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53.お菓子屋が出店した

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 帰って来て驚いたのが、侍女や下働きの数人が入れ替わっていたこと。知らない子がいたので尋ねると、留守を預かっていたコレットが教えてくれた。

 他の貴族家から送り込まれた者を探し出し、追い出したのだとか。新しく入ったのは、地元の商人の子だったり、領地内の貴族の子女らしい。私の服を汚した侍女だけじゃなかったのね。何を探りに来ていたのか気になったけれど、誰も話してくれないので諦めた。

「姫様、先日の王都で話したお菓子屋さんが出店するようです。見に行きませんか」

 そう誘われたのは、王都から戻って二週間も経つ頃だった。せっかくだから、近くに出店してくれたらいいと話したのは覚えている。応じてくれたのなら、また美味しいお菓子が食べられるわ。それに、手伝えることがあれば手を貸そう。

 シンプルなワンピースに着替え、クロエ達と街に降りる。エル様は一緒に行くと言い出したが、すぐに執事に止められた。大量のお仕事が溜まってるんですって。王都へ向かった際の分は終わったのだけれど、この時期は様々な報告が上がるので忙しいとか。

 手伝えないので、私はお土産を買ってくると約束して街に向かう。護衛の騎士と侍女達を連れて、街の大通りを進んだ。小さな広場のようになった噴水の近くに、そのお店はあった。以前は洋裁店だったらしい。

 可愛い赤いテントの窓や、カラフルな扉はお菓子への期待を高めてくれる。クロエが扉を押すと、からんからんとベルの音がした。これもいいわ。

 雰囲気に満足しながら中に入れば、綺麗なお菓子がたくさん並んでいた。見栄えも問題ないし、お店の内装も上品だ。見回していると、奥から店主が出てきた。

「あ、あのときの!」

「姫様! お約束通り店を出しました」

 複数のお店でお金を出し合い、品物もそれぞれに用意する。メインで運営する店は生菓子も扱うが、それ以外の店は焼き菓子や飴といった日持ちするお菓子中心だった。

「素敵なお店ね。賑わっているでしょう?」

 社交辞令ではなく話を向けると、彼は表情を曇らせた。眼鏡の細い金属のツルを指先で弄りながら、言いづらそうに「売れないのです」と溜め息を吐いた。

「なぜ?」

「こちらは高価な砂糖やジャムをふんだんに使用した貴族用です。これだけでは高くて売れないと思い、こちらに素朴で安価なお菓子も用意しました。ですが……」

 高価な菓子が少し売れるだけで、安いお菓子は手に取る人がいない。彼によれば、平民の客も来るのだが買わないようだ。うーんと考えながら店のお菓子をじっくりと観察した。

 左側は綺麗なお菓子が多くて高い。逆に右はシンプルすぎて村人が焼いたお菓子に似てるわ。どちらも好きだけれど、一般的にお店で買うのは左かな。だとしたら、平民には高すぎる。

「ねえ、この高価なお菓子を小さくするか、半分に割って販売できない?」

「なぜですか」

「私なら、それで買うからよ」
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