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99章 変化し続ける世界の中で
1364. 大公の仕掛けは好評でした――前夜祭2
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レライエは翡翠竜を抱っこしての登場だった。翡翠のカメオはドラゴンが彫り込まれている。それをブローチとして身に着け、薄いショールを留めた。その他に翡翠竜の鱗の耳飾りを左右に下げていた。美しい黄金の細い鎖の先に吊るされた鱗は3枚ずつ連なっている。
腕に抱かれた翡翠竜も、オレンジのピアスを自慢げに輝かせた。不必要に数が多いのは、きっと強請られるまま付けた結果だろう。のちにアムドゥスキアスは「愛情の数だけ開けてもらう」と発言したと噂された。実際は、途中で呆れたレライエが放棄したので8つで終わったらしい。足りないと強請って叱られたのは、夫婦の秘密だろう。
シトリーの銀髪は編み込まず、銀鎖が絡められていた。その先に赤い鱗がきらりと輝く。ドラゴン種の愛情と独占欲の強さを表す鱗のプレゼントは、他種族に微笑ましく受け取られる。鳥人族であるシトリーは己の羽根を使った飾りを作り、グシオンの赤い髪に飾った。
大公女達が婚約者と共に挨拶をするたび、魔族はわっと盛り上がる。手を叩き、口笛を吹き、祝福の言葉を届けた。これでリリスの側近として、同日に結婚式を行う彼女達の顔見せは終わりだ。それぞれに実家や一族に挨拶に向かい、その道すがら様々な魔族からお振る舞いを貰う。
両手で抱えきれないほどの贈り物に頬を緩ませる彼女達は、幸せそうに婚約者と腕を絡めた。レライエだけは中型のアムドゥスキアスに跨り、ふわふわと半分浮きながら移動する。
「相変わらずね」
「アドキスの願いだ」
「それにしても……なんというか、変わり者、よね」
「言葉を包まなくていいぞ、ただの変態だ」
レライエの容赦ない物言いに、周囲で笑いが起きた。頬を染めたアムドゥスキアスが竜族や竜人族の集まる北へ向かってひらりと舞う。そこへ大公達が用意した魔法が放たれた。
花火ではない。空中に何かが広がり、円を描いて降りてくる。花のようでもあり、雪のようでもあった。手のひらほどのそれらは、ゆっくりゆっくり回りながら落ちる。受け止めた者から歓声が上がった。柔らかな光を受け止めると、手のひらに小粒の宝石が残る。
「すごいな!」
「綺麗だわ」
「さすがは魔王様の結婚式だ」
ルシファーが溜め込んでいた小粒の宝石を没収し、研磨して用意したものだ。当日に撒くと大騒ぎになる懸念があり、事前に前夜祭で撒くことが決まった。だが夜目の効かない種族も少なくない。光の中に包んで触れると宝石に戻る魔法は、ルキフェルの力作だった。
研磨をベールが担当し、足りない宝石類の調達をアスタロトが行った。ベルゼビュートも協力し、鉱脈をいくつか発見する。宝石の光シャワーは、30分ほどかけて行われた。
飛び上がって受け取ろうとした精霊が、残念そうに降りてくる。一定の高さに落ちるまで、触れても宝石に変化しない仕組みだった。空を飛べる種族だけが有利にならないよう、あれこれ仕組みを考えたのは文官達である。
工夫が無事成功し、彼らは胸を撫で下ろした。見上げるルシファーは宝石を渡したものの、このように使うと知らずにいたため目を見開く。
「これは考えたな。ある程度割ったのか」
大粒の物もすべて分割後にカットして小さくし、飴玉程度に抑えてある。これならば市場に出回っても、宝石の価格を一気に下落させる心配はないだろう。何より死蔵品が役に立ったことが嬉しかった。リリスは小さな真珠を手にしたらしく、近くの子どもに手渡した。
「これも素敵よ、持って帰っていいわ」
「ありがとう!」
まだ幼い女の子は大切そうに抱きしめ、両親の元へ走っていく。躓いて転ぶ前に父親が抱き上げ、リリスに一礼した。手を振って応え、隣から差し出されたワインを受け取る。だが慌ててルシファーが取り上げた。
「明日の式が終わるまで、リリスの飲酒は禁止だ。だが民からの祝いなのでオレが飲む」
ぐいっとワインを飲み干すと、周囲からこれもと酒が注がれた。次々と注がれる酒を飲み干しながら、ルシファーはリリスに葡萄ジュースを渡す。少し頬を膨らませたが、口に含んだ味が気に入ったらしく唇が緩んだ。
