【完結】勇者に折られた魔王のツノは、幼児の庇護者になりました

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)

文字の大きさ
上 下
12 / 82

12.話せる環境は手放せない

しおりを挟む
 魔王の元に戻らなくていいのか。そう尋ねるバルテルに、きょとんとした。なぜ僕が魔王の付属物扱いになってるんだ? ちゃんと意思もある異世界人だぞ。そう告げたら驚かれた。

 まあツノがあれこれ喋る時点で、察して欲しかったけど。今、琥珀はハンモックで眠っている。バルテルがベッドを提供してくれたが、一度乗ったらすぐに降りた。落ち着かないのか。猫を抱いて床に寝ようとしたので、来客時に使用するハンモックへ誘導したのだ。こちらは気に入ったらしい。

 僕は話があるからと言ったのに、手離さず握りしめられている。そんな僕のすぐ目の前に座り込み、バルテルは少量の酒と木の実を並べた。

「異世界から来た、だから魔力が多いのか」

 やはり異世界転生チートは、どの世界軸でも存在するらしい。バルテルによれば、異世界人の話はいくつか残ってるという。一番近いのは250年ほど前だった。聖女と呼ばれた黒髪の美少女とか。それ、話を盛ってねえか? 多少魔力の高い平均レベルの女子高生あたりじゃねえの?

「ジョシコウセ? は知らないが、発見した当時5歳だったそうだ」

 ……それ、ボール追いかけてトラックに轢かれた典型的なパターン?

「トラック? 死んだのか」

 異世界から来る場合、大抵は前の世界で死んでることが多い。稀に召喚なんて話もあるらしいが、この世界では召喚魔法陣は発動できない。一言で言えば、魔力が足りないらしい。過去の遺産の魔法陣を見たことはあるが、魔王が全力を絞っても発動しなかった。

 ちなみに、あの時僕の魔力も絞られた。数日は魔力枯渇で大変だったんだぞ。魔王に貸しひとつだ。

「シドウも死んだのか」

 それが悪いけど、よく覚えていない。バルテルは夜食の炒った木の実を噛み締め、酒で唇を湿らす。強い酒のようだ。薄めて飲むのは邪道だと言うから、猫のような所作を見守った。

 髭ももっさりと生えたいい歳のおっさんが、コップの酒を舐める姿は妖怪さながら。目を喜ばせる光景ではなかった。

「異世界の奴にそんな事情があったとはなぁ」

 次に新しい異世界人が来たら、優しくしてやってくれ。大抵は運が悪かっただけの普通の人だ。そこから元いた世界の話を少しして、また冒頭の話に戻った。

「魔王のツノだったんだろ? 戻らなくて平気か」

 向こうが僕を忘れていった。その所為で転移する勇者一行に巻き込まれ、神殿で蹴飛ばされ、母猫ニーに捕まったんだ。向こうだって必要だと思えば回収しただろう。無視されたんだから、いいんじゃないか? 戻ってやる気はないね。

「随分と怒らせたらしいな、魔王が蘇って、さぞ驚くだろう」

 にやりと笑うバルテルは酔っているらしい。まあ困ると思うぞ、僕がいないと、日常用以外の魔法は大半が発動しないからな。僕としては魔王より、会話のできる今の環境を維持したい。何より可愛い琥珀を見守りたいし。

 今度、琥珀に魔法と魔力の調整を教えてやってくれよ。そう頼んだ僕に「わかったわかった」と生返事しながら、バルテルは床で眠ってしまった。ちゃんと朝になっても覚えてるか? 心配になる。

「ん……っ」

 寝返りを打った琥珀が向きを変え、僕の視界からバルテルが消える。動けないってやっぱり不便だ。だけど、琥珀が僕を大事に抱き締めてるのは、かなり嬉しい。ちゃんと一人前になるまで一緒にいるからな。約束だ。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結

【完結】転生令嬢は推しキャラのために…!!

森ノ宮 明
恋愛
その日、貧乏子爵令嬢のセルディ(十二歳)は不思議な夢を見た。 人が殺される、悲しい悲しい物語。 その物語を映す不思議な絵を前に、涙する女性。 ――もし、自分がこの世界に存在出来るのなら、こんな結末には絶対させない!! そしてセルディは、夢で殺された男と出会う。 推しキャラと出会った事で、前世の記憶を垣間見たセルディは、自身の領地が戦火に巻き込まれる可能性があること、推しキャラがその戦いで死んでしまう事に気づいた。 動揺するセルディを前に、陛下に爵位を返上しようとする父。 セルディは思わず声を出した。 「私が領地を立て直します!!」 こうしてセルディは、推しキャラを助けるために、領地開拓から始めることにした。 ※※※ ストーリー重視なので、恋愛要素は王都編まで薄いです 推しキャラは~は、ヒーロー側の話(重複は基本しません) ※マークのある場所は主人公が少し乱暴されるシーンがあります 苦手な方は嫌な予感がしたら読み飛ばして下さい ○小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました

みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。 ここは小説の世界だ。 乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。 とはいえ私は所謂モブ。 この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。 そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...