1,359 / 1,397
99章 変化し続ける世界の中で
1354. 何事も事前準備が大切です
しおりを挟む
新種の黄緑の小鳥について目撃情報を募ったところ、思ったより早く集まった。目撃された地域によっては、複数羽の確認がなされており……新種登録が確実となった。問題は、この鳥に特殊な能力があったことだ。
「魔王城の結界をすり抜けるのか」
「はい、魔法陣がまったく効かないようです」
報告するストラスが、赤紫の瞳をぱちりと瞬いた。金髪に近い茶髪は長くなり、後ろでひとつに結ばれている。イポスの婚約者であり、ルキフェルの研究所の優秀な研究員でもある。報告書の内容を暗記しているらしく、手にした書類を見ずに話し続けた。
「魔法に対しての抵抗は平均の範囲内、魔法陣で発動する魔術に対して異常な耐性を持っています」
奇妙なことだ。魔法も魔法陣も本来は同じ物のはず。だが発動状況により効果が異なるため、完全に同じとは言い切れない。その部分に反応するのだろう。今回魔王城に侵入できた理由がはっきりしたため、今後の研究は一応打ち切りとなる。気になる研究者がいれば、さらに深く研究するだろう。
「ご苦労さん、ところでイポスとの結婚式はどうするんだ?」
護衛のイポスが休んでいるのでちょうどいい。切り出されたストラスは、困ったような顔で肩を竦める。
「イポス嬢が、結婚式はしないと言うのです。相談しようにも父は寝ていますし」
寝ていると表現するのは可哀想だ。封印されているんだからな。アスタロト家の末息子であるストラスは、イポスの言葉が本心か分からず困惑しているらしい。
「そういう時の義父だろう。サタナキアと話をしてみろ」
「そう、ですね。話してみます!」
勢いよく出ていくストラスのために、サタナキアにも伝令を飛ばす。これで無事会えるだろう。おそらくイポスの性格からして「結婚後に何ヵ月も仕事を休めない」とか「ドレスなんて似合わない」と考えている。だが折角思い合っての結婚なのだから、着飾って欲しいと思った。それはドレスでなくてもいい。周囲に結婚を知らせるイベントは必要だった。
「陛下、ベビーラッシュへの対応策をまとめておきました」
「あ、ああ。必要だな、ありがとう」
ベールに差し出された提案書に苦笑いが浮かぶ。ずっと独身を貫いた魔王ルシファーが結婚する。敬愛する魔王の結婚に、周囲も一気に色づいた。結婚式があちこちで準備され、イザヤの恋愛小説のお陰で白いドレスや指輪も人気沸騰だ。
結婚式が増えれば、次は子どもが大量に産まれる。どの種族も子どもは大切な宝なのだが、同時に手がかかるのも事実だった。保育所は増やしているし、遠方からも通えるよう転移魔法陣も各地に設置している。現在テスト段階だが、トラブルは起きていなかった。
複数回の転移で体調を崩した報告もない。順調なのだが、明らかに不足すると思われるのが赤子用品だった。ここは製造を担当する一族に大量生産の依頼が必要だ。魔王城で大量発注して保管し、必要な種族に配布する案が練られていた。
「ベビーベッド、玩具、おしゃぶり、おくるみ……安全柵、最後のこれは何だ?」
記された品物の中に、リリスを育てる時に使わなかった物がある。
「魔石付きの迷子首輪ですね」
「赤子に首輪をするのか」
なんだか可哀想な気がする。そう懸念するルシファーの前に並べられたのは、可愛いリボンタイプからしっかりした革製品まで数種類の首輪だった。
「迷子になったり、うっかり事故があった時の位置情報を確認できます。それから親や保護者がいる証拠にもなりますので、つけさせる方が安全です」
「なるほど」
考えられている。リボンタイプなら柔らかい肌の種族でも平気だし、魔獣なら走り回るので革製の方が取れにくいだろう。よく考えられた製品を手に取って確認する。ドラゴン種のように飛べる種族にとっては、我が子の行方探しは大騒ぎだった。その意味で、居場所を簡単に特定できるのは助かる。
「わかった。これらの品を大量に生産するよう指示してくれ。予備費が余ってただろ」
