上 下
1,369 / 1,397
99章 変化し続ける世界の中で

1364. 大公の仕掛けは好評でした――前夜祭2

しおりを挟む
 レライエは翡翠竜を抱っこしての登場だった。翡翠のカメオはドラゴンが彫り込まれている。それをブローチとして身に着け、薄いショールを留めた。その他に翡翠竜の鱗の耳飾りを左右に下げていた。美しい黄金の細い鎖の先に吊るされた鱗は3枚ずつ連なっている。

 腕に抱かれた翡翠竜も、オレンジのピアスを自慢げに輝かせた。不必要に数が多いのは、きっと強請られるまま付けた結果だろう。のちにアムドゥスキアスは「愛情の数だけ開けてもらう」と発言したと噂された。実際は、途中で呆れたレライエが放棄したので8つで終わったらしい。足りないと強請って叱られたのは、夫婦の秘密だろう。

 シトリーの銀髪は編み込まず、銀鎖が絡められていた。その先に赤い鱗がきらりと輝く。ドラゴン種の愛情と独占欲の強さを表す鱗のプレゼントは、他種族に微笑ましく受け取られる。鳥人族であるシトリーは己の羽根を使った飾りを作り、グシオンの赤い髪に飾った。

 大公女達が婚約者と共に挨拶をするたび、魔族はわっと盛り上がる。手を叩き、口笛を吹き、祝福の言葉を届けた。これでリリスの側近として、同日に結婚式を行う彼女達の顔見せは終わりだ。それぞれに実家や一族に挨拶に向かい、その道すがら様々な魔族からお振る舞いを貰う。

 両手で抱えきれないほどの贈り物に頬を緩ませる彼女達は、幸せそうに婚約者と腕を絡めた。レライエだけは中型のアムドゥスキアスに跨り、ふわふわと半分浮きながら移動する。

「相変わらずね」

「アドキスの願いだ」

「それにしても……なんというか、変わり者、よね」

「言葉を包まなくていいぞ、ただの変態だ」

 レライエの容赦ない物言いに、周囲で笑いが起きた。頬を染めたアムドゥスキアスが竜族や竜人族の集まる北へ向かってひらりと舞う。そこへ大公達が用意した魔法が放たれた。

 花火ではない。空中に何かが広がり、円を描いて降りてくる。花のようでもあり、雪のようでもあった。手のひらほどのそれらは、ゆっくりゆっくり回りながら落ちる。受け止めた者から歓声が上がった。柔らかな光を受け止めると、手のひらに小粒の宝石が残る。

「すごいな!」

「綺麗だわ」

「さすがは魔王様の結婚式だ」

 ルシファーが溜め込んでいた小粒の宝石を没収し、研磨して用意したものだ。当日に撒くと大騒ぎになる懸念があり、事前に前夜祭で撒くことが決まった。だが夜目の効かない種族も少なくない。光の中に包んで触れると宝石に戻る魔法は、ルキフェルの力作だった。

 研磨をベールが担当し、足りない宝石類の調達をアスタロトが行った。ベルゼビュートも協力し、鉱脈をいくつか発見する。宝石の光シャワーは、30分ほどかけて行われた。

 飛び上がって受け取ろうとした精霊が、残念そうに降りてくる。一定の高さに落ちるまで、触れても宝石に変化しない仕組みだった。空を飛べる種族だけが有利にならないよう、あれこれ仕組みを考えたのは文官達である。

 工夫が無事成功し、彼らは胸を撫で下ろした。見上げるルシファーは宝石を渡したものの、このように使うと知らずにいたため目を見開く。

「これは考えたな。ある程度割ったのか」

 大粒の物もすべて分割後にカットして小さくし、飴玉程度に抑えてある。これならば市場に出回っても、宝石の価格を一気に下落させる心配はないだろう。何より死蔵品が役に立ったことが嬉しかった。リリスは小さな真珠を手にしたらしく、近くの子どもに手渡した。

「これも素敵よ、持って帰っていいわ」

「ありがとう!」

 まだ幼い女の子は大切そうに抱きしめ、両親の元へ走っていく。躓いて転ぶ前に父親が抱き上げ、リリスに一礼した。手を振って応え、隣から差し出されたワインを受け取る。だが慌ててルシファーが取り上げた。

「明日の式が終わるまで、リリスの飲酒は禁止だ。だが民からの祝いなのでオレが飲む」

 ぐいっとワインを飲み干すと、周囲からこれもと酒が注がれた。次々と注がれる酒を飲み干しながら、ルシファーはリリスに葡萄ジュースを渡す。少し頬を膨らませたが、口に含んだ味が気に入ったらしく唇が緩んだ。

「ドレスを汚さないようにな」

 淡いピンクのドレスは光沢を抑えたが、上に虹色の薄布を纏っている。動くたびにひらひら揺れる裾を翻し、各種族のテントを順番に回っていく。夜はまだ始まったばかりだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だって姉が眩しかったから

mios
ファンタジー
「だって、お姉様の周りはいつもキラキラしていたのだもの。」 妹が、大好きな姉の全てを心ゆくまで堪能するにはどうしても彼らは邪魔だった。 *恋愛要素皆無のため、カテゴリー変更しました。

勇者がアレなので小悪党なおじさんが女に転生されられました

ぽとりひょん
ファンタジー
熱中症で死んだ俺は、勇者が召喚される16年前へ転生させられる。16年で宮廷魔法士になって、アレな勇者を導かなくてはならない。俺はチートスキルを隠して魔法士に成り上がって行く。勇者が召喚されたら、魔法士としてパーティーに入り彼を導き魔王を倒すのだ。

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。

光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。 ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…! 8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。 同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。 実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。 恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。 自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】虐げられた令嬢の復讐劇 〜聖女より格上の妖精の愛し子で竜王様の番は私です~

大福金
ファンタジー
10歳の時、床掃除をしている時に水で足を滑らせ前世の記憶を思い出した。侯爵家令嬢ルチア 8さいの時、急に現れた義母に義姉。 あれやこれやと気がついたら部屋は義姉に取られ屋根裏に。 侯爵家の娘なのに、使用人扱い。 お母様が生きていた時に大事にしてくれた。使用人たちは皆、義母が辞めさせた。 義母が連れてきた使用人達は私を義母と一緒になってこき使い私を馬鹿にする…… このままじゃ先の人生詰んでる。 私には 前世では25歳まで生きてた記憶がある! 義母や義姉!これからは思い通りにさせないんだから! 義母達にスカッとざまぁしたり 冒険の旅に出たり 主人公が妖精の愛し子だったり。 竜王の番だったり。 色々な無自覚チート能力発揮します。 竜王様との溺愛は後半第二章からになります。 ※完結まで執筆済みです。(*´꒳`*)10万字程度。 ※後半イチャイチャ多めです♡ ※R18描写♡が入るシーンはタイトルに★マークをいれています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...