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99章 変化し続ける世界の中で
1356. 婚約指輪も揃いました――あと7日
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「今日はだいぶ暖かいわ」
リリスは久しぶりにコートを脱いで外へ出た。庭に咲く花々の色が鮮やかになっている。もうすぐ春が来るのだろう。雪の間から顔を見せていた青紫の花は見ごろを過ぎて、やや色褪せていた。しゃがんでそっと指先を触れる。
「お疲れ様、来年またね」
嬉しそうにふるると花びらを揺らして散る。潔い散り際を誇るように、花びらが風に舞い上がった。
「リリス様、お体が冷えます」
「いま体調を崩すと間に合いませんよ」
注意する彼女らはしっかり厚着だった。結婚式まであと一週間を切ったのに、体調を崩したら台無しだ。慌てて駆け寄ったルーサルカが上着を掛ける。肩に触れた彼女の手は温かかった。やっぱり冷えているのね。自覚して上着に袖を通す。
「ありがとう、ルカ」
ふわりと柔らかな肌触りに頬を緩める。立ち上がったリリスにヤンが近づいた。過保護な灰色魔狼は鼻を鳴らす。
「冷えてしまいますゆえ、室内にお戻りください」
「そうね。分かったわ」
心配されるのが擽ったい。大切にされているのを感じて、それを返したいと思う。ここ最近の変化にリリス自身が戸惑っていた。母である魔の森はほぼ眠りについた。覚醒した意識を一部に絞ることで、眠りの時期を引き延ばそうと必死だ。
愛し子ルシファーとリリスの結婚式を覚えておきたいのだろう。ぎりぎり間に合いそうね。促されて暖かな部屋に戻る。じんと痺れた指先は冷えていたらしく、耳などの末端も一気に赤くなった。上着を羽織ったまま、ルーシアがお茶の用意を始める。
シトリーが取りだしたのは、先日焼いた菓子だった。民に配布する予定で、大量に焼いたのだ。すでに枚数は揃っており、今日から袋詰めする予定だが割れた分は茶菓子として城内で提供された。今頃、ルシファー達も食べてるかしら。
「ヤン、あーん」
「我が君を差し置いて、姫に食べさせていただくわけには……」
「あーん、よ」
繰り返し要求され、ヤンは大人しく口を開いた。ざらりと多めに流し込まれ、ぼりぼりと咀嚼する音が響く。割れているが味は問題ない。少女達も次々と菓子とお茶に手を伸ばした。
「髪型は決まった?」
「このハーブの化粧品、とても良い香りがするの」
「髪飾りに合わせて、化粧もお揃いにしたらどうかしら」
「もうすぐね」
盛り上がる会話の中、リリスがぽつりと呟いた。もうすぐ――それぞれが愛する人のお嫁さんになる。あとわずか一週間、長くも短い。誰もが一瞬言葉を飲み込み、しんとした空気が漂う。リリスが左手の薬指に付けた婚約指輪をなぞる。
ジンに強請ったのだと笑うルーシアの指に真珠が光る。ルーサルカは森の宝石琥珀を使った指輪をアベルから受け取った。シトリーはグシオンにお願いし、真っ赤なルビーを。指輪が一番遅れていたレライエが、嬉しそうに指輪を披露した。輝くのは緑柱石だ。婚約の結納とは別にもらったらしい。
「素敵ね」
「この風習もぜひ広めていきたいわ」
「私達が先駆けじゃない?」
くすくす笑う美しい少女を見ながら、足下でヤンはほっと胸を撫で下ろした。この風習が広まる前に結婚も出産育児まで済ませた彼は、指輪も関係ない。孫の代になればこれから妻を娶るが、魔獣は指輪も必要ないだろう。人化出来る種族は大変だと同情しながら、大きな欠伸をひとつ。
敬愛する主君ルシファーと、大切に見守ってきた姫リリスの結婚式が見られる。きっと素晴らしい日として歴史に刻まれるだろう。
リリスは久しぶりにコートを脱いで外へ出た。庭に咲く花々の色が鮮やかになっている。もうすぐ春が来るのだろう。雪の間から顔を見せていた青紫の花は見ごろを過ぎて、やや色褪せていた。しゃがんでそっと指先を触れる。
「お疲れ様、来年またね」
嬉しそうにふるると花びらを揺らして散る。潔い散り際を誇るように、花びらが風に舞い上がった。
「リリス様、お体が冷えます」
「いま体調を崩すと間に合いませんよ」
注意する彼女らはしっかり厚着だった。結婚式まであと一週間を切ったのに、体調を崩したら台無しだ。慌てて駆け寄ったルーサルカが上着を掛ける。肩に触れた彼女の手は温かかった。やっぱり冷えているのね。自覚して上着に袖を通す。
「ありがとう、ルカ」
ふわりと柔らかな肌触りに頬を緩める。立ち上がったリリスにヤンが近づいた。過保護な灰色魔狼は鼻を鳴らす。
「冷えてしまいますゆえ、室内にお戻りください」
「そうね。分かったわ」
心配されるのが擽ったい。大切にされているのを感じて、それを返したいと思う。ここ最近の変化にリリス自身が戸惑っていた。母である魔の森はほぼ眠りについた。覚醒した意識を一部に絞ることで、眠りの時期を引き延ばそうと必死だ。
愛し子ルシファーとリリスの結婚式を覚えておきたいのだろう。ぎりぎり間に合いそうね。促されて暖かな部屋に戻る。じんと痺れた指先は冷えていたらしく、耳などの末端も一気に赤くなった。上着を羽織ったまま、ルーシアがお茶の用意を始める。
シトリーが取りだしたのは、先日焼いた菓子だった。民に配布する予定で、大量に焼いたのだ。すでに枚数は揃っており、今日から袋詰めする予定だが割れた分は茶菓子として城内で提供された。今頃、ルシファー達も食べてるかしら。
「ヤン、あーん」
「我が君を差し置いて、姫に食べさせていただくわけには……」
「あーん、よ」
繰り返し要求され、ヤンは大人しく口を開いた。ざらりと多めに流し込まれ、ぼりぼりと咀嚼する音が響く。割れているが味は問題ない。少女達も次々と菓子とお茶に手を伸ばした。
「髪型は決まった?」
「このハーブの化粧品、とても良い香りがするの」
「髪飾りに合わせて、化粧もお揃いにしたらどうかしら」
「もうすぐね」
盛り上がる会話の中、リリスがぽつりと呟いた。もうすぐ――それぞれが愛する人のお嫁さんになる。あとわずか一週間、長くも短い。誰もが一瞬言葉を飲み込み、しんとした空気が漂う。リリスが左手の薬指に付けた婚約指輪をなぞる。
ジンに強請ったのだと笑うルーシアの指に真珠が光る。ルーサルカは森の宝石琥珀を使った指輪をアベルから受け取った。シトリーはグシオンにお願いし、真っ赤なルビーを。指輪が一番遅れていたレライエが、嬉しそうに指輪を披露した。輝くのは緑柱石だ。婚約の結納とは別にもらったらしい。
「素敵ね」
「この風習もぜひ広めていきたいわ」
「私達が先駆けじゃない?」
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敬愛する主君ルシファーと、大切に見守ってきた姫リリスの結婚式が見られる。きっと素晴らしい日として歴史に刻まれるだろう。
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