上 下
1,390 / 1,397
100章 幸せになろう

1385. 初夜は一回だけなので!

しおりを挟む
 各テーブルで歓迎され、気づけばリリスの頬が真っ赤だった。首や耳も赤いことから、どこかでジュースに混じってワインでも口にしたのだろう。腕を絡めると表現するより、しがみ付いて寄り掛かる彼女はうっとりと目を閉じている。

「……どこで飲んだんだ?」

 全然気づかなかった。大きな溜め息を吐いて抱き上げると、飲酒で体温が上がった腕がするりと首に絡みついた。ぐっと身を寄せられ、柔らかな胸と温かな吐息が押し付けられる。夜空を仰いで星を数え始める魔王様の魔王様が、やや反応しかけていた。

「陛下、そろそろ下がられてはいかがでしょうか」

「ルシファー様。新郎新婦が長居する場ではありません」

 花嫁花婿の披露が終われば、あとは親族や各種族が酒を振舞って騒ぐだけ。最後まで宴に付きあっては、いくら体があっても足りない。デュラハンやエルフはすでに潰れた者が出始め、ドワーフや竜は酒樽に首を突っ込んで盛り上がっていた。

 この状況で、主役はもはや視界に入っていない。抜け出ても誰も気づかないだろう。そもそも今夜は初夜であり、床入り前に泥酔する事態になったら大変だった。ルシファーのように飲酒しながら中和する者は珍しいのだ。乾杯に付きあうのもそこそこに、大公女達はすでに引き上げさせた。

 残るはルシファーとリリスのみ。早く魔王城へ戻さなくては、朝まで宴に付き合いそうだった。魔王の人の好さは長所だが、もし初夜を宴で明かしたら……後の夫婦生活にとんでもない遺恨を残すはずだ。既婚経験18回のアスタロトは、身をもって妻の恐ろしさを知っていた。

 6人目の妻の時、うっかり朝まで宴に付き合って夜を明かした。自室に戻った明け方、魔王と対峙するより恐ろしい妻の微笑みに背筋が凍り付いたことを思い出す。彼女はいつまでも恨みを忘れず、ことあるごとに持ち出された。経験者として、あの恐怖は伝えておきたい。

「もし初夜に失敗すると、一生言われますよ」

 どちらの寿命もとんでもなく長いだろう。共に暮らす長い人生の間、ずっと尻に敷かれるのもどうかと……いや、それに関してはすでに手遅れだったか。アスタロトは苦笑いして主君の背を押した。これ以上は野暮だろう。

「わかった。ありがとう、あとは任せる」

「はい」

「わかっています」

 アスタロトとベールがゆったり頭を下げる。ベルゼビュートが気づいて駆け付け、酔ったリリスの額に手を当てた。ルシファーが苦手とする酒精の分離を行ったらしい。リリスは大きな金の瞳を見開いた。

「ベルゼ姉さん、ありがとう。すっきりしたわ」

「花嫁が酔うなんてダメよ。愛してもらいなさい」

 微笑んでリリスの頬を撫でた。後ろから覗き込んだルキフェルは、肩を竦める。ベルゼビュートに先を越されて、分離魔法陣を指先から消した。

「おやすみ」

 いろいろな思いを込めたルキフェルの挨拶に、リリスはふふっと笑った。兄のように一緒にいて、共に成長した友人だ。お先に、なんて挨拶は失礼かしらね。口の中に飲み込んだ言葉の代わりに「おやすみなさい」と4人に微笑んだ。

 ルシファーは普段より足早に進む。首に回した手に力を込めて身をすり寄せ、ルシファーの首筋に唇を押し当てた。酔った勢いで襲っちゃおうと思ったけど、そんなの勿体ないわ。ちゅっと音を立てたキスに、ルシファーの足が止まった。

 直後、ぽんと景色が変わる。転移で自室まで戻ったルシファーは、普段と違う飾り付けの寝室に目を見開いた。彼らは知らなかったが、大公女達が飾り物を用意していた。それをアデーレ達侍女や侍従が、宴の間に飾り付けたのだ。

 薔薇の散る柔らかな絨毯を踏みしめ、抱き締めた愛しいリリスをベッドに横たえる。白いシーツには赤と白の薔薇が散らされ、天蓋は淡いピンクに替えられていた。

「ルシファー、愛してるわ。ずっと一緒よ」

 リリスの声が紡ぐ愛を受け取り、ルシファーは頬を緩めた。




















*********************
新作(恋愛)のご案内

『愛され公爵令嬢は穏やかに微笑む』

「シモーニ公爵令嬢、ジェラルディーナ! 私はお前との婚約を破棄する。この宣言は覆らぬと思え!!」
婚約者である王太子殿下ヴァレンテ様からの突然の拒絶に、立ち尽くすしかありませんでした。王妃になるべく育てられた私の、存在価値を否定するお言葉です。あまりの衝撃に意識を手放した私は、もう生きる意味も分からくなっていました。
婚約破棄されたシモーニ公爵令嬢ジェランディーナ、彼女のその後の人生は思わぬ方向へ転がり続ける。優しい彼女の功績に助けられた人々による、恩返しが始まった。まるで童話のように、受け身の公爵令嬢は次々と幸運を手にしていく。

ハッピーエンド確定
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

処理中です...