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100章 幸せになろう

1371. モニターがあっても近くで見たい

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 イポスの結婚式は今回の騒動が落ち着いてから、改めて挙式となっている。ストラスはのんびりと翡翠竜の服をチェックし、上手に鋏を入れた。

「あっ、そこは……いやぁ」

 妙な声が上がるが、男性陣は目を逸らした。きっと残虐な光景に違いない。そう思ったのだが、意外にもストラスはあっさりと手直しを終えた。

「これで羽が出ると思いますよ」

 言われてばさりと羽を出すアムドゥスキアスが歓喜の声を上げる。動きを多少阻害される窮屈さはあるものの、飛ぶには支障がない。羽をしまっても目立たない位置に切り込みが入っていた。

「そこは魔法陣じゃないんだ?」

 普段から魔法陣を多用する研究所の面々を知るアベルが首を傾げる。苦笑いしたストラスがけろりと白状した。

「実は魔法陣にしようとしたのですが、失敗するとアドキスが半分くらい禿げになりそうなので。やめておきました。翡翠竜の鱗は貴重ですからね」

「何かに使うんですか?」

 竜と龍で近しいせいか、鱗のあるグシオンが尋ねる。翡翠竜の鱗が装飾品として人気が高いのは知っているが、それ以外に使い道があるとは思わなかった。素直な彼に、ストラスは父親譲りの整った顔に微笑みを浮かべる。

「ええ、研究用の反射レンズを作るんです。10枚くらいでレンズひとつ分ですかね」

 優しい指先が翡翠竜の鱗を撫でるたび、アムドゥスキアスがびくりと身を震わせる。結婚式で禿げを披露したくないのか、レライエに事前に注意されたか。じりじりと後ずさった。その首元をきゅっと掴んだストラスが優しく声を掛けた。

「おや、どうしました?」

 ……アスタロト大公の血筋と遺伝、恐るべし!! 顔を見合わせたグシオンとジンは気の毒そうにアベルを見つめる。これからアスタロト大公一家に組み込まれるアベルへの同情が滲む。

「頑張れ、アベルならいける」

「相談は乗れないが、愚痴は聞いてやるから」

 傍観者らしい突き放しにアベルは青褪めた。元凶のストラスはまったく気にせず、翡翠竜の鱗に指を滑らせる。底の見えない微笑みに、アムドゥスキアスが怯えながら助けを求める。

「誰か……誰かぁ」

 無言で首を横に振る薄情な連中に、アムドゥスキアスは奥の手を発動した。すなわち気を失ったのだ。

「おやおや、これでは好きにしてくださいと言っているも同然じゃないですか」

 すっかりアスタロト2世と化したストラスは、ふと思い出したように動き出す。立ち上がると、翡翠竜をアベルに手渡した。

「花火の準備を頼まれていました。失礼しますね」

 口々に礼を言いながら見送った3人は、震えていた侍従のコボルト達と安堵の息を吐いた。

「肝が冷えたが、おかげで緊張も解けた」

 苦笑いするアベルの言葉に同意しながら、残った準備を進める。こちらも後少し。







 式場の最終点検を行うベルゼビュートは、一部はみ出したテントに注意を促す。決められた範囲から飛び出すのは禁止だ。空間魔法も駆使しているため、広さはそれぞれ十分なはずだった。少しでも魔王と魔王妃を近くで見ようとする彼らに、きっちり言い渡す。

「いいこと? ルキフェルが作った画像投影魔法陣があるから、近くで見るのと同じ景色が届くわ。それに後でその映像を買うことも出来るのよ。とにかくトラブルを起こさないこと。近隣とトラブルを起こしたら、亜空間に捨てるから覚悟しなさい!」

 以前より胸元やスリットが控えめになったベルゼビュートの言葉に、慌てて各種族は受け取った魔法陣の紙を確認する。ここに立体映像が投影されると聞いていた。拠点の位置でケンカにならないよう考えた対策だ。

 また今回は参加できずに領地を守る者も、魔王の結婚式を見られるように画像の販売も決まっている。そこで集まった売上は、追加のベビーラッシュ対策費用として寄付される予定だった。

「ベルゼビュート、最終確認をします」

「わかった、今行くわ」

 連絡を受け取ったベルゼビュートは、大急ぎで城へ戻る。彼女がいなくなった途端、ほんの僅かだけはみ出した種族が現れ、他の種族もじりじりと前に進む。匍匐前進ほふくぜんしんのように拠点は魔王城へ迫っていた。
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