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28.アルノー侯爵夫人とお友達になれた

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 大人っぽい服を着たのに、抱っこされて登場した。子どもっぽく見えたかしら。でも下ろしてほしいと口にしたくないの。私を抱き上げたエル様は幸せそうに笑ってくれるし、何より……本当に大人になったらしてもらえないでしょう? お顔が近くにあるのも嬉しかった。

 アルノー侯爵閣下はオーギュスト様、素敵な客間でもてなしてくれた奥様はドリアーヌ様。お二人は、私を抱っこしたエル様の姿に笑顔を見せた。

 用意されたのはお洒落な大皿が一枚。白い陶器の上に繊細な小花が濃紺で描かれていた。お茶会に近い軽食を聞いたけれど、タワーになったお皿にパンやスコーンだと思ったわ。でも一人分ずつ盛られたお料理は、大きなお皿の半分ほど。

 残ったスペースに、好きな物を足すみたい。奥様の手元をじっと見ていたら、微笑んで簡単な説明をされた。モンターニュでは、午前中のお茶会に用いられるスタイルらしい。メインをお皿に盛りつけて運び、パンやジャムなどは空いた部分に好きなだけ取る。

 午後のお茶会はアルドワン王国と同じ。タワーになったお皿から好きな物を好きなだけ取り分けるスタイルだった。その違いは興味深いわ。

 お礼を言って、クルミが入ったパンを取ってもらう。それからスコーンも欲しいわ。ちらっと視線を向けた私に頷き、クロエがオレンジピール入りのスコーンを選んだ。

「ありがとう、クロエ」

 彼女に声をかけると、奥様に驚いた顔を向けられた。きょとんとしてエル様に尋ねたら、王侯貴族が使用人にお礼を言う文化はないんですって。お礼はいつも伝えた方がいい。そう教えられた私は逆に驚いてしまった。

 文化や慣習の違いをいくつか話しながら、お茶会はスムーズに進んだ。途中で付き添いがクロエからデジレに変わる。最後はセリアになった。これは移動があるから、彼女達も食事の時間が必要だもの。荷運びをお願いした侍従達も同様だと思う。

 楽しいお茶会の終わりに、ドリアーヌ様が私の手を握った。

「さすがはアルドワン王国の王女様ですわ。様々なお話とても参考になりました。今後とも友人として、お付き合いをお願いできますかしら」

 エル様の顔を確認して、笑顔で了承した。この国で最初の貴族の友人ね。いつかお裁縫を教えてほしい。私もエル様に刺繍やパッチワークを贈ってみたいから。

 お部屋に戻り、旅支度をする。楽なワンピースに着替えたところで、山吹色のドレスはトランクにしまわれた。後でドレス用の箱に移すのね。

 宝飾品もすべて箱に詰め、侍女三人と一緒に確認する。慣れた様子で彼女達は同行した侍従長の元へ運んだ。高価な物は別に管理するのが習わしで、どの国も同じだった。

 馬車に乗り込み、手を振ってお別れする。馬車で一日の距離だから、今後もドリアーヌ様やアルノー侯爵にお会いする機会は多いだろう。分かっていても、寂しかった。

 俯いた私にエル様は理由を尋ね、素直に寂しいと答えた。すると、届いたばかりの手紙をひらひらと揺らし、エル様は一つウィンクをする。

「オーギュスト達は、後から顔を出すはずだ。陛下が歓迎の宴を開くと言い出したからな」

 出かける直前に侯爵邸に届いた手紙は、王家の印章が押されていて……そういえばアルノー侯爵も受け取っていたかも。すぐに会えると聞いて、不安が和らいだ。
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