【完結】勇者に折られた魔王のツノは、幼児の庇護者になりました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

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51.死体を乗っ取る? それ冗談だから

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 果物の味は、西瓜が近いのかと想像する。琥珀が両手を広げて説明してくれた内容は、水っぽくて甘い。だけど甘すぎないで、野菜みたい。瓜のイメージだ。西瓜やメロンだろう。

 シェンは風呂と石鹸が気に入り、また来ると言い置いて帰っていった。果物を手土産にするくらいだから、それなりに敬意を表してくれてるのか。シェンは古龍で強者だから、彼が頻繁に出入りすることで魔族や人間からの攻撃をかわせる利点もあった。まあ、シェンのことだから琥珀が大きくなるまで、見守る気でいるんだと思う。優しい奴だな。

「ところで、シドウ。それだけの魔力があるのに手足を作れないのか?」

『あれば体が欲しいけど、どうするんだよ』

 作り方の本があれば読むが、異世界ラノベでも聞いたことがない。ツノって本来、無機物に分類されるし。意識や記憶があって話すなんて想定外だろう。方法がわからないと説明したら、アルマに相談することになった。

「体の作り方? 考えたこともないわね。それ以前に魔法で作ったら、常に魔法を発動し続ける必要があるわよ」

 ご指摘の通り。それはしんどい。常に魔力を使って魔法を展開するのは無理だ。寝てる間に消えてツノに戻る予感しかない。

『空いてる体を乗っ取る方が早かったりして』

 冗談半分で笑いながら口にした途端、バルテルが手を叩いた。

「その手があった! 腐る前の死体を探そう」

「相性もあると思うけど、乗っ取る方が確実ね」

 え? バルテルに続いてアルマまで賛成するの? 冗談で、本気じゃないぞ。というか、死体を腐らないように維持する魔法を使うなら、結局のところ自分の体を作っても同じじゃないか。

「全然違うわ。魔力の消費量もそうだけど、具体的にイメージし続けるのよ? 手を伸ばすときに細かく手の動きや指に力を入れる加減を、ずっと想像し続けるのは至難の業よ」

 あ、うん。無理。そこまで意識して手足を動かしたことがないから、途中で意識が疎かになった首が転げ落ちたり、ホラーな予感がする。指の動きに集中して、腕自体が消えたりしそうだった。

「形のあるものを動かす方が簡単だな」

 バルテルの言葉に頷くものの、そもそも腐ってない体なんて、死にたてほやほやだろ? 滅多にないし。向かってきた敵を殺して、乗っ取るなんて鬼畜の所業だ。断固として拒否する。

「そういう潔癖なところ、シドウらしいな」

「死体、僕作る!」

 きょろきょろしながら話を聞いていた琥珀が、ぐっと拳を握った。決意表明は愛らしいが、内容がエグかった。

『作らないでいい。他の方法を考えるから』

「あら、いいものがあるわ」

 思い出したようにアルマが部屋を出ていく。森人はツリーハウスに上がれなくなったら、お迎えが来たと表現して寿命なのだそう。足腰達者で結構なことです。アルマはすいすいと降りていき、何かを抱えて戻ってきた。

「これを使っていいわよ。作ったばかりなの」
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