「ドレスを汚さないようにな」
淡いピンクのドレスは光沢を抑えたが、上に虹色の薄布を纏っている。動くたびにひらひら揺れる裾を翻し、各種族のテントを順番に回っていく。夜はまだ始まったばかりだった。
腕に抱かれた翡翠竜も、オレンジのピアスを自慢げに輝かせた。不必要に数が多いのは、きっと強請られるまま付けた結果だろう。のちにアムドゥスキアスは「愛情の数だけ開けてもらう」と発言したと噂された。実際は、途中で呆れたレライエが放棄したので8つで終わったらしい。足りないと強請って叱られたのは、夫婦の秘密だろう。
シトリーの銀髪は編み込まず、銀鎖が絡められていた。その先に赤い鱗がきらりと輝く。ドラゴン種の愛情と独占欲の強さを表す鱗のプレゼントは、他種族に微笑ましく受け取られる。鳥人族であるシトリーは己の羽根を使った飾りを作り、グシオンの赤い髪に飾った。
大公女達が婚約者と共に挨拶をするたび、魔族はわっと盛り上がる。手を叩き、口笛を吹き、祝福の言葉を届けた。これでリリスの側近として、同日に結婚式を行う彼女達の顔見せは終わりだ。それぞれに実家や一族に挨拶に向かい、その道すがら様々な魔族からお振る舞いを貰う。
両手で抱えきれないほどの贈り物に頬を緩ませる彼女達は、幸せそうに婚約者と腕を絡めた。レライエだけは中型のアムドゥスキアスに跨り、ふわふわと半分浮きながら移動する。
「相変わらずね」
「アドキスの願いだ」
「それにしても……なんというか、変わり者、よね」
「言葉を包まなくていいぞ、ただの変態だ」
レライエの容赦ない物言いに、周囲で笑いが起きた。頬を染めたアムドゥスキアスが竜族や竜人族の集まる北へ向かってひらりと舞う。そこへ大公達が用意した魔法が放たれた。
花火ではない。空中に何かが広がり、円を描いて降りてくる。花のようでもあり、雪のようでもあった。手のひらほどのそれらは、ゆっくりゆっくり回りながら落ちる。受け止めた者から歓声が上がった。柔らかな光を受け止めると、手のひらに小粒の宝石が残る。
「すごいな!」
「綺麗だわ」
「さすがは魔王様の結婚式だ」
ルシファーが溜め込んでいた小粒の宝石を没収し、研磨して用意したものだ。当日に撒くと大騒ぎになる懸念があり、事前に前夜祭で撒くことが決まった。だが夜目の効かない種族も少なくない。光の中に包んで触れると宝石に戻る魔法は、ルキフェルの力作だった。
研磨をベールが担当し、足りない宝石類の調達をアスタロトが行った。ベルゼビュートも協力し、鉱脈をいくつか発見する。宝石の光シャワーは、30分ほどかけて行われた。
飛び上がって受け取ろうとした精霊が、残念そうに降りてくる。一定の高さに落ちるまで、触れても宝石に変化しない仕組みだった。空を飛べる種族だけが有利にならないよう、あれこれ仕組みを考えたのは文官達である。
工夫が無事成功し、彼らは胸を撫で下ろした。見上げるルシファーは宝石を渡したものの、このように使うと知らずにいたため目を見開く。
「これは考えたな。ある程度割ったのか」
大粒の物もすべて分割後にカットして小さくし、飴玉程度に抑えてある。これならば市場に出回っても、宝石の価格を一気に下落させる心配はないだろう。何より死蔵品が役に立ったことが嬉しかった。リリスは小さな真珠を手にしたらしく、近くの子どもに手渡した。
「これも素敵よ、持って帰っていいわ」
「ありがとう!」
まだ幼い女の子は大切そうに抱きしめ、両親の元へ走っていく。躓いて転ぶ前に父親が抱き上げ、リリスに一礼した。手を振って応え、隣から差し出されたワインを受け取る。だが慌ててルシファーが取り上げた。
「明日の式が終わるまで、リリスの飲酒は禁止だ。だが民からの祝いなのでオレが飲む」
ぐいっとワインを飲み干すと、周囲からこれもと酒が注がれた。次々と注がれる酒を飲み干しながら、ルシファーはリリスに葡萄ジュースを渡す。少し頬を膨らませたが、口に含んだ味が気に入ったらしく唇が緩んだ。
「ドレスを汚さないようにな」
淡いピンクのドレスは光沢を抑えたが、上に虹色の薄布を纏っている。動くたびにひらひら揺れる裾を翻し、各種族のテントを順番に回っていく。夜はまだ始まったばかりだった。
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