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29.不可思議な盟約を盾に
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撤退させられたベリアルが戻ってくるまで、さほど猶予はないと思う。そこでバルテルを中心に、対策チームを立ち上げてもらった。魔力に声を乗せる方法を覚えたので、会議にも参加できる。
「ベリアルとやらの弱点はないのか?」
『弱点……魔王アスモデウスかな』
「それは役に立たない情報だ」
げらげら笑ったバルテルには悪いが、数百年魔王の頭上から観察した結果、本当に欠点らしい欠点はない。甘いものが好きとか、意外な驚きはあるけど。戦いに役立つとは思えなかった。
「どの魔法が一番得意だ?」
『すべて使えるが、風だよ。逆に一番苦手なのが炎、理由は火力が強すぎて調整できないから』
弱点ではない。ベリアルが炎の魔法を使うと手加減ができないので、使わないようにしているだけだった。
「こないだ、いきなりコハクを攻撃しなかったのはどうしてだ?」
白髭の爺さんの突然の指摘に、僕はうっかり話し忘れた盟約を思い出す。
『そうだ、盟約があった!』
盟約は簡単だが、不思議なものだった。森人が住む森を枯らさないこと。森人がこの森から出なければ攻撃しない。この2点だけで、それ以上の条件はなかった。説明した途端、じいさんは思い出して、あれか! と呟いた。
森人がこの森に住む限り、森は枯れない。枯れた時は世界が終わると言い伝えられてきた。だから森人は滅多に森から出ないし、ほとんどが森で生涯を過ごす。実際、彼らにとって過ごしやすい環境が整っていた。
得意な鍛冶や宝石関連の仕事も出来る鉱脈があり、火起こしする森の木々も豊かだ。その上、主食とする果物や小動物が多く生息していた。理想の環境を捨ててまで、遠くへ移り住む理由がない。だから言い伝えは一応覚えるが、大した価値を見出していなかった。
盟約に合わせて言い伝えが作られたのか、逆か。どちらにしても関連はあるだろう。今回は盟約を盾に乗り切る方法を煮詰めることになった。武力でも魔法でも敵わないのだ。どんな卑怯な方法でも縋るしかない。
「いい知恵があるかい?」
『ベリアルには僕の声が聞こえない。つまり、別のツノと区別がつかないのさ。似たような形状と色のツノを渡したらどうだろう』
「だが、コハクの手の中のシドウを見分けた様子だったぞ」
バルテルが心配そうに眉を寄せる。だが肩をすくめた僕は言い切った。
『絶対に区別できない。僕を隠しておいて、魔獣のツノを差し出せば受け取る。わずかに魔力の痕跡があるのを見分けただけだからね』
これには確信があった。実は120年ほど前に魔王と勇者が戦った時、ツノの先が少し折れた。破片が戦いの中で砕けてしまい、代わりに似たような材質の魔獣のツノを付け足していたのだ。僕にしたら、腕を切り落とされてサイボーグ化されたくらい、衝撃的だった。正直、ツノならなんでもいいのかよ! と思ったし。
『魔法で粉を繋ぎ合わせることもしなかったんだ。その程度の感覚だろ』
魔王の魔力の痕跡があるだけでいいなら、僕の欠片を埋めたツノを作ればいい。琥珀のためなら、先端くらい我慢する。僕の覚悟を確認し、彼らも試してみる気になったらしい。どちらにしろ森にいれば、盟約が守ってくれる。魔獣のツノは、翌日に狩りに行くことが決まった。
「ベリアルとやらの弱点はないのか?」
『弱点……魔王アスモデウスかな』
「それは役に立たない情報だ」
げらげら笑ったバルテルには悪いが、数百年魔王の頭上から観察した結果、本当に欠点らしい欠点はない。甘いものが好きとか、意外な驚きはあるけど。戦いに役立つとは思えなかった。
「どの魔法が一番得意だ?」
『すべて使えるが、風だよ。逆に一番苦手なのが炎、理由は火力が強すぎて調整できないから』
弱点ではない。ベリアルが炎の魔法を使うと手加減ができないので、使わないようにしているだけだった。
「こないだ、いきなりコハクを攻撃しなかったのはどうしてだ?」
白髭の爺さんの突然の指摘に、僕はうっかり話し忘れた盟約を思い出す。
『そうだ、盟約があった!』
盟約は簡単だが、不思議なものだった。森人が住む森を枯らさないこと。森人がこの森から出なければ攻撃しない。この2点だけで、それ以上の条件はなかった。説明した途端、じいさんは思い出して、あれか! と呟いた。
森人がこの森に住む限り、森は枯れない。枯れた時は世界が終わると言い伝えられてきた。だから森人は滅多に森から出ないし、ほとんどが森で生涯を過ごす。実際、彼らにとって過ごしやすい環境が整っていた。
得意な鍛冶や宝石関連の仕事も出来る鉱脈があり、火起こしする森の木々も豊かだ。その上、主食とする果物や小動物が多く生息していた。理想の環境を捨ててまで、遠くへ移り住む理由がない。だから言い伝えは一応覚えるが、大した価値を見出していなかった。
盟約に合わせて言い伝えが作られたのか、逆か。どちらにしても関連はあるだろう。今回は盟約を盾に乗り切る方法を煮詰めることになった。武力でも魔法でも敵わないのだ。どんな卑怯な方法でも縋るしかない。
「いい知恵があるかい?」
『ベリアルには僕の声が聞こえない。つまり、別のツノと区別がつかないのさ。似たような形状と色のツノを渡したらどうだろう』
「だが、コハクの手の中のシドウを見分けた様子だったぞ」
バルテルが心配そうに眉を寄せる。だが肩をすくめた僕は言い切った。
『絶対に区別できない。僕を隠しておいて、魔獣のツノを差し出せば受け取る。わずかに魔力の痕跡があるのを見分けただけだからね』
これには確信があった。実は120年ほど前に魔王と勇者が戦った時、ツノの先が少し折れた。破片が戦いの中で砕けてしまい、代わりに似たような材質の魔獣のツノを付け足していたのだ。僕にしたら、腕を切り落とされてサイボーグ化されたくらい、衝撃的だった。正直、ツノならなんでもいいのかよ! と思ったし。
『魔法で粉を繋ぎ合わせることもしなかったんだ。その程度の感覚だろ』
魔王の魔力の痕跡があるだけでいいなら、僕の欠片を埋めたツノを作ればいい。琥珀のためなら、先端くらい我慢する。僕の覚悟を確認し、彼らも試してみる気になったらしい。どちらにしろ森にいれば、盟約が守ってくれる。魔獣のツノは、翌日に狩りに行くことが決まった。
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