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100章 幸せになろう

1378. よし、宴会だ!!

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 ドラゴン姿で最敬礼を捧げるアムドゥスキアスへ、ルキフェルはひらりと手を振った。敬意は受け取った、これ以上の礼は不要と伝える仕草に翡翠竜が顔を上げる。鱗の色は竜種にとって己の優位性や地位を示す重要なアイテムだ。

 いくら結婚式という相手が主役の場であれ、瑠璃竜王の名を冠するルキフェルが緑を纏うことは通常ない。青以外の選択肢があるとしたら、己の番や主君の色くらいだろう。そんな暗黙の了解を破り、ルキフェルは今回翡翠竜の象徴である緑色を纏った。最上級の敬意を示されたのだ。

 幼く振舞っても、眠っていた期間が長くとも、一時期は大公候補に挙がったアムドゥスキアスだからこそ。ルキフェルが示した破格の対応に感謝の念を強く感じた。

「炎の大公女レライエ嬢、翡翠竜アムドゥスキアス。結婚おめでとう、幸せにね」

 竜人族と竜族の結婚は、互いが同じ姿を取れることが条件だ。竜人であるレライエが竜の形を取ることで、番であると一族は認めた。他の大公女達より障害少なく結ばれたが、ある意味一番大変なカップルかも知れない。微笑むルキフェルがリングピローを差し出した。

 中央で輝く指輪に、二人は驚いて瞬く。対照的な色の宝石を埋め込んだ指輪は、対でデザインされたと分かる作りだった。そっと手を伸ばしたレライエが、髪色と同じオレンジの指輪を摘まむ。揺らめく宝石は遊色が出ており、とても美しかった。

「翡翠竜アムドゥスキアス、そなたを私の夫としてこれからも一緒にいると誓おう。愛している」

 何とも男前な宣言に、翡翠竜の頬がぽっと赤く染まる。まるで花婿と花嫁が逆転したように、ミニドラゴンの細い手に指輪が通された。魔法陣でサイズを自動調整する。ミニドラゴン姿では腕輪に近いが、よく見ると指を3本まとめて指輪で縛る形だった。

「僕の番は失われたけれど、新しい番としてレライエ嬢を守り抜きます。愛してます、愛してください」

 涙をぽろぽろ零しながら、不器用に愛を紡いだ翡翠竜が指輪をレライエの指に嵌める。ぴったりと落ち着いた指輪を、彼女は嬉しそうに撫でた。その微笑みに、アムドゥスキアスの涙腺が完全に崩壊する。涙でびしょびしょになった彼の鼻先に、ちゅっとキスが落とされた。

「……泣くのは後にしなよ」

 ふふっと笑みをこぼしたルキフェルが一礼して場を後にする。慌てて涙を拭った翡翠竜を抱き締め、レライエはドレスの裾を揺らして踵を返した。やっぱり花嫁の方がよほど男前だ。









 全員の結婚式が終わった。儀式が終了した段階で、各種族は決められた席から勝手に移動を始める。中庭に集まりつつある魔族の群れは、狭い場所を有効活用すべく工夫していた。巨人族は歩けない種族や背の低い種族を体中に載せている。そのための籠まで抱える周到さだった。

 身軽な者達は木や塀によじ登り、見物場所を確保する。飛べる種族は言わずもがな、低い高度で旋回するが互いがぶつからないよう高度を調整した。あまりの準備の良さに、大公達は注意するのも忘れて感心する。

「この細かさが仕事に生かされないのは不思議ですね」

「娯楽に関してのみ発揮されるんじゃないかしら」

「互いにもめなければ静観の方向で」

 アスタロトが苦笑いした隣で、夫エリゴスと腕を組んだベルゼビュートが首を傾げる。ベールはもう投げ出していた。ルキフェルは何やら魔法陣を弄っており、話半分で相槌を打つ。

「うん、いいんじゃない?」

「何をしているのですか」

 不思議そうに手元を覗いたベールへ、ルキフェルが魔法陣を見せる。ほぼ完成に近いらしく、機能の説明を始めた。

「これを範囲指定した場所に設置することで、全体に拡張されるんだ。収納の亜空間を目の前の空間に適用できるよ。理論上は……」

 まだ実践していないが、中庭に適用するつもりだろう。大急ぎで仕上げていく。そこへ本日の主役でもある二人が合流した。

「今日はありがとうな」

 大公達に礼を口にした途端、駆け寄ったルキフェルに魔法陣を見せられたルシファーは、一箇所だけ変更を指示した。これで完成である。中庭前の広場に転移したルキフェルが魔法陣を発動させた。見た目に大きな変化はないが、中で数発の魔法を飛ばして確認する。

「問題ないよ! 宴会だ!!」

 大公ルキフェルの宣言を聞いた中庭の魔族が、わっと広場に駆け込む。ようやく魔族らしい賑やかな祭りが始まろうとしていた。
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