74 / 82
74.この国を滅ぼしに来た?
しおりを挟む
結論から言えば、この国の国王は間に合わなかった。塔は完全に砂の山となり、その隣の建物も半分以上砂になったところで、宰相を名乗るおじさんに案内される。ちなみに隣の建物は騎士団の宿舎らしく、取り囲む騎士から悲鳴が上がっていた。
「魔王の地位を継いだ琥珀王だったか? わしがこの国の……」
国王だと言う前に、悲鳴が上がる。琥珀は不貞腐れて機嫌が悪く、通された謁見の間を砂に変え始めた。まず入口の扉が砂になって積もり、その上に壁が崩れていく。
『琥珀、どうしたんだ。気分が悪いのか』
「僕のこと上から見下ろした、嫌い」
子どもらしい感想に、ロルフが相手側に伝える。だが国王や宰相はパニックになっていた。入口の扉を守るはずの衛兵はさっさと逃げ出し、天井まで届いた砂化はさらに加速するばかり。
『あのおじさんは足が短いんだ。だから高い位置に立たないといけないんだよ。琥珀は足が長いから我慢してあげられるね?』
どうせ僕の声は人間に届かない。高を括ってそう告げた。魔術師の杖を持った若い女性が「ぶふっ」と変な吹き出し笑いをする。ごめん、魔術師だと聞こえちゃうのか。昔と違って魔力を込めた声だからね。魔力の扱いに長けた人には届いているらしい。
他にも杖を持った老人が真面目な顔なのに、痙攣してる。あの人も魔法が使えそうだ。僕の声が聞こえた人を順番に確認した。いきなり攻撃されたら反撃しなくちゃいけないからな。
「足が短いなら我慢する」
ぼそっと呟いた琥珀に、堪えきれなかったロルフが「ぶふぉお!」と押さえていた手を押し退ける笑いを零した。もう台無しだよ。
「琥珀王、これでは話し合いになりませんので、砂にするのは後にしてもらえますか」
笑った失態を隠そうと、ロルフが遠回しに琥珀の機嫌を窺う。少し考えて頷いた琥珀が魔力の放出を止めた。崩れかけの天井や壁が、ぐらりと傾いて地に落ちた。これは二次被害なので無視だ。
「さて、貴国は圧倒的強者との接し方を知らないご様子。我が王は機嫌を損ねておられる。今は我慢してくださっているが、もし……これ以上機嫌を損ねるなら、王宮どころか国ごと消失させかねませんな」
難しい単語が多かったので、琥珀はきょとんとした顔で僕を見た。解説して欲しいのか? 琥珀に理解できる言葉に置き換えると。
『この国は足の短い王を含めて、強い琥珀に失礼だろ。だから琥珀が砂場を作ってる。ロルフが言うからやめたけど、ちゃんとしないとやっつけるぞ! そうしたら建物全部壊して、平らにするかな……みたいな感じ』
通訳された内容に、琥珀は納得したらしい。大きく頷いた。魔力を通した僕の声を聞き取れる人達が青ざめていく。あれれ、そんなに大きな声で話したつもりはないんだが。そっちまで届いちゃうのか?
