【完結】勇者に折られた魔王のツノは、幼児の庇護者になりました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
73 / 82

73.子どもは一番じゃないと気に入らない

しおりを挟む
 ぐんぐん迫るのは、さきほど見たばかりの塔だ。叫んだ僕は咄嗟に琥珀に抱き着いた。いざとなったら、僕をクッションに琥珀だけでも助かれば……と思ったんだけど、ぴたっと手前で止まった。手を伸ばせば届きそうだが、それは人間の話。僕の肉球が届くには拳二つほど遠い。

「壊す」

『え?』

 琥珀が手のひらを塔へ向けた。直後魔力が放たれ、さらさらと塔の上部が砂になって散る。

『中に人がいたら危ないから、中止!』

「誰もいない」

 形だけで中には物も人もないと言い切った琥珀は、自分が浮いている場所まで壊すと満足そうに頷いた。どうやら、ここが自宅兼琥珀城の高さより低い位置のようだ。自宅より高い建物は許さん、とか。いつからこんな魔王みが出てきたんだ? 子どもは一番が好きだから、この塔が気に入らなかったのは分かるけど。

 ふとロルフが静かなことに気づいた。顔を向けると白目を剥いて気絶している。浮いている高さを見ないフリで我慢し、ロルフが具合悪そうだから地上に降りようと説得した。琥珀はロルフを見上げ、慌てた様子で地上へ降りる。

 翼もないのに浮いてた僕達は、塔の崩壊と合わさって注目の的だった。脅しに来たんだからこれが正解なのか? 建造物をあっさり壊した姿から、こちらの戦力を過剰評価してくれると助かる。よく考えたら琥珀がいる時点で過剰戦力だから、評価は普通でいいや。

 そろそろ、家族風呂出来たかな? 今日は琥珀とお風呂にはいって、さっきの砂で汚れた毛皮を綺麗にしてもらおう。じゃないと寝室が砂だらけになってしまう。軽く現実逃避しながら、突きつけられた槍の穂先を見つめる。

 ぐるりと僕達を包囲した騎士団が、剣や槍で威嚇してきた。ロルフが危ないと思ったが、ぎりぎりで意識を回復したらしい。というか、涙目だけど何かされたのか? 太腿を擦ってるけど、琥珀が抓ったとか。そのくらいしか思い到らなかった。

「琥珀王が貴国の王に挨拶を希望している。他国の使者に対し、このような振る舞いは無礼であろう」

 ロルフが難しそうな言い回しで騎士団を威圧する。すると一際立派なマントと鎧の男性が前に進み出た。ちらりと僕を見たけど、なんだ?

「琥珀王とはどこの王か」

「森人と魔族を束ねる最強のお方だ」

「その狼殿が……琥珀王、か?」

 あ、そういう勘違い。なるほどと頷いた。僕達の中で一番偉そうで体格のいいロルフが配下として口を開いた以上、残るは灰色狼か子ども。一般的に考えて狼に化けた魔族と思われた可能性が大きい。しかも僕の体って、首周りにふわふわの白いマフラー付きで高級感あるし。

「こちらのお方だ」

 ロルフがそっと琥珀を立てる。膝を突いて敬意を示す行為に、騎士団長は驚いた顔を見せた。それもそうだろう。どう見ても幼児と呼んでいい年齢だ。小学校入学前のお子様だからな。いろいろ不満があるらしく、唇を突き出して膨れた様子も幼さを感じさせる。

『琥珀、しっかり挨拶して』

「琥珀王は僕」

 機嫌の悪さが全開だった。反応に困る騎士団長だが、琥珀が手を伸ばして塔を指さす。

「早くしないと全部壊す」

「は?」

 いきなりの攻撃宣言に驚いた騎士の声が引き金だった。不満が爆発した琥珀は、事も無げに魔力を振るった。先ほどの塔の砂漠化が再スタートだ。さらさらと崩れる塔の姿に、慌てふためいた騎士が王宮へ走っていく。全力で頑張ってくれ。どんなに急いでも塔は消失すると思うけどね。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

【完結】転生令嬢は推しキャラのために…!!

森ノ宮 明
恋愛
その日、貧乏子爵令嬢のセルディ(十二歳)は不思議な夢を見た。 人が殺される、悲しい悲しい物語。 その物語を映す不思議な絵を前に、涙する女性。 ――もし、自分がこの世界に存在出来るのなら、こんな結末には絶対させない!! そしてセルディは、夢で殺された男と出会う。 推しキャラと出会った事で、前世の記憶を垣間見たセルディは、自身の領地が戦火に巻き込まれる可能性があること、推しキャラがその戦いで死んでしまう事に気づいた。 動揺するセルディを前に、陛下に爵位を返上しようとする父。 セルディは思わず声を出した。 「私が領地を立て直します!!」 こうしてセルディは、推しキャラを助けるために、領地開拓から始めることにした。 ※※※ ストーリー重視なので、恋愛要素は王都編まで薄いです 推しキャラは~は、ヒーロー側の話(重複は基本しません) ※マークのある場所は主人公が少し乱暴されるシーンがあります 苦手な方は嫌な予感がしたら読み飛ばして下さい ○小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...