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42.無力化の解釈を変える
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強さの定義は何だろうか。洞窟の奥で最愛の人の体を守るベリアルを前に、僕は考え込んだ。アスモデウスが魔王だから封印される。だが蘇っても元の強さは戻らない。その事実を知っているから、必死になるベリアルが気の毒に思えた。
「シドウ、シェン。収納に入れる」
琥珀がそう告げた途端、自分の策がひどく醜く思えた。魔王の代替わりに必要な要件は、魔王の無力化だ。琥珀に殺させたくないと封印を選んだが、それは正しいのか?
『琥珀、この人達をどう思う?』
「僕に意地悪した。シドウを取ろうとしたから嫌い」
完全に子供の理論だった。複雑な裏事情など、まだ理解できない。
魔王の及ぼしていた強化が解けていく中で、ベリアルは察したはずだ。勇者と戦って負けたのは初めてではないが、ここまで弱体化したことはない。その意味を、賢いベリアルが見逃したわけない。
『話したいんだけど』
「だめ」
取られる。刷り込まれた恐怖は、簡単に拭えないらしい。今は琥珀の方が強いと説明しても、納得しなかった。そこで説得する相手を切り替える。
『シェン、魔王の無力化は別に降参でもいいんだよな?』
「そうだな、はっきり分かればいい」
シェンは僕の望みを察したらしい。にやりと笑う。世界の理はあれこれ細かい。古龍が次の魔王になれないのは、理が原因だった。管理する立場ゆえに、魔王や勇者より強い能力を保有する。上から両者を押さえつける実力が与えられた。
『琥珀、この人がゴメンねをしたら許してあげないか?』
「……でも」
幼子はちらちらとベリアルを見る。夫である最愛の魔王アスモデウスを寝かせた石の棺を背に庇い、ベリアルは死を覚悟していた。守って死ぬ気だ。そんな捨て身の相手と琥珀を戦わせたくないし、ベリアルの死も望んでいない。折れる前までは、アスモデウスの一部として守られてた訳だし、多少の情もあった。
『よく聞いて、琥珀。僕は間違った。琥珀にこの人達を閉じ込めさせようとした。でも他の方法でも大丈夫だ。間違いは僕が責任を取るし、ずっと一緒にいるから……謝ったら許してあげて欲しい』
子ども相手に話しても通じない。そう考える人もいる。だが子どもは自分なりに考えているし、状況を判断する。先日の態度が嘘のようなベリアルと、手の中に握った僕を交互に見た琥珀は頷いた。
「シドウが一緒ならいい」
我慢する。そんな言葉が聞こえてきそうな決断だった。ベリアルは握られたツノである僕と、琥珀を交互に見て呟く。
「そのツノに意思がある、のか?」
疑問の形を取った声は掠れていた。琥珀はきょとんとしているが、シェンはあっさり肯定した。
「そうだ。ツノを持つこの子どもが次の王になる。魔王が降伏するなら、手出しはしないとさ。戦うか?」
決断を迫る声に後ろを振り向き、ベリアルは愛おしそうにアスモデウスの頭を抱き締める。穏やかな笑みを浮かべ首を横に振った。
「シドウ、シェン。収納に入れる」
琥珀がそう告げた途端、自分の策がひどく醜く思えた。魔王の代替わりに必要な要件は、魔王の無力化だ。琥珀に殺させたくないと封印を選んだが、それは正しいのか?
『琥珀、この人達をどう思う?』
「僕に意地悪した。シドウを取ろうとしたから嫌い」
完全に子供の理論だった。複雑な裏事情など、まだ理解できない。
魔王の及ぼしていた強化が解けていく中で、ベリアルは察したはずだ。勇者と戦って負けたのは初めてではないが、ここまで弱体化したことはない。その意味を、賢いベリアルが見逃したわけない。
『話したいんだけど』
「だめ」
取られる。刷り込まれた恐怖は、簡単に拭えないらしい。今は琥珀の方が強いと説明しても、納得しなかった。そこで説得する相手を切り替える。
『シェン、魔王の無力化は別に降参でもいいんだよな?』
「そうだな、はっきり分かればいい」
シェンは僕の望みを察したらしい。にやりと笑う。世界の理はあれこれ細かい。古龍が次の魔王になれないのは、理が原因だった。管理する立場ゆえに、魔王や勇者より強い能力を保有する。上から両者を押さえつける実力が与えられた。
『琥珀、この人がゴメンねをしたら許してあげないか?』
「……でも」
幼子はちらちらとベリアルを見る。夫である最愛の魔王アスモデウスを寝かせた石の棺を背に庇い、ベリアルは死を覚悟していた。守って死ぬ気だ。そんな捨て身の相手と琥珀を戦わせたくないし、ベリアルの死も望んでいない。折れる前までは、アスモデウスの一部として守られてた訳だし、多少の情もあった。
『よく聞いて、琥珀。僕は間違った。琥珀にこの人達を閉じ込めさせようとした。でも他の方法でも大丈夫だ。間違いは僕が責任を取るし、ずっと一緒にいるから……謝ったら許してあげて欲しい』
子ども相手に話しても通じない。そう考える人もいる。だが子どもは自分なりに考えているし、状況を判断する。先日の態度が嘘のようなベリアルと、手の中に握った僕を交互に見た琥珀は頷いた。
「シドウが一緒ならいい」
我慢する。そんな言葉が聞こえてきそうな決断だった。ベリアルは握られたツノである僕と、琥珀を交互に見て呟く。
「そのツノに意思がある、のか?」
疑問の形を取った声は掠れていた。琥珀はきょとんとしているが、シェンはあっさり肯定した。
「そうだ。ツノを持つこの子どもが次の王になる。魔王が降伏するなら、手出しはしないとさ。戦うか?」
決断を迫る声に後ろを振り向き、ベリアルは愛おしそうにアスモデウスの頭を抱き締める。穏やかな笑みを浮かべ首を横に振った。
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