【完結】勇者に折られた魔王のツノは、幼児の庇護者になりました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
20 / 82

20.歪だろうが家族だ

しおりを挟む
「……おとう、さん?」

 頷くバルテルを前に、琥珀は困惑の表情だった。反応が思っていたのと違う。そう感じたのは僕だけじゃなく、バルテルも同じだった。だが導き出された考えが違う。

「嫌か」

 しょんぼりしたバルテルは拒絶されたと受け取ったが、僕はもしかして? と疑問を持った。そのままぶつけてみる。

 琥珀、お父さんって何する人か分かるか? 僕の問いに、彼は勢いよく首を横に振った。やっぱりだ。母親もきちんと認識してない気がしたんだ。どの年齢で捨てられたか分からないが、両親とも記憶に残ってないのだろう。

 バルテルを促そうとしたが、彼はすでに立ち直っていた。笑顔で説明を始める。

「お父さんとは、一緒に暮らす家族だ。家族は分かるか?」

 琥珀は頷いた。膝の上に寝ているニーを指差し「かぞく」と呟いた。その指が次々と子猫を指さす。そうだな、琥珀にとって猫達は正しく家族だった。その家族にバルテルが増えると教えたら、慌てた様子で僕を袋から取り出した。

「おとうさ、ん。しどうも」

「シドウはお兄さんだな。家族だ」

 真剣な顔で頷くバルテルのおかげで、多少風変わりな家族が出来た。父バルテル、母猫ニー、兄は僕で末っ子は三つ子の猫達。その中心に琥珀だ。

 ところで、ちょっとばかり力を込め過ぎだ。軽く首が絞まってるぞ。そこ、首と同じだから緩めて欲しい。訴えたら、力が緩んだ。撫でてくれる琥珀の指が気持ちいい。気にするなよ? 外から見て苦しいかどうか分からないんだからな。僕は自分で訴えるから、これからも掴んでいいぞ。

 難しすぎたのか、琥珀は首を傾げ、最後の部分だけ頷いた。こんな琥珀が見られるんだから、誰かの頭上に乗る必要はない。魔力の譲渡も出来てるし、琥珀も嬉しそうだから。

 この世界に来て、自分がツノだとわかってから……正直、いろいろと諦めてた。自由意思で出歩くことはできず、声も届かない。そのくせ魔力だけは奪っていく魔王に殺意を抱いたのは、数えきれなかった。だけど、琥珀と出会って変わった。

 今の僕は、この世界も悪くないって思ってる。バルテルが手助けしてくれたからこその平和だけど、異世界スローライフも悪くないさ。出来たら自分で琥珀を育てたかったが、無理そうだし。バルテルは気が合うからな。これからもよろしく頼む。

「分かってる。全員で家族だ」

 バルテルを引き当てた琥珀の運は、きっと今まで眠っていたのだ。ようやく目覚めて強運を発揮してるなら、その調子で守ってやって欲しい。ニーの背中を撫でる小さな手の持ち主が、二度と不幸にならないように。

「ところでな、シドウに頼みがある」

 ん? なんだ? 改まってないで、遠慮なく言ってみろ。家族じゃないか。

「先日風呂で探してた、セッケンを作りたいから教えてくれ」

 ああ、そういえばヘチマや石鹸があればって言ったっけ。構わないぞ。異世界知識が役立つなら、どんどん公開してやる。理系専攻だったからある程度は材料が分かる……問題は分量だが、試作を繰り返せば解決するはずだ。

 今日のバルテルは仕事が休みらしく、食事の後で教えることとなった。朝食は米に似た粒状の粥もどきと、肉や野菜。バランスは悪くない。好き嫌いなく口に入れる琥珀を褒めながら、僕の頭の中は石鹸の成分のことでいっぱいだった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結

【完結】転生令嬢は推しキャラのために…!!

森ノ宮 明
恋愛
その日、貧乏子爵令嬢のセルディ(十二歳)は不思議な夢を見た。 人が殺される、悲しい悲しい物語。 その物語を映す不思議な絵を前に、涙する女性。 ――もし、自分がこの世界に存在出来るのなら、こんな結末には絶対させない!! そしてセルディは、夢で殺された男と出会う。 推しキャラと出会った事で、前世の記憶を垣間見たセルディは、自身の領地が戦火に巻き込まれる可能性があること、推しキャラがその戦いで死んでしまう事に気づいた。 動揺するセルディを前に、陛下に爵位を返上しようとする父。 セルディは思わず声を出した。 「私が領地を立て直します!!」 こうしてセルディは、推しキャラを助けるために、領地開拓から始めることにした。 ※※※ ストーリー重視なので、恋愛要素は王都編まで薄いです 推しキャラは~は、ヒーロー側の話(重複は基本しません) ※マークのある場所は主人公が少し乱暴されるシーンがあります 苦手な方は嫌な予感がしたら読み飛ばして下さい ○小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...