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79.毒殺に対する受け取り方の違い
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「お菓子くれるよ」
きょとんとした顔の琥珀は、害された自覚がなかった。それどころか、美味しいお菓子を定期的に贈ってくれる親切な人達と認識している。げらげら笑うのは、バルテルを始めとした森人達だった。
「琥珀王の度量はすげえや」
「敵わねえな」
「好物を届けてくれる認識かよ」
シェンも混じって笑い転げるが、ベリアルのひと睨みで口を押さえた。このまま笑い続けると、恐ろしい事態になる。理性が緩んだ酔っ払いすら震え上がらせるベリアルは、琥珀の前に膝をついて視線を合わせた。
「琥珀王、これらが毒なのは理解しておられますか? 琥珀王が死ねばいいと思って贈ってくるのですよ」
「でも死なない。うまい」
悪びれた様子のない琥珀を説得しろと、僕に目配せするのはやめてくれ。なぜ巻き込まれるんだ? 保護者だからか。
『琥珀、もしその菓子を食べて僕にキスしたら、僕は死ぬんだけど』
わかりやすく毒の存在を説明してみた。琥珀の顔が青ざめていく。
『ニーの子が産まれたら、そのお菓子は外で食べるんだぞ。僕やニーはもちろん、子猫が舐めたら死んじゃうからな』
注意するつもりだったので、ついでに言い聞かせた。途端に、琥珀は目を見開いてぽろぽろと涙を零す。前からそうだが、琥珀は泣く時にしゃくり上げたりしなかった。声も出さず、ただ大粒の涙を零すのだ。お陰ですごく胸に刺さるし、痛い。
「このお菓子、もう食べない」
『あ、うん。正直、助かる』
「お菓子送ってこないよう、文句言う」
文句? 首を傾げる僕に黙ってろと目配せし、ベリアルが対応した。
「そうですね。では私が文句を言って、二度と送らないよう注意してきましょう」
「うん。任せる」
ここ1年ほどで、琥珀は「任せる」を覚えた。というのも、ベリアルがその言葉の便利さを身をもって教え、利用することで得られる利益を叩き込んだ。琥珀にしたら、自分が何もしなくても片付けておいてくれるので助かる。その程度の認識だろう。なんでもかんでも任せるのは危険だから、いずれは教え直すつもりだ。
それ以前に、ベリアルは「文句を言う」と表現した。相手は二度と立ち上がれないほど、完膚なきまでに叩きのめされるんじゃないか?
『程々に、な? ベリアル』
「嫌ですね、シドウ様。妙なことを仰らないでください。徹底的に潰してこそ、効果が高いのですよ」
他種族や他国が真似をしないよう、見せしめにするらしい。もう止めても遅いだろう。現時点で琥珀を倒せる者はおらず、部下も最強である。逆らった人間が悪いのだ。それも毒殺を目論むなんて手段が悪かった。
間違えて集落の者が口にしていたら、今頃人間という種族自体が滅ぼされているはず。
『……僕も任せる。飛び火しないように頼むね』
「もちろんです。命令への忠実さは確実ですから」
忠実さは疑う余地もない。拡大解釈による蹂躙を心配してるんだが……まあ僕が口出しする必要ないよね。
シェンが差し出したワインをぺろぺろ舐めながら、僕は干し肉を両手で掴んで齧った。隣に座った琥珀が、当然のように僕の齧った干し肉を横取りする。この頃、僕の齧り掛けを所望するけど、止めるように教えないといけないな。
きょとんとした顔の琥珀は、害された自覚がなかった。それどころか、美味しいお菓子を定期的に贈ってくれる親切な人達と認識している。げらげら笑うのは、バルテルを始めとした森人達だった。
「琥珀王の度量はすげえや」
「敵わねえな」
「好物を届けてくれる認識かよ」
シェンも混じって笑い転げるが、ベリアルのひと睨みで口を押さえた。このまま笑い続けると、恐ろしい事態になる。理性が緩んだ酔っ払いすら震え上がらせるベリアルは、琥珀の前に膝をついて視線を合わせた。
「琥珀王、これらが毒なのは理解しておられますか? 琥珀王が死ねばいいと思って贈ってくるのですよ」
「でも死なない。うまい」
悪びれた様子のない琥珀を説得しろと、僕に目配せするのはやめてくれ。なぜ巻き込まれるんだ? 保護者だからか。
『琥珀、もしその菓子を食べて僕にキスしたら、僕は死ぬんだけど』
わかりやすく毒の存在を説明してみた。琥珀の顔が青ざめていく。
『ニーの子が産まれたら、そのお菓子は外で食べるんだぞ。僕やニーはもちろん、子猫が舐めたら死んじゃうからな』
注意するつもりだったので、ついでに言い聞かせた。途端に、琥珀は目を見開いてぽろぽろと涙を零す。前からそうだが、琥珀は泣く時にしゃくり上げたりしなかった。声も出さず、ただ大粒の涙を零すのだ。お陰ですごく胸に刺さるし、痛い。
「このお菓子、もう食べない」
『あ、うん。正直、助かる』
「お菓子送ってこないよう、文句言う」
文句? 首を傾げる僕に黙ってろと目配せし、ベリアルが対応した。
「そうですね。では私が文句を言って、二度と送らないよう注意してきましょう」
「うん。任せる」
ここ1年ほどで、琥珀は「任せる」を覚えた。というのも、ベリアルがその言葉の便利さを身をもって教え、利用することで得られる利益を叩き込んだ。琥珀にしたら、自分が何もしなくても片付けておいてくれるので助かる。その程度の認識だろう。なんでもかんでも任せるのは危険だから、いずれは教え直すつもりだ。
それ以前に、ベリアルは「文句を言う」と表現した。相手は二度と立ち上がれないほど、完膚なきまでに叩きのめされるんじゃないか?
『程々に、な? ベリアル』
「嫌ですね、シドウ様。妙なことを仰らないでください。徹底的に潰してこそ、効果が高いのですよ」
他種族や他国が真似をしないよう、見せしめにするらしい。もう止めても遅いだろう。現時点で琥珀を倒せる者はおらず、部下も最強である。逆らった人間が悪いのだ。それも毒殺を目論むなんて手段が悪かった。
間違えて集落の者が口にしていたら、今頃人間という種族自体が滅ぼされているはず。
『……僕も任せる。飛び火しないように頼むね』
「もちろんです。命令への忠実さは確実ですから」
忠実さは疑う余地もない。拡大解釈による蹂躙を心配してるんだが……まあ僕が口出しする必要ないよね。
シェンが差し出したワインをぺろぺろ舐めながら、僕は干し肉を両手で掴んで齧った。隣に座った琥珀が、当然のように僕の齧った干し肉を横取りする。この頃、僕の齧り掛けを所望するけど、止めるように教えないといけないな。
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