1,349 / 1,397
98章 とんとん拍子に準備は進む
1344. 溺愛を棚に上げて説教してみた
しおりを挟む
結婚式での指輪交換を小説から学習したルシファーは、驚くべき速さで書類を処理した。アスタロトがいれば「やれば出来るのにどうしてサボるんでしょう」と溜め息をつくこと請け合いの速度で、すべての書類を片付ける。それから堂々と宣言した。
「ちょっと山に籠ってくる」
「「はぁ?」」
ルキフェルとベールが間抜けな声を出すが、ふふんと得意げな笑みを残してルシファーは消えた。今日は他に予定もないため、放置が決定する。ここで追いかけてもまた逃げられるだけ。書類は片付けたのだから今日くらいは自由にさせよう。それで気が済むなら安いものだ。
大公二人はある意味、ルシファーの厄介な性格を理解していた。ここで邪魔したが最後、驚異の記憶力で焼き付けたこの出来事を不満があるたびに持ち出すだろう。さっぱりあっけらかんとした部分と正反対の裏側を、付き合いの長い大公達はよく知っている。
「仕方ないよ」
「我々は何も知らなかったことにしましょう」
「そうだね」
切り替えの早いルキフェルとベールは頷きあい、処理が終わった書類を各部署に届ける手配をした。忙しく走り回るコボルトが一段落する頃、中庭から転移したルシファーが眉を寄せる。
「ピヨ、いつの間に」
転移魔法陣に飛び込まれたのだが、事故もなく到着した。運がいいのが半分、残りはルシファーの魔力調整の賜物だ。異物混入に気づいて、転移したと同時に安全策を講じたのだ。間に合わなければ、ピヨは千切れた鶏肉や青い羽毛の姿で到着しただろう。
尻尾を摘まんで逆さにしたピヨは、すでに大型犬サイズである。これでまだ人の1歳に満たない幼児なのだから、厄介この上ない。婚約者のアラエルがいないので、しっかり叱ることにした。あの鳳凰はピヨを甘やかし過ぎる。
「最低限のルールは守れ。ミンチになったら戻せないのだぞ? アラエルが甘やかすから、こんな我が侭に育つのか。まったくこれではまた火口に預けるしかないな」
リリスへの溺愛をしっかり棚に上げた魔王の説教に、ピヨは青い羽毛の下で青褪めた。アラエルもヤンもいない火口は、温度的には快適だが寂しい。一緒に寝てくれる親はいないし、同年代の遊び友達もいなかった。何より、おやつがもらえない。
「ごめんなさい、もうしません」
「よし。ならば供をせよ」
魔王の随伴として許可する。ピヨを空中へ放り投げると、器用に羽を広げてバランスを取って着地した。短い足でぺたぺた付いて来る鸞のヒナを従え、ルシファーは洞窟に足を踏み入れた。
ここならば多少の爆発騒動が起きても問題ない。ドワーフが鉱石を掘り出した硬い岩盤の奥深くで、何かを砕く激しい音が響いた。時々炎が噴き出し、山が揺れる。数時間にわたる異変に気付いた魔獣が数匹、偵察に訪れた。だが魔王の結界に阻まれ近づけない。
「ドワーフの採掘跡で異変? あ、ああ……ここね。問題ないわ、陛下の気配がするもの」
報告されたベルゼビュートは魔力を探って納得する。魔王ルシファーがいるなら緊急事態への対処も任せられる。そう告げて平然とする精霊女王だが、魔獣達は洞窟の異常に怯え切っていた。
半日もしないうちに洞窟は静まり返り……結界による妨害も消える。数匹が中の様子を見に入ったが、天井が焼け焦げていた程度だった。不思議なことに大量に地面に散らばる粉があり、その中からピンク・ダイアモンドが見つかったらしい。拾い上げた魔獣はそれを持ち帰った。
ドワーフの間で、閉山した採掘場からピンク・ダイアモンドが出ると噂になるのは数ヵ月後のことである。だがその後、どんなに掘り進めてもダイアモンドは出て来なかったとか。
*********************
★新作の宣伝です(o´-ω-)o)ペコッ
【聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~】
※ハッピーエンド確定、恋愛要素あり
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
「ちょっと山に籠ってくる」
「「はぁ?」」
ルキフェルとベールが間抜けな声を出すが、ふふんと得意げな笑みを残してルシファーは消えた。今日は他に予定もないため、放置が決定する。ここで追いかけてもまた逃げられるだけ。書類は片付けたのだから今日くらいは自由にさせよう。それで気が済むなら安いものだ。
大公二人はある意味、ルシファーの厄介な性格を理解していた。ここで邪魔したが最後、驚異の記憶力で焼き付けたこの出来事を不満があるたびに持ち出すだろう。さっぱりあっけらかんとした部分と正反対の裏側を、付き合いの長い大公達はよく知っている。
「仕方ないよ」
「我々は何も知らなかったことにしましょう」
「そうだね」
切り替えの早いルキフェルとベールは頷きあい、処理が終わった書類を各部署に届ける手配をした。忙しく走り回るコボルトが一段落する頃、中庭から転移したルシファーが眉を寄せる。
「ピヨ、いつの間に」
転移魔法陣に飛び込まれたのだが、事故もなく到着した。運がいいのが半分、残りはルシファーの魔力調整の賜物だ。異物混入に気づいて、転移したと同時に安全策を講じたのだ。間に合わなければ、ピヨは千切れた鶏肉や青い羽毛の姿で到着しただろう。
尻尾を摘まんで逆さにしたピヨは、すでに大型犬サイズである。これでまだ人の1歳に満たない幼児なのだから、厄介この上ない。婚約者のアラエルがいないので、しっかり叱ることにした。あの鳳凰はピヨを甘やかし過ぎる。
