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100章 幸せになろう
1387. 出て来ないと心配だが、出てきても
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「いつまで籠ってるんでしょうね」
「気が済むまででしょ。新婚なんてそんなもんよ」
リリスや少女達がいないので、苦い珈琲を飲みながらアスタロトがぼやく。窓の外はすでに夕方だった。空腹なのではないかと心配しつつ、ついでに義娘ルーサルカの様子を見に行きたいらしい。もちろん、邪魔など許されないが。
ベルゼビュートは自らも新婚中なので、あふっと欠伸をしながらのんびり答える。本来はまだ新婚の休暇中なのだが、さすがに主君の結婚式となれば無視も出来ない。大公女であるルーシアの後見人でもあり、顔を出さない選択はなかった。そんな彼女の膝に顎を乗せるエリゴスは、魔獣状態である。
ふわふわの毛皮を撫でる彼女の向かいで、ベールが肩を竦める。無言で同意したように見えるが、実際はどっちもどっちと呆れているのだろう。
「あ、シトリー達が出てきた」
何かを仕掛けていたのか。ルキフェルがにやりと笑う。続いて、ルーシア達も食事の手配をしたと告げた。どうやら扉の周辺に開閉を感知する魔法陣でも置いたようだ。
「ルキフェル、バレないようにしなさい」
知られたら大変ですから。ベールの忠告に、ルキフェルは素直に頷いた。音や映像はないが、扉そのものの開閉を感知するだけだと口にする。侵入者防止用の魔法陣を弄ったのかと見当をつけ、アスタロトは珈琲を飲み干した。
「夕食はどうするんだろう」
ぽつりとルキフェルが呟く。魔王夫妻は勝手に何とかするが、大公女達には何か差し入れた方がよさそうだ。ルーシアは自分で食事の手配をしている。シトリーも同様だろう。
「ルカが心配です」
「大人しく座ってなさいよ。嫌われるわよ」
立ち上がったアスタロトをベルゼビュートが正論で窘める。珍しい構図に、ルキフェルがくすくすと笑い出した。
「ねえ、陛下が何時ころ出て来るか、賭けない?」
賭け好きの血が騒ぐベルゼビュートを、「不謹慎です」とベールが一刀両断する。
「すぐ出て来るに賭けるぞ」
振り返った彼らの前で、扉の脇に現れたルシファーが肩を竦めた。すでに出てきたなら賭けは不成立、とベルゼビュートが残念そうに呟く。気怠そうなルシファーは、乱れた純白の髪を乱暴にかき上げた。絡まった髪が手櫛で解れる。
「食べ物を用意してくれ。プリンは必須で、果物も多めに頼む」
それだけ注文すると、また部屋を出ていこうとする。自由過ぎるルシファーを、慌ててアスタロトが引き留めた。
「お待ちください。ルシファー様、まだ籠るのですか?」
「あ? うん……リリスが可愛くて、今は外に出せない」
照れて幸せそうにそう告げる魔王へ、誰もが安堵の息をついた。一時期暴走しかけたり、幼いライバルを本気で排除したりと騒動を起こしたルシファーも、ようやく落ち着いたようだ。白皙の頬を染めて長い睫毛を伏せる姿は、ひどく艶めかしかった。
そっと目を逸らしたルキフェルやベールは正しい。うっかり主君の閨事情まで想像しかねない、壮絶な色気だった。元から顔立ちが整っているのだから、もう少し垂れ流す色気を抑えてもらいたい。うっかり侍女や貴族令嬢が見てしまったら、ふらりと引き寄せられそうだ。
「陛下は部屋から出ないで、もう! 何かあれば運びますから」
ベルゼビュートがぷんと頬を膨らませて、強気な態度でルシファーに部屋から出るなと促した。この状態のルシファーを見てしまえば、他の大公3人に否やはない。指を鳴らして転移で戻る魔王を見送り、4人はソファに身を沈めた。目を閉じて存在を消していたエリゴスが一番賢い。
「どっと疲れたわ」
「執務は何とかしましょう」
「あと10日は放置決定だね」
ぐったりする同僚を前に、アスタロトは空になったカップを持ち上げて……溜め息を吐いてテーブルに戻した。
「気が済むまででしょ。新婚なんてそんなもんよ」
リリスや少女達がいないので、苦い珈琲を飲みながらアスタロトがぼやく。窓の外はすでに夕方だった。空腹なのではないかと心配しつつ、ついでに義娘ルーサルカの様子を見に行きたいらしい。もちろん、邪魔など許されないが。
ベルゼビュートは自らも新婚中なので、あふっと欠伸をしながらのんびり答える。本来はまだ新婚の休暇中なのだが、さすがに主君の結婚式となれば無視も出来ない。大公女であるルーシアの後見人でもあり、顔を出さない選択はなかった。そんな彼女の膝に顎を乗せるエリゴスは、魔獣状態である。
ふわふわの毛皮を撫でる彼女の向かいで、ベールが肩を竦める。無言で同意したように見えるが、実際はどっちもどっちと呆れているのだろう。
「あ、シトリー達が出てきた」
何かを仕掛けていたのか。ルキフェルがにやりと笑う。続いて、ルーシア達も食事の手配をしたと告げた。どうやら扉の周辺に開閉を感知する魔法陣でも置いたようだ。
「ルキフェル、バレないようにしなさい」
知られたら大変ですから。ベールの忠告に、ルキフェルは素直に頷いた。音や映像はないが、扉そのものの開閉を感知するだけだと口にする。侵入者防止用の魔法陣を弄ったのかと見当をつけ、アスタロトは珈琲を飲み干した。
「夕食はどうするんだろう」
ぽつりとルキフェルが呟く。魔王夫妻は勝手に何とかするが、大公女達には何か差し入れた方がよさそうだ。ルーシアは自分で食事の手配をしている。シトリーも同様だろう。
「ルカが心配です」
「大人しく座ってなさいよ。嫌われるわよ」
立ち上がったアスタロトをベルゼビュートが正論で窘める。珍しい構図に、ルキフェルがくすくすと笑い出した。
「ねえ、陛下が何時ころ出て来るか、賭けない?」
賭け好きの血が騒ぐベルゼビュートを、「不謹慎です」とベールが一刀両断する。
「すぐ出て来るに賭けるぞ」
振り返った彼らの前で、扉の脇に現れたルシファーが肩を竦めた。すでに出てきたなら賭けは不成立、とベルゼビュートが残念そうに呟く。気怠そうなルシファーは、乱れた純白の髪を乱暴にかき上げた。絡まった髪が手櫛で解れる。
「食べ物を用意してくれ。プリンは必須で、果物も多めに頼む」
それだけ注文すると、また部屋を出ていこうとする。自由過ぎるルシファーを、慌ててアスタロトが引き留めた。
「お待ちください。ルシファー様、まだ籠るのですか?」
「あ? うん……リリスが可愛くて、今は外に出せない」
照れて幸せそうにそう告げる魔王へ、誰もが安堵の息をついた。一時期暴走しかけたり、幼いライバルを本気で排除したりと騒動を起こしたルシファーも、ようやく落ち着いたようだ。白皙の頬を染めて長い睫毛を伏せる姿は、ひどく艶めかしかった。
そっと目を逸らしたルキフェルやベールは正しい。うっかり主君の閨事情まで想像しかねない、壮絶な色気だった。元から顔立ちが整っているのだから、もう少し垂れ流す色気を抑えてもらいたい。うっかり侍女や貴族令嬢が見てしまったら、ふらりと引き寄せられそうだ。
「陛下は部屋から出ないで、もう! 何かあれば運びますから」
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「どっと疲れたわ」
「執務は何とかしましょう」
「あと10日は放置決定だね」
ぐったりする同僚を前に、アスタロトは空になったカップを持ち上げて……溜め息を吐いてテーブルに戻した。
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