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100章 幸せになろう

1382. 何もなく終わるはずもなく

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 降りそそぐ光の蝶を手に受けて、シトリーが苦笑いする。ルーシアもルーサルカも、気合入れ過ぎよ。お陰でこっちのハードルが上がってしまったわ。最後に披露する魔王夫妻の心配は要らない。あの二人はどんな魔法でもこなすだろうから。

「グシオン、予定変更よ。レライエには悪いけど、炎の円舞を使いましょう」

「……確かに、これじゃな」

 美しく空を彩った二組の演目が素晴らしかっただけに、当初予定していた催し物では見劣りする。見つめ合って頷くと、変更の詳細な打ち合わせを始めた。ひそひそと話し合うこと5分、ようやく決まる。

 淡緑のマーメイドドレスから覗く翼から数枚引き抜き、羽根に魔法をかける。幻影魔法のひとつだが、これを核にして魔法を上掛けするつもりだった。燃えてしまわないよう、魔力を多めに込めておく。それらを上空へ飛ばした。

 白い羽根がひらひらと舞うたび、枚数が倍増していく。雪のように白い羽根が夜空に舞うが、落ちて来なかった。空を見上げる人々の意識がそちらに集中したタイミングで、グシオンが炎の龍を放つ。これは炎龍であるデカラビア一族の固有魔法だった。

 炎が龍の形を取り、尾を振りながら雄大な姿を見せつける。白い羽根が凝って、鳥の形を作り上げた。互いに睨みあう形になった龍と鳥は、ゆっくり左右に移動を始める。睨みあったまま円を描く形になり、炎龍がぶわっとブレスを放った。受けた鳥が燃え上がり、鳳凰と見まごう美しさを纏う。

「うわぁ、素敵」

 誰かの呟きに気を良くしたシトリーが鳥を操って、龍に白い息を吹きかける。途端に炎龍が色を変えた。美しい白い炎に包まれる龍に赤く燃える鳥が寄り添い……互いを包み込むように溶けていく。丸い球体になった魔法が弾けると、火の粉になって消えた。

 消える様に余韻を残さず、だからこそ儚さが際立つ。目を見開いて静まり返った魔族から、一斉に褒め称える声が上がった。拍手もなり止まず、どうやら成功したと安堵する二人は額に滲んだ汗をそっと拭った。思ったより魔力の消費量が激しい。

「これは、我らも頑張るしかないか」

 レライエが困ったと溜め息を吐く。全員が予定を変更してしまった上、リリス達も何やら相談を始めてしまった。太腿に頬ずりしている夫アムドゥスキアスの首根っこを掴んで持ち上げる。両手足がぶらりと垂れ下がり、慌てた様子で掴まろうと暴れ出した。

「私の夫なら出来るだろう? アドキス」

「いま、なんて?」

 目をきらきらさせて短い両手で頬を包むミニドラゴンに、レライエは甘い微笑み付きで畳みかけた。

「全力で技を披露してくれ、よ」

「全力でいってきます!!」

 レライエが手を離した途端、空に舞い上がった翡翠竜が魔力を高めていく。その下で魔法陣に修正を加えるレライエが上空の様子を窺う。溜めた魔力で光を帯びた翡翠竜と目が合った。嬉しそうに小さな手を伸ばす夫へ、レライエは振り被って魔法陣を投げつける。

 受け取ったというより、受け取り損ねて叩きつけられたアムドゥスキアスが魔力を開放して注ぎ込んだ。ぶわっと暖かい空気が周囲に広がる。翡翠竜の名が示す通り、美しい緑の鱗が月光を浴びて煌めいた。

「……嫌な予感がする」

「奇遇ね、私もよ」

 ルシファーとリリスが顔を見合わせた。この時点で何も起きていないが、軽いトラブルの予感に二人は肩を竦める。レライエの魔法陣がくるくる回り始め、注ぎ続ける大量の魔力によって発動条件を満たした。

 淡い桃色の花びらが舞い散る。目を見開いた人々の上に落ちてくるが、触れる手前で消えた。これは現実に作られた物ではなく、幻に近い。魔力によって作り出された風景は花畑のようだった。続いて緑の葉に青い水が降り注ぎ、やがて黄金色の葉が散り始めた。四季を具現化したような景色に、雪の結晶が現れる。

 手に触れる前に消えていく雪によって、ひんやりした空気が周囲に漂った。最後に翡翠竜が全力で雪を作り出す。巨大な氷による彫刻が空に浮かんだが、魔力量が大きすぎて実際に生み出された氷が割れて落下を始めた。
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