「最低限のルールは守れ。ミンチになったら戻せないのだぞ? アラエルが甘やかすから、こんな我が侭に育つのか。まったくこれではまた火口に預けるしかないな」
リリスへの溺愛をしっかり棚に上げた魔王の説教に、ピヨは青い羽毛の下で青褪めた。アラエルもヤンもいない火口は、温度的には快適だが寂しい。一緒に寝てくれる親はいないし、同年代の遊び友達もいなかった。何より、おやつがもらえない。
「ごめんなさい、もうしません」
「よし。ならば供をせよ」
魔王の随伴として許可する。ピヨを空中へ放り投げると、器用に羽を広げてバランスを取って着地した。短い足でぺたぺた付いて来る鸞のヒナを従え、ルシファーは洞窟に足を踏み入れた。
ここならば多少の爆発騒動が起きても問題ない。ドワーフが鉱石を掘り出した硬い岩盤の奥深くで、何かを砕く激しい音が響いた。時々炎が噴き出し、山が揺れる。数時間にわたる異変に気付いた魔獣が数匹、偵察に訪れた。だが魔王の結界に阻まれ近づけない。
「ドワーフの採掘跡で異変? あ、ああ……ここね。問題ないわ、陛下の気配がするもの」
報告されたベルゼビュートは魔力を探って納得する。魔王ルシファーがいるなら緊急事態への対処も任せられる。そう告げて平然とする精霊女王だが、魔獣達は洞窟の異常に怯え切っていた。
半日もしないうちに洞窟は静まり返り……結界による妨害も消える。数匹が中の様子を見に入ったが、天井が焼け焦げていた程度だった。不思議なことに大量に地面に散らばる粉があり、その中からピンク・ダイアモンドが見つかったらしい。拾い上げた魔獣はそれを持ち帰った。
ドワーフの間で、閉山した採掘場からピンク・ダイアモンドが出ると噂になるのは数ヵ月後のことである。だがその後、どんなに掘り進めてもダイアモンドは出て来なかったとか。
*********************
★新作の宣伝です(o´-ω-)o)ペコッ
【聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~】
※ハッピーエンド確定、恋愛要素あり
婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!
20
お気に入りに追加
4,927
あなたにおすすめの小説
勇者がアレなので小悪党なおじさんが女に転生されられました
ぽとりひょん
ファンタジー
熱中症で死んだ俺は、勇者が召喚される16年前へ転生させられる。16年で宮廷魔法士になって、アレな勇者を導かなくてはならない。俺はチートスキルを隠して魔法士に成り上がって行く。勇者が召喚されたら、魔法士としてパーティーに入り彼を導き魔王を倒すのだ。
【完結】お花畑ヒロインの義母でした〜連座はご勘弁!可愛い息子を連れて逃亡します〜
himahima
恋愛
夫が少女を連れ帰ってきた日、ここは前世で読んだweb小説の世界で、私はざまぁされるお花畑ヒロインの義母に転生したと気付く。
えっ?!遅くない!!せめてくそ旦那と結婚する10年前に思い出したかった…。
ざまぁされて取り潰される男爵家の泥舟に一緒に乗る気はありませんわ!
★恋愛ランキング入りしました!
読んでくれた皆様ありがとうございます。
連載希望のコメントをいただきましたので、
連載に向け準備中です。
*他サイトでも公開中
日間総合ランキング2位に入りました!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
呪われた子と、家族に捨てられたけど、実は神様に祝福されてます。
光子
ファンタジー
前世、神様の手違いにより、事故で間違って死んでしまった私は、転生した次の世界で、イージーモードで過ごせるように、特別な力を神様に授けられ、生まれ変わった。
ーーー筈が、この世界で、呪われていると差別されている紅い瞳を宿して産まれてきてしまい、まさかの、呪われた子と、家族に虐められるまさかのハードモード人生に…!
8歳で遂に森に捨てられた私ーーキリアは、そこで、同じく、呪われた紅い瞳の魔法使いと出会う。
同じ境遇の紅い瞳の魔法使い達に出会い、優しく暖かな生活を送れるようになったキリアは、紅い瞳の偏見を少しでも良くしたいと思うようになる。
実は神様の祝福である紅の瞳を持って産まれ、更には、神様から特別な力をさずけられたキリアの物語。
恋愛カテゴリーからファンタジーに変更しました。混乱させてしまい、すみません。
自由にゆるーく書いていますので、暖かい目で読んで下さると嬉しいです。
三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃
紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。
【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。
こちらの異世界で頑張ります
kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で
魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。
様々の事が起こり解決していく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる