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38.魔王になる? やだ!
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朝になって頭痛がすると呻くシェンは、立派な二日酔いだった。バルテル情報によれば、酒は好きだが弱いらしい。酒に関してザルのバルテルに付き合うと、自分のペースが乱れて悪酔いしやすいとか。
「まあ、なんだ。昨夜の話は覚えておるぞ。琥珀が魔王になればよいのだ。さすれば森人が魔族になる」
「ん? 魔族?」
干し肉を使って朝食用のスープをこしらえるバルテルが怪訝そうな声を出す。気分は僕も同じだが……。
「魔王を倒すと魔族という種族が消えて、森人の王が誕生する、のか?」
自分でも説明に困り、シェンが首を傾げ始める。世界の理と呼ばれる法則があり、魔王は魔族の王を指す。森人に受け入れられた琥珀が魔王の地位を受け継げば、魔族は解散され森人がその地位を受け継ぐ。古龍の説明は難しかった。
『魔族が解散するって?』
「地位を失う。種族全体の地位が下がるため、現在の1割しか力が使えなくなるぞ。あいつらは悪さばかりしおるゆえ、仕置きにちょうど良い」
ふふんと鼻を鳴らす古龍シェンは、力試しといって攻撃され、大切に溜め込んだ宝物を狙われ、時に波状攻撃で消耗させられた。不満は大量に溜まっており、この際だからお返ししてやると息巻く。
『琥珀が魔王になると問題点ってある?』
ここが重要だった。魔王を倒して森人の王になった後、妙な義務があったり、人間の勇者と戦うのは可哀想だ。まだ幼い子どもなのだから、自由に過ごさせてやりたい。未来も自分で選ばせたかった。気分は父親である。
「……ない」
少し考えてからバルテルが呟く。何も問題がないのはおかしいと自分で言い出し、何度も考え込むが出てこないようだ。シェンはようやく人化に成功したが、まだ尻尾をしまえずにいた。
「まったくもって、問題はない。人間と対立したから魔王は勇者と戦ったが、魔王が消滅すれば勇者は生まれなくなる。あれは世界の理だからな」
ごめん……シェンが何を言ってるのか分からない。まったくもって理解できない。魔王が死ねば、勇者が生まれなくなる?
『琥珀が魔王になったら、また勇者が生まれるんじゃないか』
「魔王ではないから関係ないぞ。森人の王だ」
言葉遊びのようになってきた。異世界に来てから違いを「こういうもの」と丸暗記してきたが、これも「そういうもの」なんだろう。
「僕は魔王? やだ」
大人の話を黙って聞いていた琥珀は、首を横に振る。魔族はベリアルしか知らない琥珀だが、印象が悪過ぎたか。
「どうして嫌なんだ」
目線を合わせてしゃがんだシェンが尋ねる。その声は優しく、唇を尖らせた琥珀は思わぬ本音を吐き出した。
「魔王、シドウとお話しできない」
「ん?」
「何の話だ」
バルテルとシェンは首を傾げるが、僕は意味が伝わった。きっと人間の姿なら赤面していたと思う。顔だけじゃなくて首や耳まで赤くなるレベルだ。
『あぁ……その、なんだ。僕が魔王と話せなかったことを知ってるから、魔王になったら僕の言葉がわからなくなると思ったみたいだ、たぶん』
頷く琥珀はにっこり笑う。やばい、僕の養い子が可愛すぎる。
「まあ、なんだ。昨夜の話は覚えておるぞ。琥珀が魔王になればよいのだ。さすれば森人が魔族になる」
「ん? 魔族?」
干し肉を使って朝食用のスープをこしらえるバルテルが怪訝そうな声を出す。気分は僕も同じだが……。
「魔王を倒すと魔族という種族が消えて、森人の王が誕生する、のか?」
自分でも説明に困り、シェンが首を傾げ始める。世界の理と呼ばれる法則があり、魔王は魔族の王を指す。森人に受け入れられた琥珀が魔王の地位を受け継げば、魔族は解散され森人がその地位を受け継ぐ。古龍の説明は難しかった。
『魔族が解散するって?』
「地位を失う。種族全体の地位が下がるため、現在の1割しか力が使えなくなるぞ。あいつらは悪さばかりしおるゆえ、仕置きにちょうど良い」
ふふんと鼻を鳴らす古龍シェンは、力試しといって攻撃され、大切に溜め込んだ宝物を狙われ、時に波状攻撃で消耗させられた。不満は大量に溜まっており、この際だからお返ししてやると息巻く。
『琥珀が魔王になると問題点ってある?』
ここが重要だった。魔王を倒して森人の王になった後、妙な義務があったり、人間の勇者と戦うのは可哀想だ。まだ幼い子どもなのだから、自由に過ごさせてやりたい。未来も自分で選ばせたかった。気分は父親である。
「……ない」
少し考えてからバルテルが呟く。何も問題がないのはおかしいと自分で言い出し、何度も考え込むが出てこないようだ。シェンはようやく人化に成功したが、まだ尻尾をしまえずにいた。
「まったくもって、問題はない。人間と対立したから魔王は勇者と戦ったが、魔王が消滅すれば勇者は生まれなくなる。あれは世界の理だからな」
ごめん……シェンが何を言ってるのか分からない。まったくもって理解できない。魔王が死ねば、勇者が生まれなくなる?
『琥珀が魔王になったら、また勇者が生まれるんじゃないか』
「魔王ではないから関係ないぞ。森人の王だ」
言葉遊びのようになってきた。異世界に来てから違いを「こういうもの」と丸暗記してきたが、これも「そういうもの」なんだろう。
「僕は魔王? やだ」
大人の話を黙って聞いていた琥珀は、首を横に振る。魔族はベリアルしか知らない琥珀だが、印象が悪過ぎたか。
「どうして嫌なんだ」
目線を合わせてしゃがんだシェンが尋ねる。その声は優しく、唇を尖らせた琥珀は思わぬ本音を吐き出した。
「魔王、シドウとお話しできない」
「ん?」
「何の話だ」
バルテルとシェンは首を傾げるが、僕は意味が伝わった。きっと人間の姿なら赤面していたと思う。顔だけじゃなくて首や耳まで赤くなるレベルだ。
『あぁ……その、なんだ。僕が魔王と話せなかったことを知ってるから、魔王になったら僕の言葉がわからなくなると思ったみたいだ、たぶん』
頷く琥珀はにっこり笑う。やばい、僕の養い子が可愛すぎる。
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