を」

 疲れていたのか、エル様はすぐに寝息を立てる。私はそんな彼の寝顔を見ていた。あんなに会いたかった人と手を繋いでいる。見る限り、ケガはなさそう。顔も腕も、傷や包帯はない。薬の匂いもなかった。

 私の家族を守ってくれて、ありがとうございます。起きたら、そう伝えよう。ふわっと欠伸が出た。そういえば、エル様が出発してからよく眠れなくて……。浅かった眠りを取り戻すように、私は手の温もりを確かめながら目を閉じた。
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