上 下
1,357 / 1,397
99章 変化し続ける世界の中で

1352. ちょっと庇いきれなかった

しおりを挟む
 すまん、アドキス。それは庇ってやれない。

 室内でアムドゥスキアスがやらかした騒動を聞いて、額を押さえた。気の毒そうな顔をするが、他の婚約者達も庇いきれないと溜め息を吐いた。

 少女達の説明によれば、このホールを使って彼女達は魔法による催し物の練習をしていた。これは当日まで秘密にする予定で、催し物の時間だけ確保している。内容は進行担当のベールにも話していなかった。その練習風景を覗きに入り込み、翡翠竜は捕まったのだ。怒られるのも当然だった。どうして結婚式まで待てないのか。

「わかった、きちんと反省させよう」

「お願いします。びしっとやっつけてください」

 反省させるのであって、戦うわけじゃないぞ? かつて戦って魔王城を半壊させたからな。翡翠竜と戦うと誤解されたら、オレも一緒に遠くへ捨てられそうだ。ベールもルキフェルも、あのベルゼビュートでさえ準備に飛び回っている。もうすぐアスタロトも休暇という名の強制収容から戻ってくるのだ。下手に騒ぎを起こしたら、結婚式当日まで棺に封印されそうな気がした。

 たぶん、気のせいじゃない。

「善処する」

 曖昧な返答と笑顔で誤魔化した。この部屋に集まっていたのは、少女達とその婚約者だ。一番最後に顔を出したのがルシファーだった。ルーシアはジンと腕を組み、シトリーはグシオンと指先を絡めて繋ぐ。ルーサルカは触れるかどうかの微妙な距離を空けてアベルと並び、レライエはむっとした顔で腕を組んだ。

 リリスが腕に絡みつき、愛らしい仕草に頬が緩む。

「ダンスの練習か?」

「違うのよ。ルシファー達と一緒に、何か披露できないかと思って」

 漠然とした表現に首を傾げる。披露するのなら、観客がいるのだろう。もしかして結婚式で何か劇でもしたいのか。

「前に見た花火みたいに、誰もが楽しめる魔法ってないかしら」

「ふむ……昼か夜かで変わるが、夜ならそれぞれの特技を使って花火を演出することも可能だな」

「どうしましょう」

 ルーサルカが考え込む。アベルは唸り、しばらくして思いついたらしい。

「全員でやる必要ないんじゃないっすか」

「アベル、普通に話せ。おかしくなってるぞ」

 敬語を混ぜようと中途半端に頑張った結果、何を言いたいのか伝わらない言語になってるぞ。指摘したルシファーに肩をすくめ、口調を直した。

「えっと、それぞれに時間を変えて演出したらいいんですよ。ルシファー様達を最後にして、俺らがそれぞれにカップルで考えた演出をする。どうですか」

「その方が無難か」

 全員の能力も魔力量も違いすぎる。ルーシアの水とグシオンの炎は正反対だし、リリスの得意な雷は危険だった。婚約者同士なら催し物の相談もしやすい。互いの能力を把握するのも、夫婦円満の秘訣だろう。

 少し扉の方を気にするレライエに、全員が気づいていた。あのアベルさえ「どうします?」と視線を送ってくるのに、レライエは知らん顔をする。意地っ張りなのだろうが、ほどほどにしないと拗らせてしまうか。年長者が助け舟を出すべきだ。

「レライエ、不満はあるだろうが……アドキスと相談しないと決まらないぞ」

 だから室内に入れて、相手をしてやれ。魔王としての言葉に、大公女である彼女は逆らえない。こうして命令のような形を取れば、仕方なく許したと体面も立つだろう。リリスがぐっとオレの腕を掴んで笑う。一礼して扉の方へ向かうレライエは素早かった。そんなに気になるなら、もっと早く許してやればいいものを。

 皆で気づかれないように目配せしあい、微笑ましい気分で見守る。抱っこされた翡翠竜は、蚊の鳴くような細い声で全員に謝った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 ウィルベル
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

ピンクの髪のオバサン異世界に行く

拓海のり
ファンタジー
私こと小柳江麻は美容院で間違えて染まったピンクの髪のまま死んで異世界に行ってしまった。異世界ではオバサンは要らないようで放流される。だが何と神様のロンダリングにより美少女に変身してしまったのだ。 このお話は若返って美少女になったオバサンが沢山のイケメンに囲まれる逆ハーレム物語……、でもなくて、冒険したり、学校で悪役令嬢を相手にお約束のヒロインになったりな、お話です。多分ハッピーエンドになる筈。すみません、十万字位になりそうなので長編にしました。カテゴリ変更しました。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました

ひとみん
恋愛
タイトル変更しました!旧「国王陛下の長い一日」です。書いているうちに、何かあわないな・・・と。 内容そのまんまのタイトルです(笑 「側妃を迎えたいと思うのだが」国王が言った。 「了承しました。では今この時から夫婦関係は終了という事でいいですね?」王妃が言った。 「え?」困惑する国王に彼女は一言。「結婚の条件に書いていますわよ」と誓約書を見せる。 其処には確かに書いていた。王妃が恋人を作る事も了承すると。 そして今更ながら国王は気付く。王妃を愛していると。 困惑する王妃の心を射止めるために頑張るヘタレ国王のお話しです。 ご都合主義のゆるゆる設定です。

処理中です...