さらさらと支出の許可書類を作って押印し、ベールに手渡した。今日の仕事は一段落だ。リリスを探して、一緒に休憩しよう。
「魔王城の結界をすり抜けるのか」
「はい、魔法陣がまったく効かないようです」
報告するストラスが、赤紫の瞳をぱちりと瞬いた。金髪に近い茶髪は長くなり、後ろでひとつに結ばれている。イポスの婚約者であり、ルキフェルの研究所の優秀な研究員でもある。報告書の内容を暗記しているらしく、手にした書類を見ずに話し続けた。
「魔法に対しての抵抗は平均の範囲内、魔法陣で発動する魔術に対して異常な耐性を持っています」
奇妙なことだ。魔法も魔法陣も本来は同じ物のはず。だが発動状況により効果が異なるため、完全に同じとは言い切れない。その部分に反応するのだろう。今回魔王城に侵入できた理由がはっきりしたため、今後の研究は一応打ち切りとなる。気になる研究者がいれば、さらに深く研究するだろう。
「ご苦労さん、ところでイポスとの結婚式はどうするんだ?」
護衛のイポスが休んでいるのでちょうどいい。切り出されたストラスは、困ったような顔で肩を竦める。
「イポス嬢が、結婚式はしないと言うのです。相談しようにも父は寝ていますし」
寝ていると表現するのは可哀想だ。封印されているんだからな。アスタロト家の末息子であるストラスは、イポスの言葉が本心か分からず困惑しているらしい。
「そういう時の義父だろう。サタナキアと話をしてみろ」
「そう、ですね。話してみます!」
勢いよく出ていくストラスのために、サタナキアにも伝令を飛ばす。これで無事会えるだろう。おそらくイポスの性格からして「結婚後に何ヵ月も仕事を休めない」とか「ドレスなんて似合わない」と考えている。だが折角思い合っての結婚なのだから、着飾って欲しいと思った。それはドレスでなくてもいい。周囲に結婚を知らせるイベントは必要だった。
「陛下、ベビーラッシュへの対応策をまとめておきました」
「あ、ああ。必要だな、ありがとう」
ベールに差し出された提案書に苦笑いが浮かぶ。ずっと独身を貫いた魔王ルシファーが結婚する。敬愛する魔王の結婚に、周囲も一気に色づいた。結婚式があちこちで準備され、イザヤの恋愛小説のお陰で白いドレスや指輪も人気沸騰だ。
結婚式が増えれば、次は子どもが大量に産まれる。どの種族も子どもは大切な宝なのだが、同時に手がかかるのも事実だった。保育所は増やしているし、遠方からも通えるよう転移魔法陣も各地に設置している。現在テスト段階だが、トラブルは起きていなかった。
複数回の転移で体調を崩した報告もない。順調なのだが、明らかに不足すると思われるのが赤子用品だった。ここは製造を担当する一族に大量生産の依頼が必要だ。魔王城で大量発注して保管し、必要な種族に配布する案が練られていた。
「ベビーベッド、玩具、おしゃぶり、おくるみ……安全柵、最後のこれは何だ?」
記された品物の中に、リリスを育てる時に使わなかった物がある。
「魔石付きの迷子首輪ですね」
「赤子に首輪をするのか」
なんだか可哀想な気がする。そう懸念するルシファーの前に並べられたのは、可愛いリボンタイプからしっかりした革製品まで数種類の首輪だった。
「迷子になったり、うっかり事故があった時の位置情報を確認できます。それから親や保護者がいる証拠にもなりますので、つけさせる方が安全です」
「なるほど」
考えられている。リボンタイプなら柔らかい肌の種族でも平気だし、魔獣なら走り回るので革製の方が取れにくいだろう。よく考えられた製品を手に取って確認する。ドラゴン種のように飛べる種族にとっては、我が子の行方探しは大騒ぎだった。その意味で、居場所を簡単に特定できるのは助かる。
「わかった。これらの品を大量に生産するよう指示してくれ。予備費が余ってただろ」
さらさらと支出の許可書類を作って押印し、ベールに手渡した。今日の仕事は一段落だ。リリスを探して、一緒に休憩しよう。
20
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる