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65.すべて無駄はなかった

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 エル様が砦を出てから三日、まだ戻らないと知りながらそわそわしてしまう。こまめに情報が入ってくるのは、エル様の指示だった。何もわからない状況で、私が不安を募らせないように、と。

 執事や護衛騎士を通して、色々な話が入ってきた。伝令は忙しく往復し、申し訳ない気持ちになる。でも新しい情報が入ると嬉しくて、夢中になって聞き入った。

 昨日から、伝令が鳥になった。灰色の羽を持つ鳩だ。手紙の入った筒を脚に巻いて飛ばす。向こうで受け取ったら、返信を入れて戻ってくる。賢いのねと驚いた。

 戦場ではよく使われる方法で、国によって鳥の種類が違うこともあるとか。雑談を交えた執事の話に、目を丸くした。手紙を軽くするため、内容は小さな文字で暗号化されて届く。解読した執事が、読んでくれた。

 エル様達に別の軍が合流した、その相手を聞いて驚く。

「え? ヘンネフェルト王国が……」

 アルドワン王国とモンターニュ国、両方と国境を接している。そのヘンネフェルト王国が、援軍を派遣したのはきっと……姉カトリーヌのためだろう。

 カトリーヌ姉様の婚約者、ヘンネフェルト王国の第二王子が援軍を率いている。ヘンネフェルト王国が動けば、リュカ聖国も手を貸してくれるはず。両国は常に姻戚関係があって、仲がいいと学んだ。

 机の上で学んだ話が、次々と繋がっていく。歴史なんて何の役に立つのかと面倒だったけれど、何でも無駄にならないのね。あの頃の私に教えてあげたいわ。

「お返事を書くから、一行だけ譲ってちょうだい」

 執事はもちろんだと頷いた。書ける文字数が決まっているから、悩んで迷って短くまとめた。伝えたいのは、無理をしないことと、無事に戻ってほしいこと。最後に待っていますと付け加えた。

 騎士が暗号に置き換え、執事が小さな文字を清書していく。なんだか私的な内容で申し訳ないわ。他にも情報や今後の動きに関する指示を仰ぐ文面をつらね、休んだ鳩に括り付けた。

「私が放していい?」

「気をつけて、そうです」

 執事に手伝ってもらい、窓から鳩を飛ばした。元気に飛んでいく鳩は、きちんと方角がわかるらしい。見えなくなるまで見送って、私は勉強を申し出た。

 エル様が帰るまでに、もっと役に立つ知識を得たい。以前は嫌いだった勉強が、輝いている気がした。薬草の勉強も、歴史も、全てがエル様の役に立つなら。一つも漏らしたくない。

 クロエから薬草の知識を得て、セリア達と薬草摘みを行い実践する。護身術に詳しいデジレと訓練し、コレットとお菓子作りも頑張った。

 焼き菓子は大量に作って、戦場にいる騎士や兵士の分もまとめて運んでもらう。どうか無事に帰ってきて、その気持ちを紙に記して焼き菓子を包んだ。数日置きに食料や兵士の補充を行うため、別働隊が動く。その人達に託して、お菓子も運んでもらった。

 私にできるのはこのくらい。あとは神様にひたすら祈るだけだった。
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