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100章 幸せになろう

1388. 愛情が暴走したようです

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 大公女達は心配そうに顔を見合わせる。シトリー、ルーシア、ルーサルカ、レライエの順で部屋から出た彼女達だが、主君のリリスはまだ籠っていた。さすがに8日目ともなれば心配になる。差し入れした飲食物が回収され、交換用シーツが外に出されるため、大公4人はさほど心配していなかった。

「大丈夫ですよ、何かあれば飛び出してきます」

 軽い口調でアスタロトが肩を竦める。何かあってからでは遅いのでは? 青ざめるレライエに、ルーシアは苦笑いした。

「仕方ないわよ、魔王陛下はリリス様が大好きだもの」

「そうね。嫌ならリリス様は飛び出してくるわ」

 義父と同じような感想を持ったルーサルカは、アベルと腕を組んだまま笑う。顔を見合わせたシトリーとグシオンも同意した。というのも、リリスは我が侭なところがあり我慢が苦手だ。気に入らないなら逃げだしてくるだろう。

「逃がしてくれれば、ですが」

 ぼそっとベールが不吉な呟きを零す。ベルゼビュートは狼姿のエリゴスを抱き締めながら、はふっと欠伸をした。昨夜は書類への署名を手伝い、少しばかり寝不足なのだ。

「平気よ、リリス様が本気で「嫌」と言ったら青ざめた顔で助けを求めに来るわ」

「「ああ、それはわかります」」

 アスタロトとベールが頷く。ルキフェルはお気に入りのお茶を淹れて振舞った。

「お茶でも飲んで落ち着こうよ。僕らの予想ではあと2日くらいは出て来ないからさ」

「……予想を外してすまない」

 先日もそうだが、ルキフェルの言葉は魔力を帯びているのだろうか。色気垂れ流しで出てきたあの日と同じく、ルキフェルに返答する形でルシファーが姿を現した。まるで召喚魔法のようだ。

「満足されましたか?」

「全然」

 即答で否定し、ルシファーはソファに腰掛けた。胸元が少しはだけて頬を染めた魔王は髪が乱れている。その色気に少女達は一斉に目を逸らした。ルーサルカとレライエはくるっと背を向ける。現在の失礼より、未来の無礼を避けた形だ。

 ルーシアを抱き寄せるジンも、そろりと壁に目を向けた。そこには幼いリリスが描いたルシファーの絵が掛かっている。現実逃避もかねて、じっくり鑑賞した。

「リリス様を置いてきていいのですか」

「少し眠りたいから外にいてと言われてしまった」

 しょんぼり肩を落とす。まだがっついていたのか。大公達の目が眇められた。体力で言えば、年単位で寝なくても平気な化け物である。魔王に本気で求められたリリスへの同情が広がった。それは休みたいだろう。出来れば、ベッドに一人で寝たいと思うのも仕方ない。

「きちんと休憩を挟むように説明したと思いますが……ただでさえ化け物並みの体力なんですから、ご自分で自覚して制御してください」

 主君に対するには辛辣過ぎる言葉だが、ルシファーはけろりと返した。

「きちんと制御したぞ、1回ごとに休憩して眠らせたし。無理はさせてない」

 ……ああ、その1回がとんでもない単位だったと。声にせず察した情報を共有する大公達は溜め息を吐き、真っ赤な顔の大公女やその伴侶は耳を塞いだ。

 大切に育てた十数年、一度は失いかけて執着を強くし、さらに育て直しで数年延びた結婚式――やっと結ばれるのだから、それはがっつきもするだろう。理解できるが、通常の常識の範囲でお願いしたいものだ。結婚式後に半年は執務を入れなかった己の判断を、アスタロトは改めて自画自賛した。

「あ、リリスが起きた!」

 嬉しそうに戻ろうとするルシファーを捕まえ、ルキフェルが結界に閉じ込める。音を遮断する内側で、ベールとアスタロトが交互に言い聞かせた。最後にベルゼビュートも何か釘を刺したらしい。浮かれていたルシファーの表情は青くなり、赤くなり、最後に強張った。

「嫌われたくないから……もう少ししたら戻る」

 肩を落としてソファに座り直す魔王の横で、アスタロトが乱れた髪を丁寧に梳く。俯いた彼の様子に同情したのか、大公女達は目配せし合って声を掛けた。

「あの、リリス様は本当に嫌なら言いますわ」

「そうです。陛下を大好きですから」

 慰めに頷くルシファーは、差し入れの菓子やお茶を手に部屋に戻っていった。綺麗に梳かされた純白の髪を揺らし、はだけた衣装をきちんと直されて。

「さあ皆さんは通常通りです。魔王陛下が魔王妃殿下を迎えても、世界が止まるわけではありませんからね!」

 笑うアスタロトに、全員が「それもそうだ」と動き出した。







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※続編決定! 要望が多かった次世代(魔王ルシファーと魔王妃リリスの子ども世代)のお話を書きます(´▽`*)ゞヶィレィッッ!! 応援よろしくお願いします。
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