【完結】勇者に折られた魔王のツノは、幼児の庇護者になりました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
75 / 82

75.他国でもそれぞれやらかしていた

しおりを挟む
 琥珀が王国の滅亡を宣言している頃……他所も大事件だった。

「私は先代魔王の側近であり、今は琥珀王に仕えるベリアルと申します。我が君のめいをお伝えいたしましょう。森人と魔族を従える主は、森への人間の出入りを望んでいません。お分かりですか?」

 言葉は丁寧だが、ベリアルの足元には騎士団が一山倒れていた。きっちり山に積んで上に立つ魔族は、くすりと笑う。魔王の恋人は妖艶な仕草で前髪をかき上げた。

「もし踏み入れれば、この程度では済ましませんよ」

 この程度と表現された騎士団は、手足を折られて身動きできずに呻く。かなりの重傷だった。ふわりと浮き上がったベリアルがぱちんと指を鳴らす。骨折が強引に治療された。ぐああぁああ! ぎゃぁあああ! 屈強な男達の叫び声が木霊する。

 青ざめた宰相や貴族に隠れる国王が、震えながら口を開いた。

「わかった。手は出さん……だから」

「ええ。約束を守っていただく間は、こちらから攻撃する理由はないと思いますよ。もちろん、我が君が機嫌を損ねれば話は別ですが」

 遠回しに琥珀王の気分次第と匂わせた。これで嘘を吐かずに済む。この辺の言い回しが、ベリアルの十八番だった。約束したように振舞いながら、実際は抜け道を用意する。ツノの時のように焦っていなければ、ベリアルは有能な交渉担当だった。

「くれぐれも、約束をお忘れなきよう」

 悪魔との約束は契約だ。そう言い切って釘を刺し、ベリアルは美しい笑みを残して消えた。残ったのは震える王侯貴族と、無理やり骨折を力技で治された騎士団のみ。手足の骨折は修復されたが、心をべっきり折られた騎士団はしばらく役に立たないだろう。

「新たな魔王かと思ったが……魔王よりマシか」

 宰相の呟きが風に攫われ、誰も返事をせぬまま解けて消えた。







「わっはっは! 我は琥珀王の使者であるぞ」

 大きな声で琥珀王の名を叫びながら、ドラゴンはその尻尾で王宮を壊していく。まだ新しい新興国家は、建築中の王宮を完膚なきまでに破壊された。ぐしゃぐしゃの瓦礫の上に舞い降りた黒竜は、のそりと身を伏せる。

 騎士と並ぶ国王はガタイのいい筋肉男だった。僕がいたら脳筋と評したかもしれない。世の中すべて筋肉で解決するタイプだが、さすがに筋肉でドラゴンに勝てなかった。

「使者殿がなぜ我が城を壊す」

「城? 悪い、積み木を見ると崩したくなるのだ」

 まったく悪びれないシェンは、堂々と他人の家をけなした。がははと口を開いて笑い、勢い余ってブレスの炎がちょっと零れ出る。慌てて避ける人間を前に、肩を竦めて口を閉じた。

「琥珀王からの伝言だ。人間は森を切り開くべからず。もし禁を破れば、人間すべてを我らが滅ぼすであろう、と」

「我ら、とは?」

「琥珀王の臣下である森人や魔族だな。古龍である我も同様だ。王は我の力を大きく凌ぐ実力者ゆえ、逆らおうと思うなよ」

 壊された建物を見て溜め息を吐き、国王は静かに頷いた。魔王より残虐で子どもっぽい王が君臨したらしい。口に出さなかった本音をもし聞いたなら、シェンは笑っただろう。琥珀王は子どもっぽいのではなく、正真正銘子どもなのだから。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】転生令嬢は推しキャラのために…!!

森ノ宮 明
恋愛
その日、貧乏子爵令嬢のセルディ(十二歳)は不思議な夢を見た。 人が殺される、悲しい悲しい物語。 その物語を映す不思議な絵を前に、涙する女性。 ――もし、自分がこの世界に存在出来るのなら、こんな結末には絶対させない!! そしてセルディは、夢で殺された男と出会う。 推しキャラと出会った事で、前世の記憶を垣間見たセルディは、自身の領地が戦火に巻き込まれる可能性があること、推しキャラがその戦いで死んでしまう事に気づいた。 動揺するセルディを前に、陛下に爵位を返上しようとする父。 セルディは思わず声を出した。 「私が領地を立て直します!!」 こうしてセルディは、推しキャラを助けるために、領地開拓から始めることにした。 ※※※ ストーリー重視なので、恋愛要素は王都編まで薄いです 推しキャラは~は、ヒーロー側の話(重複は基本しません) ※マークのある場所は主人公が少し乱暴されるシーンがあります 苦手な方は嫌な予感がしたら読み飛ばして下さい ○小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

処理中です...