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55.正体不明の化け物になってしまった?
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「原理がわかりませんので、戻し方の見当がつかないです」
ベリアルが申し訳なさそうに眉尻を下げる。いや、逆にこんな相談でこちらの方こそ済まない。僕が夢だと思った事件は夢ではなく、現実としてここにあった。
どういう原理か不明だが、狼に入り込んでいる。しかも、多少ぎこちないが動けてしまった。起こされた時に驚いて飛び上がったため、琥珀は大喜びだ。僕に……というか、つい先程まで牙を剥いていた獣に抱き着いて、嬉しいと全身で示してくる。
体が出来たのは嬉しいが、何だか複雑なのも確かだった。この狼は間違いなく、琥珀が殺した獲物だ。痩せてたし腹が減って襲っただけなのに返り討ち、その挙句僕に体を奪われるってのは……酷すぎないか?
まだおかしな動きだが、ヨイショと立ち上がった。飛び付いた琥珀の勢いに押されて、踏ん張り切れずに倒れる。琥珀は首周りの白い毛に顔を埋めて「シドウの匂い」と呟いた。まだ狼の匂いだと思うが。
「どうだ? 何とか動けそうか」
さくっと殺した琥珀にドン引きしたバルテルだが、もう死んだなら活用しないと勿体ないと言い出した。理屈は分かるが、気持ちが付いていけないのは日本人だった影響か?
『なんとか、こう……頑張ってる』
何とかなる。とも言いきれない。頑張るが保証できないのが現状だった。高熱が出て怠く、自分の体が重い時の酷い状況だ。関節や筋肉が痛くて、その痛みが伝わってくる。だから神経は繋がってるんだろう。長く療養生活をして手足が思い通りに動かない時も近いな。
とにかく「他人の体を動かしてる感」が強くて、違和感ばかりだ。僕を押し倒した琥珀をバルテルが説得した。曰く、自分で歩けるようになるまで見守ってやれ、とか。僕は幼児か? 初めてのハイハイを終えたばかりの気分だ。
「魔族の中でも他人を操る能力を持つ者はいますが、乗っ取るのは……記憶にありません」
ベリアルは言い切った。吸血種や夢魔のように、他人の意識を残したまま操る一族は僕も知ってる。死体を操るのはアンデッドだが、外から操り人形のように使うだけで、中に入り込むわけじゃなかった。魔王の頭上で見続けた数百年の間、僕も乗っ取る種族は知らない。粘液系の魔物も、ヤドカリみたいに自分の体を中に含ませるだけだし。
正体不明の化け物になってしまった……たぶん。
「偶然の産物と呼ぶには都合が良すぎるので、その」
言葉を濁したベリアルがちらりと視線で示したのは、琥珀だった。僕に期待の眼差しを向けている幼子は、早く立ってと促してくる。琥珀を見つめながら、ふと気づいた。僕の本体であるツノは狼の頭の上だ。ならばこの視点は……狼の目か?
知らない間にあれこれ融合し始めているらしい。僕は今後、この狼の死体を操って生きていくんだろうか。自分が怖い。
ベリアルが申し訳なさそうに眉尻を下げる。いや、逆にこんな相談でこちらの方こそ済まない。僕が夢だと思った事件は夢ではなく、現実としてここにあった。
どういう原理か不明だが、狼に入り込んでいる。しかも、多少ぎこちないが動けてしまった。起こされた時に驚いて飛び上がったため、琥珀は大喜びだ。僕に……というか、つい先程まで牙を剥いていた獣に抱き着いて、嬉しいと全身で示してくる。
体が出来たのは嬉しいが、何だか複雑なのも確かだった。この狼は間違いなく、琥珀が殺した獲物だ。痩せてたし腹が減って襲っただけなのに返り討ち、その挙句僕に体を奪われるってのは……酷すぎないか?
まだおかしな動きだが、ヨイショと立ち上がった。飛び付いた琥珀の勢いに押されて、踏ん張り切れずに倒れる。琥珀は首周りの白い毛に顔を埋めて「シドウの匂い」と呟いた。まだ狼の匂いだと思うが。
「どうだ? 何とか動けそうか」
さくっと殺した琥珀にドン引きしたバルテルだが、もう死んだなら活用しないと勿体ないと言い出した。理屈は分かるが、気持ちが付いていけないのは日本人だった影響か?
『なんとか、こう……頑張ってる』
何とかなる。とも言いきれない。頑張るが保証できないのが現状だった。高熱が出て怠く、自分の体が重い時の酷い状況だ。関節や筋肉が痛くて、その痛みが伝わってくる。だから神経は繋がってるんだろう。長く療養生活をして手足が思い通りに動かない時も近いな。
とにかく「他人の体を動かしてる感」が強くて、違和感ばかりだ。僕を押し倒した琥珀をバルテルが説得した。曰く、自分で歩けるようになるまで見守ってやれ、とか。僕は幼児か? 初めてのハイハイを終えたばかりの気分だ。
「魔族の中でも他人を操る能力を持つ者はいますが、乗っ取るのは……記憶にありません」
ベリアルは言い切った。吸血種や夢魔のように、他人の意識を残したまま操る一族は僕も知ってる。死体を操るのはアンデッドだが、外から操り人形のように使うだけで、中に入り込むわけじゃなかった。魔王の頭上で見続けた数百年の間、僕も乗っ取る種族は知らない。粘液系の魔物も、ヤドカリみたいに自分の体を中に含ませるだけだし。
正体不明の化け物になってしまった……たぶん。
「偶然の産物と呼ぶには都合が良すぎるので、その」
言葉を濁したベリアルがちらりと視線で示したのは、琥珀だった。僕に期待の眼差しを向けている幼子は、早く立ってと促してくる。琥珀を見つめながら、ふと気づいた。僕の本体であるツノは狼の頭の上だ。ならばこの視点は……狼の目か?
知らない間にあれこれ融合し始めているらしい。僕は今後、この狼の死体を操って生きていくんだろうか。自分が怖い。
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