ぺたんとお座りした僕の首元のマフラー部分に抱き着いた琥珀は、顔を埋めてくんくんと匂いを嗅ぐ。それで気持ちが落ち着いたらしい。顔を上げた時はきりっとした表情だった。
「僕は琥珀王。この国を滅ぼしに来た」
「ん?」
『え?』
「「「「「えええええ?!」」」」」
思わぬ宣言に、敵味方関係なく固まる事態となった。
「魔王の地位を継いだ琥珀王だったか? わしがこの国の……」
国王だと言う前に、悲鳴が上がる。琥珀は不貞腐れて機嫌が悪く、通された謁見の間を砂に変え始めた。まず入口の扉が砂になって積もり、その上に壁が崩れていく。
『琥珀、どうしたんだ。気分が悪いのか』
「僕のこと上から見下ろした、嫌い」
子どもらしい感想に、ロルフが相手側に伝える。だが国王や宰相はパニックになっていた。入口の扉を守るはずの衛兵はさっさと逃げ出し、天井まで届いた砂化はさらに加速するばかり。
『あのおじさんは足が短いんだ。だから高い位置に立たないといけないんだよ。琥珀は足が長いから我慢してあげられるね?』
どうせ僕の声は人間に届かない。高を括ってそう告げた。魔術師の杖を持った若い女性が「ぶふっ」と変な吹き出し笑いをする。ごめん、魔術師だと聞こえちゃうのか。昔と違って魔力を込めた声だからね。魔力の扱いに長けた人には届いているらしい。
他にも杖を持った老人が真面目な顔なのに、痙攣してる。あの人も魔法が使えそうだ。僕の声が聞こえた人を順番に確認した。いきなり攻撃されたら反撃しなくちゃいけないからな。
「足が短いなら我慢する」
ぼそっと呟いた琥珀に、堪えきれなかったロルフが「ぶふぉお!」と押さえていた手を押し退ける笑いを零した。もう台無しだよ。
「琥珀王、これでは話し合いになりませんので、砂にするのは後にしてもらえますか」
笑った失態を隠そうと、ロルフが遠回しに琥珀の機嫌を窺う。少し考えて頷いた琥珀が魔力の放出を止めた。崩れかけの天井や壁が、ぐらりと傾いて地に落ちた。これは二次被害なので無視だ。
「さて、貴国は圧倒的強者との接し方を知らないご様子。我が王は機嫌を損ねておられる。今は我慢してくださっているが、もし……これ以上機嫌を損ねるなら、王宮どころか国ごと消失させかねませんな」
難しい単語が多かったので、琥珀はきょとんとした顔で僕を見た。解説して欲しいのか? 琥珀に理解できる言葉に置き換えると。
『この国は足の短い王を含めて、強い琥珀に失礼だろ。だから琥珀が砂場を作ってる。ロルフが言うからやめたけど、ちゃんとしないとやっつけるぞ! そうしたら建物全部壊して、平らにするかな……みたいな感じ』
通訳された内容に、琥珀は納得したらしい。大きく頷いた。魔力を通した僕の声を聞き取れる人達が青ざめていく。あれれ、そんなに大きな声で話したつもりはないんだが。そっちまで届いちゃうのか?
ぺたんとお座りした僕の首元のマフラー部分に抱き着いた琥珀は、顔を埋めてくんくんと匂いを嗅ぐ。それで気持ちが落ち着いたらしい。顔を上げた時はきりっとした表情だった。
「僕は琥珀王。この国を滅ぼしに来た」
「ん?」
『え?』
「「「「「えええええ?!」」」」」
思わぬ宣言に、敵味方関係なく固まる事態となった。
0
お気に入りに追加
252
あなたにおすすめの小説
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。
彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました!
裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。
※2019年10月23日 完結

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

【完結】転生令嬢は推しキャラのために…!!
森ノ宮 明
恋愛
その日、貧乏子爵令嬢のセルディ(十二歳)は不思議な夢を見た。
人が殺される、悲しい悲しい物語。
その物語を映す不思議な絵を前に、涙する女性。
――もし、自分がこの世界に存在出来るのなら、こんな結末には絶対させない!!
そしてセルディは、夢で殺された男と出会う。
推しキャラと出会った事で、前世の記憶を垣間見たセルディは、自身の領地が戦火に巻き込まれる可能性があること、推しキャラがその戦いで死んでしまう事に気づいた。
動揺するセルディを前に、陛下に爵位を返上しようとする父。
セルディは思わず声を出した。
「私が領地を立て直します!!」
こうしてセルディは、推しキャラを助けるために、領地開拓から始めることにした。
※※※
ストーリー重視なので、恋愛要素は王都編まで薄いです
推しキャラは~は、ヒーロー側の話(重複は基本しません)
※マークのある場所は主人公が少し乱暴されるシーンがあります
苦手な方は嫌な予感がしたら読み飛ばして下さい
○小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる