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100章 幸せになろう

1380. 着飾る花嫁達は忙しい

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 女性の着替えは大騒ぎなのが通例だが、今回は事前に魔法陣に姿を登録していた。以前にルシファーが式典用衣装に着替えるのに使っていた魔法陣だ。幼い頃のリリスも愛用した。

 数日中なら姿形が変わる心配もないので、問題なく登録できる。事前に登録していた少女達は次々と魔法による着替えを行った。だが、化粧などの最終調整に手間取る。ついには髪型を変更したりし始めた。女性の気持ちは天気より変わりやすいのだ。

 黒いチューブトップのドレスを纏うリリスが、髪飾りに追加で簪を挿す。その間にアデーレが、ショールを肩にかけてブローチで固定した。肌を出し過ぎるとルシファーが嫉妬する可能性が高い。その辺はしっかり考慮する大公夫人だった。

 黒髪に黒いドレスで地味に仕上がるイメージだが、ドレス全体に散りばめた小粒の宝石が星空に似た輝きを生み出した。夜空を切り取ったようなドレスと、すべて結い上げて項を露わにしたスタイルがマッチする。肩に掛けた白いショールはレースで透けており、こちらも粉にした金剛石が散っている。

 ルシファーの死蔵の宝石が役に立った瞬間だった。きらきらと輝く様子に、嬉しそうなリリスはくるりと一回転する。手には、大公女4人から贈られた杖が光った。素晴らしい出来に、リリスは受け取ってから片時も手元から離さない。それほど気に入ってもらえたなら彼女達も頑張った甲斐があった。

 ルーサルカはワインレッドの半袖ドレスだが、スカートの前部が開いたデザインだった。後ろ部分と裾は長く、正面からは膝下が見える。胸元と袖はレースで肌が透けるため、亜麻色の肌にパールの粉が塗された。化粧は少し濃いめに行い、大人っぽい口紅をベルゼビュートが指先で塗る。

「綺麗よ」

 満足げに頷いたベルゼビュートは、慌ててレライエの支度を手伝いに走った。

 隣でシトリーが淡い緑のドレスを纏う。体にぴたりと添う艶のあるマーメイドタイプだ。ところどころに羽根飾りを留め、むき出しの背に翼を広げていた。そのために肩が出るデザインを選んだのだ。己の持つ翼までセットでドレスが完成する。髪は緩やかにウェーブを掛けて散らした。

 淡い色の化粧で、唇に薄いピンクを乗せる。目の下、頬にチーク代わりの模様を描く。曲線が美しい模様は、一族ごとに特徴があるらしい。誇らしげに模様を刻んだ頬を緩めた。

 象牙色の肌を濃い紅の刺繍が入ったラベンダーのドレスに包み、ルーシアは青い髪を横に流した。淡水真珠を連ねた長いネックレスに似たアクセサリーを絡めて、編み込んでいく。最後に毛先を丸めながら、逆方向に巻き始めた。頭の上に髪飾りで留める。

 普段は青を纏う彼女だが、この色が似合うと勧めたのはリリスだった。アデーレが布を当てて頷き、他の大公女も褒めてくれたので冒険をした形だ。鏡の前で確認して、嬉しそうな表情を作った。化粧は目元ときつく赤で飾り、頬紅はなし。代わりに唇は目の覚めるような赤で彩る。

「手伝いましょうか?」

「ありがとう、もう終わるわ」

 最後にまだ髪を巻いているレライエに声を掛けると、巻き毛が得意なベルゼビュートが代わりに答えた。手慣れた様子で巻いた髪を緩めていく。オレンジの髪はこの日のために伸ばした。巻くと短く見えるため、肩にかかる長さだ。それを左右に分けて飾りを付けた。

 ドレスはパンツタイプだが、上に巻きスカートを掛けている。アベルがいたら「アラブ風」と表現しただろう。ふんわりした巻きスカートの中は、細身のパンツで足の美しいラインが際立つ。上半身はビスチェのようにきっちり締め付け、肩のストラップではなく首の後ろでリボンを結んだ。活発で少年のような魅力の彼女にぴったりだ。

「さあ、それぞれに夫を魅了してらっしゃい」

 笑ってベルゼビュートが発破を掛ける。アデーレも「皆、すごく綺麗よ」と言葉を添えた。嬉しそうに互いを褒め合う少女達は、それぞれの夫が待つテーブルへ――ぱちんと指を鳴らしたベルゼビュートの転移魔法が花嫁達を送り届けた。
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